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星のワルツ

 あれから大分時間が経ち、俺はやっと森を抜ける事ができた。


 日が差し込み長い夜が終わりを告げ、清々しい朝を迎える。草原に出た所で辺りを見渡すと小さな村を見つけ、そこを目指す事にした。


 本当は草原で朝食を摂っても良かったが、ネメシスがいるので空腹を我慢し歩き出す。眠気もあり、着いたら少し休憩したい所だな。


「起こすのは……流石にかわいそうだな」


「やはり私の身体が目的だったのですねーー……ん」


 ん? 俺は口を開いた主の方へ首を回す。スヤスヤと気持ちよさそうにしているが、段々と苛立ちが増してくる。


 あーーあれだな、全然かわいそうじゃない気がする。


 剣の誓いとかカッコつけてしまった手前気が引けるが、バレなきゃ良いよな?少しぐらい小突いたって良いはずだ。俺にはその権利があると思う。


「ーーごめんなさい、もう一人は……嫌です」


 背中ら熱い液体が染み込んでくるのを感じる。震えが伝わる。強く手が握られる。俺がその小さな手を握ると、震えは治った。


 俺もバカだな……“誓い”の言葉が、そんな軽い物であるはずがないだろうに。


「そこの旅の男ーー!! そこで止まれーー!!」


 遠方の声により俺の行動は遮られた。特に残念とかはない……冗談だ。


 にしても、村までは結構距離があると思ったが……やけに警戒がキツイな。俺は声の主を遠目で確認。男が4人……村の入り口を守っている。


「分かったーー!! 俺はユウセイだ!! 戦いの意思はない。この村で食事付きの宿を取りたい!!」


 俺の返事に男たちは何やら合図をし、1人が村の中に消えていった。村長に許可を取りに行ったのだろうが、拒否は無いと思いたい。そうなると完全に野宿だし、ネメシスを休ませてやれそうに無い。


 そう考えているうちに槍など武器を持った男たちが3人近づいていた。やはり警戒が強いと言うか、なんと言うか……。


「少し待て今確認をとっている。お前達は冒険者か?」


 体格の良い男が話しかけてきた。とりあえず、自己紹介だな。


「俺がユウセイでコイツがルナだ。冒険者じゃ無い」


 反射的に偽名を答えてしまったが大丈夫だろうか? 流石に女神の本名は不味い気がするから、大丈夫だと願いたい。男達はジロジロとネメシスに視線を移しては離してを繰り返している。


