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終わりなき戦禍

 かけらを手に入れた事により、俺の脳内に膨大な情報が流れ込む。その情報量に頭痛が起こり、僅かに顔を歪めた。


 前の情報は知っていたものも多かったが、今回は知らない事が殆どだな……何より、これはまずいかも知れない。


「ユウセイ……大丈夫ですの?」


 視線を向けると、不安そうな顔でヴィーナスが見詰める。


 俺は口元を緩ませ、出来る限りに無事を伝えると、ルナたちが近寄ってきた。


「私たちの居場所がバレたようです」


 その顔は暗い、ヴィーナスを倒した時かカイトを吹き飛ばした時か……いや、今は早く逃げることが先決だ。


 俺たちが手早く纏め上げると、ヴィーナスは理解できないと言った様子で口を開く。


「どう言う事ですの……状況が飲み込めませんのよ?」


「説明してる暇はありませんよ。貴方も早く乗りなさい!」


「ちょっと、いきなり過ぎませんこと!?」


 俺はヴィーナスを抱え上げ、ソウルの背中に乗せる。飛び立つ前に周囲を確認する。


 周りに奴はいない……早く逃げよう。


「ソウル準備はいいぞーー」


「ーーすまぬ……それは無理だ」


 予想外の返答に、その視線の先を見つめる。


「おやおや、少し見ない間に力を上げたね……ヴィーナスのかけらは無事に手に入れたようだ」


 口元を緩ませゆっくりとこちらに歩を進める。その視線はアルテミスを捉えた。


「渡しません……帰りなさい!」


「渡さないでは無いんだ。連れて行くだけ、あくまで決定事項だよ」


 話終わる前にタウラスは地を蹴り上げ、常軌を逸した踏み込みを見せる。俺以外誰も反応できていない。


「ソウル飛べ、一刻も早くここから離れろ!」


 飛び降り、剣を突き立てる。力の限り踏み出し、闘気を乗せる。


「タウラス……やらせはしないぞ!」


「おやおやその心配はいら無いよ。器はそれ以上でもそれ以下でも無いからね」


 剣と槍の刀身が擦れ合い火花を散らせる。タウラスはぴくりと眉を吊り上げ、俺の左手に視線を落とす。


「分かってるかは知らないが、かけらを全部集めなめれば僕には届かないよ?」


「ありがたいご忠告と言いたいところだが、敵の言葉を鵜呑みにすると思うか?」 


 即座に否定する。さっき知ったことだ……完全覚醒こそが、“異物”たちと戦う最低条件だった。


「どうなっても知らんぞ!」


「待ってください、ユウセイを置いていけません」


 ソウルが飛び立って行く……これで最後の希望は、カイトがここに戻ってくる事しか無い。自業自得とは言え、自身の他力本願に苛立つ。


 俺は剣を強く握りしめ、タウラスを押し返す。


 一歩を踏み込み右から斬り込むと槍の柄で弾かれ、左から斬り上げると切っ先を落とし押し返される。タウラスが流れるように下段に柄を振り払うと、俺は飛び上がり腹部へ両足を突き出す。


 めりめりと音を立てタウラスは吹き飛び、柄を地面に突き立て態勢を立て直し着地する。


 俺は左手に多くの魔力を集中して、手の平を向ける。


「貫け……フレイムアロー!!」


 炎の矢が次々と出現し、雨のように降り注ぐ。


「守れ……ライトプロテクト」


 タウラスは平然と立ち尽くし、その全てを受ける。降り注いだであろう無数の矢は、撃ち尽くされ、防壁が解除される。


「本当にカケラが3つかよ? もしくは勇気の神託の力ってとこか」


「そんな余裕綽々(よゆうしゃくしゃく)で戦われても、説得力に欠ける」


 常軌を逸した戦闘力……差が詰まっている感覚が無い。いまだに底を見せない力に、心底嫌になる。


 刀身が月の光を吸い込む。淡い光が幻想的に散らばり斬り掛かる。


「演舞月ノ舞…… 月光花(げっこうか)!」


 刀身が柄で受け止められ、月の花が開く。飛ぶように後ろに下がると、槍を突き立て、瞬きの間に俺の眼前に踏み込む。


 2本の剣で滑らし、火花が散る。切っ先にが頬をかすり、何とか抑えると力の限り弾き飛ばす。


 たったこれだけの攻防で息が大きく上がる。嫌な気配が背筋を這い回り、流れる闘気が僅かに乱れてしまう。


「いい反応だね、完品で持ち帰りたかったけど、少々削る事も止む無しかなぁ」

 

