リバース・ザ・ネメシス 天楽のカケラ
かつて無い程の終焉の足音が聞こえる。長く生きていると、どうしても余計な事ばかり考えてしまう。
地を這いやっとの思いで辿り着いた温もり……その力は弱々しく今にも消えてしまいそうだった。強く握り締め、込めた魔力を全て解放する。
「奇跡の光──アークキュアライト」
ユウセイの傷が少しずつ癒ていく。私はそれに安堵の表情を浮かべ口元を緩ませた。瞳を閉じ、頬を伝う暖かさに意識が薄れて行く。
我ながら愚かだな……こんな事しなくてもコイツが自分で治すのは分かってるのに、わざと魔力を消費させ抵抗力を失わせるのは眼に見えてるのに……。
「じゃあこれでお終いね、もどきは僕が連れて行くから後はよろしく」
掴んだ手は無情に指先をすり抜ける。
貴方が目覚める頃には傷は完全に癒るでしょう……もう“来るな”と無粋な事は言いません。いつまでも待っています。
貴方はきっと無茶をしますから、言いたいのはこれだけです。私を救い出し、強く抱きしめて下さい。共に有る証を私に下さい。
意識が落ちて行く。今度の夢は一体どんなものになるのだろう……願わくば、優しい記憶であってほしい────────。
──────戦場に立ち込める血の臭い。色濃い敗北の匂い。
幾度と無く繰り返して来た。年数にして億は超えている。それでも越えられない、必ずここでユウセイの命は尽きた。
「いい加減諦めて欲しいんだけど……君も往生際が悪いね?」
ため息を吐くタウラスにユウセイは何度も立ち上がり、その刃を振り上げる。カイトとヴィーナスが息絶え、戦場は血の匂いが充満していた。
唯一戦う事が出来る者、ユウセイが立ち上がる。
「俺はそれだけが取り柄だからな、演舞日ノ舞──烈火!」
ユウセイが踏み込み、剣の切っ先を何度も突き立てるも、欠伸をするように槍で左右に弾かれる。
傷だけの体で無理を繰り返し、挑むが力の差は明らかだった。
踏み込み時に刀身が大きく燃え上がり、刃を赤く染める。
「演舞日ノ舞──華炎!」
振り下ろす一撃を、タウラスは最小限の動きで右に重心を移動し、交わしてしまう。切っ先から炎の花が咲き、破裂するように燃え上がる。
「まあこんなもんだよね」
手で払うかのように掻き消し、鼻で笑うように息をする。そこに間髪入れずユウセイは踏み込んだ。
「演舞日ノ舞──火輪!」
振り下ろす刀身から切り離された火の輪を、手刀で叩き割ると、深いため息を吐く。
「飽きた……もっと違う技ないの?」
それでも諦めず、何度も何度も振るい続けるも、その場から動く事すらしない。挙句には剣の腹は拳で叩かれて、『パキン』と音を立て地面に突き刺さる。
「器にしようと思ったけど、ちょっと──いや、かなりお粗末な仕上がりだよね?」
気味の悪い笑みを浮かべ、思考を巡らせている。
私の脳裏に、かつての結末が何度も流れる。残酷な現実を変えると何度も誓った。真実に立ち向かい、この連鎖を終わらすと決めた覚悟さえ踏み躙られる。
「俺は諦めない、約束したからな……カグラに報いる為、俺は何度でも立ち上がる」
タウラスに折れた剣を突き立てる。それを鼻で笑い、ユウセイの腹部に超烈な蹴りが直撃する。
「が──は、ゴホゴホ!」
ユウセイは吹き飛び転がりうつ伏せで止まると、タウラスはゆっくりと歩を進める。
「思いでどうにかなるなら、僕たちは必要無いんだよ。間違った歴史を修正するのが僕たちの仕事なら、英雄は希望を与えるだけでいい」
辿り着くと頭を踏みつける。力加減を調整して、気絶しないように弄びながら、意地の悪い笑みを浮かべた。
「理から外れた愚か者を粛清するのも役目だ。器にならないなら壊すが道理さ」
私は我慢が出来ず、飛び出して足を押さえる。それに対して、タウラスは眉をしかめた。
「そこまでは必要無いはずです。これ以上は私も看過出来ません」
そこまで言い終えた時、私の視界は宙を舞った。殴り飛ばされたと理解した時、地を転がり回る。
「邪魔だからそこで見てろよ……我慢してた分、収まりが効かないってもんだ」
口元を吊り上げると、足を上げ背中に振り下ろす。
咄嗟に体が動いた……ユウセイとの間に入り込み、背中に強い痛みが走る。
「──駄目です、やめてください」
「何勝手な真似してんだよ! ああ? コイツはもう用済みだ。どうしようと僕の勝手なんだよ!!」
私も馬鹿だな……ユウセイが死ねば時間を巻き戻して、全てが無かったことになるのにこんな無意味な真似をして、ユウセイが余計に苦しむだけだと分かってるのに……。
「止めろ……ルナに手を出すなよタウラス」
「知るかよ! コイツが僕の邪魔をしてるんだろうが! さっさと退けよ!!」
私は言うことを聞かず、強くユウセイを抱きしめる。それにタウラスは苛立ちを強め、取り出した牛頭槍を突き立てる。
「最後の忠告だ──立場を利用してこれ以上癇癪を起こすならそいつは殺す」
「駄目……いやいやいやいやーー!!」
震える手が止まらない、慟哭に飲まれる思考も、訳も分からず縋り付く。
ああ次で最後だっけ?
もう神力も殆ど残って無い。
でも次に何を期待しろと言うのだろうか?
いっその事このまま────?
タウラスが突き刺す瞬間私は突き飛ばされた。視線の先では、ユウセイの腹部に槍が深々と突き刺さる。
「何だよやれば出来るじゃないか、それでいいんだよ」
ヘラヘラと笑うタウラスをユウセイは無視した。
「終わら無い────世界を冒涜するな」
ユウセイにヒビが入り、指先から崩れ落ちて行く。それを見守る事しか出来ない。
なんだろう……ユウセイが口をパクパクと動かし、何かを伝えようとしている? 私は咄嗟に手を差し出し、砕け散るユウセイに飛び込む。
「時を司る神の指針、戻り巡りて永遠の、旅路の果てに終焉を……リバース・クロノス!」
巻き戻る時間の中、崩れ落ちた粒子は私の中へと一気に流れこんだ。
「な!? なんだこの現象は、何が起こっている!」
タウラスは目を見開き、手を伸ばすも弾かれ、分断された刻の壁は越える事は叶わない。
今までとは何かが違う事が起ころうとしている。初めて過去と未来が繋がり、現在に未知の変革をもたらす。
もう金輪際戻る事は叶わない、現実を変え、残酷な真実さえ喰う導きの星に出会う物語……救世の歌が世界に鳴り響く──────。
────最後の記憶はこんなだったな。
楔は打ち込まれた。後はユウセイがそれを掴めるかどうかだけ……深くなる眠りの中、ただ信じその瞬間を静かに待つ。