 ーーなるほど。


 大体察しがつくあたり、俺も同類なのかもしれない。見た目だけは美人そのもので、さっきみたいに、余計な事を言わなければ間違いはない。


 本人に意識が無いのが幸いか不幸か、そういった輩はどこにでも居るな。しかしなるべく目立つのは避けたい。


 考え事をしているとさっきの男が近づいてきた。


「俺は案内を務めるハクだ。入れ、宿屋は無いが、泊まれる場所まで連れて行く。後それから、お前らは帰れ」


 意外な話に少し感心を覚える。ハク……思った以上に良いやつかもしれない。まあ、早計かもしれないが、他のやつよりは違うと思いたい。


「何でだよ? 少しぐらい良いじゃねーか」


「そーだそーだ。横暴だ」


 ハクが頭を抱えるように、二人に話しかける。


「勘弁してくれ……そんなだから田舎者と馬鹿にされるんだよ」


 ため息混じりに2人をなだめる。周りにいた男達は文句を言いながらも散り散りに去って行き、俺たちだけになった。


「色々と感謝する」


 俺は素直に感謝を表明した。抱えたままの面倒事は骨が折れる。


「おー、悪かったな。田舎者の無礼と流してくれると助かる」


 許すのは俺じゃ無いんでネメシスに謝って欲しい所だな。まあハクが悪いわけでも無いし、それも妙な話ではあるか。


「それにしてもユウセイの神託は変わった紋様をしてるな……初めて見る」


 ハクが横目で神託を観察していた。俺はその話に一瞬頭を悩ますも、正解がわからず……適当に答える。


「そうか?俺の住んでいた所だと結構居たぞ」


 特別なんて事で印象に残られても不味そうだ。適当な嘘で何とかなりそうなので誤魔化しておくか……大丈夫だよな。


 それよりも話を逸らすのが無難か?掘り下げられてもボロが出るのは目に見えている。


「そう言えば村長に挨拶がしたい。取り持ってくれるだろうか?」


 結果話を逸らすことにした。それに対して、ハクは感心したように答える。


「おうおう律儀だねえ、まあ彼女が目覚めたら言ってくれ。話は通しとくよ」


 何だかなあ……神託があるのと無いのでは、人の対応が天と地ほどの差があるのは、仕方がない事なんだろう。

 

 通りすがる子供はキチンと挨拶してくれるし、昔は子供に石投げられたな……不吉の象徴か、何か意味があるののだろうか?どちらにしても気持ちの良いものではない。


「よし着いたぜ。飯はどうする?」


 ハクから提案が投げかけられるも教会が俺の目に入る。


「朝は手持ちで何とかなりそうだから、昼頃になったら世話になる」


 全て世話になるのは流石に悪い。


「そうか……なら迎えに来る。太陽が頭上に来た頃来るからな」


 ハクを見送り、仮眠の為の準備を始める。窓が少なく不便そうな家だが、部屋を暗くしたい俺たちにはちょうど良い。とりあえず湯を沸かしておくか。


 水を鍋に入れ、火の魔法を指先から少量……薪に近づけ、火にかける。


 にしても、こんな村にも立派な教会建っているとはな……俺は外を覗きこむ。初めに見た時には焦ったが、神託があれば害される事はないし、気にしても始まらないか。先ほどの光景を思い出す。


 ーーなどと考えているとネメシスに動きがあった。


「ふあー……ユウセイ? ここはどこですか?」


「目を覚ましたか、草原に出た所でいい村を見つけた」


 俺は背中越しに答え、せっせと準備に勤しむ。


「目を覚ました?神は食事睡眠を必要としないはず……力を使い切った弊害(へいがい)がこんなところにも?しかし寝れない訳ではありませんし、娯楽としての食事も……」


 ネメシスは目覚めの頭で色々と分析し始めるも、当然答えなど出るはずもない。


 俺はその間に湯を沸かしていたところに干したキノコと干し肉を加え出汁が出るように軽く煮込む。あとは干した数種類の野菜を加えて、塩で味付けをして完成だ。


 しかし調理用のスペースがあるなら、尚更窓が欲しいところだが……本当に考えすぎか?


「コレでも飲んで一旦落ち着け。乾パンもあるから、噛みちぎれなかったらスープで戻すと良い」


 俺はさっと器に盛り、パンとスープを差し出す。腹が減ってはなんとやら……まずは腹ごしらえだ。ネメシスに手渡す。


「はい?ありがとうございます。あ、コレ美味しいですね」


 ネメシスはスープをすすり、ゆっくりと飲み込む。問題はなさそうだ。ソレを確認し、俺も食事を進める。


「口に合ったようなら何よりだ。神様は何を食うか分からないからな」


 反応は薄いもののしっかりと食は進んでいるようなので、お世辞と言うわけでは無いらしい。腹を満したら色々聞きたい事があるし、寝るのはまだまだ先になりそうだな。


 そのあとは余計な口は挟まず。食事を進める。


「食べ終わって早々悪いんだが、白銀の亡霊ってのはあんたで良いのか?」


 俺は食器を片付けながら、思っていた事を口にした。


「そんな呼ばれ方されていたのですか。最近だと半透明に見えていたでしょうから合っていると思いますよ」


 その返答で、思わぬ事形で今回の依頼が達成された。いや、達成と言えるのか?しかしそんなことは二の次、俺は次の言葉で確認をとる。


「詰まり今の状態から察するに、力が完全なら視覚出来ないって事か?」


「どちらかと言えば、干渉できないって感じですね。二次元がどれだけ頑張ろうと、三次元には干渉できないように、ユウセイ達からは何もできませんでした」


 ネメシスは淡々と語るも、感情を表に出さないだけで何も感じないわけではない。百年間の孤独とは、一体どれほどのものだったのだろうか? 少なくとも俺なら、気がおかしくなり正常では居られないだろう。