 ペロリと舌を出し、品定めするような視線を俺の四肢に向ける。


 左手に刀に切っ先に、闘気を練り上げ濁流のように流れ込む。収まり切らずに溢れた闘気が大気をチリチリと焼き、地面を全力で蹴り上げた。


「演舞日ノ神楽……廻り導く日ノ神楽、神をも喰らう雌伏(しふく)の刃!!薄刃陽炎(うすばかげろう)天照(あまてらす)”」


 振り上げた一撃はタウラスに届く事はなかった。


 俺の体は血を吹き出し、無惨にも転げ回る。闘気は漏れ出て、演舞は不発に終わり、夜空を見上げる形で止まった。


 それを呆れるように見詰め、タウラスは口を開く。


「ああそれは駄目だよ……双星ってのは円環を力としてるのに、片寄った廻し方をしたら血管が破裂してしまうに決まってるだろ?」


 片寄った……日ノ舞ばかり力を強め、俺の体には大きな負担がかかっていたと言うのか?


 指先を動かそうにも力が入らない、微動だにしない眼を向けるのがやっとだ。


「無理が祟ったんだよ。強すぎる力には代償が伴う……弁えるべきだった」


 救うんだ……全部……世界を、何もかも、カグラとルナとの約束なんだ。ここで動かなかったら、俺はあの時と変わらない。


 その時だった。足音が近付き、タウラスが視線を向ける。


「やあ、待っていたよ()()()()


 俺は目を見開く、視線をその先に向け、そこにはボロボロのルナを抱えるプルートがいた。


「……ルナを、返せ」


 蚊の鳴くよなう声を絞り出しすも、それは夜空の風に流され、届きはしない。


「ヒハハッハアハハ! そこに転がっているのはユウセイですか? 随分と愉快な状況ですね♪」


 何がおかしいのか、倒れる俺に視線を向け、大きく腹を抱える。挑発的に大袈裟に振る舞い、煽っているようだった。


「ご苦労だったね、後は終わりかけてる戦争を再燃させてくれればいい」


 プルートがルナを無造作に投げ捨て、その衝撃で目を覚ました。


「ユウセイ……今助けます」


 そう囁くと、うつ伏せで体を引き摺りながら此方に近付く。


「ほらほらもう少しですよ。頑張って下さい♪」


 馬鹿にするような応援を繰り返し、煽り立てる。その間もルナは必死に体を引き摺り、俺の目指す。


「大丈です……ユウセイは死なせませんよ……私が、何とかしますから」


 涙と血で顔はドロドロに汚れ、それでも必死に前に進み続ける。


 頼む……もう辞めてくれ、お前まで死んでしまう。それだけは絶対に受け入れられ無い。


 やがて俺とルナの手と手が重なり合う。強く握りしめ、込められた魔力が解放される。


「奇跡の光……アークキュアライト」


 俺の体が光に包まれる。ゆっくりと傷が癒えて行き、死が遠のいて行くのが感じられた。


「じゃあこれでお終いね、もどきは僕が連れて行くから後はよろしく」


 回復魔法を終えると、ルナの意識が落ちて行く。タウラスはそれを見届け、抱え上げる。


「ではユウセイ……また会いましょう♪」


 プルートはそう言い残し、立ち去っていった。


 ヴィーナスの持っていたかけらには、英雄たちの情報があった。その中に、“冥府”の情報は無い。奴は英雄では無かった……初めから、敵側だったんだ。


 暖かい光の中、俺の意識も遠のく。ルナの身を案じながら、闇の中へと落ちていった。

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