 それと同時に、彼女を突き動かす物とは、何なのだろうか? 興味本位などでは無く。それこそ自らの体を捧げるとまで言った彼女の覚悟の正体を、純粋に知りたいと思った。


「もっとも勇者や魔王はその限りでないのですが、私達に協力的な方ばかりでは無いので……捕まってその後が分からない者達も多々います」


 ル……ネメシスの話からするに、神は複数か?


 そこまでしたら、血が出るのではないかと言うほど拳を強く握り締める。ネメシスの体は震え、無念さが伺える。


 ソレがまかり通る時点で世界の歯車が狂ってしまっている事は想像に難くないか……。


「魔王ならいざ知らず、勇者までもか?」


 俺は思う。勇者が協力的でないと言うのも妙な話だ。


「それには彼らのいや……神託とは名ばかりの隷属印が原因となっています」


 ーー隷属印……ネメシスの言葉で、神託を与えられた時のことを思い出す。そう言えばそんなことを……そこで俺は重要な事を思い出す。


「待ってくれ、なら俺のコレも隷属印になるのか?」


 それが本当なら笑えない話だが、こんな話をする以上それは無いと考える。ただ隷属印とやらが何処までの効力があるのかが疑問だ。


「あ……すみません。ユウセイの印は正式な神託です。もちろん行動や発言を縛る効果はないので安心してください」


 焦るようにネメシスは訂正を入れる。疑う理由もないので、俺はソレを素直に受け入れる。


「分かった信じよう」


「私が言うのも何ですが、疑わないのですか?」


 そこに疑う理由はなく、隷属させるくらいなら見殺しにした方がいいのは目に見えている。


「俺はルナを信じると決めた。少なくとも俺に何もしてくれない何処ぞの神よりは信用できるな」


 そこは間違いない。俺は自信を持って断言した。


「……」


  お互いに謎の沈黙が流れる。何か反応してくれないと俺も気まずいのだが、不思議そうに俺を見てる? で良いんだよな? 無表情なせいでいまいち自信が持てない。その内にルナが口を開く。


「あの……ルナとは誰のことでしょうか?」


「そこか……? いやすまない、アンタの実名は不味いと思って村の奴らにそう答えた。アンタと出会った時の月がどうにも印象的だったんだ」


 そこまで言うと俺は自分の発言を思い出す。ハクたちに咄嗟に答えた偽名だったな。何気なく口にした言葉だったが、思わぬ表情の変化に俺は釘付けになった。


「とても、いい名前だと思います。それならばこのまま使わせて頂きましょう」


 緩む口元と暖かな微笑み。少々不慣れな感じはするものの、それは紛れも無い笑顔だった。なんだ……ちゃんと笑えるじゃないか。


「何がおかしいのでしょうか?」


 ルナに指摘され、自身の表情が緩んでいることに気付く。ソレをよく思わなかったのか?俺は何か言わねばと、言葉を繋ぐ。


「……いやそう言う訳では」


 俺はたまらず目が泳ぐ。なんで言い訳みたいになってるんだ?


 う……俺が笑った事をどんな意味に捉えたは分からないが、再び無表情に戻ってしまった。俺も言葉に詰まってしまい、居た堪れない気持ちになる。


「話を戻します。今を語るには過去を、()()()()()について語らねばならないでしょう」


 ルナの口から何かが語られる。星のワルツ……星達の踊りとかそんな意味合いなんだろうが、何を意味する?


「かつて神々が誕生する遥か昔……八つの星を導いた最古の神話。導きの双星が紡いだ物語をあなたにお話しします」


 

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