表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
89/325

新しい景色

 崩れ落ちる領域の中、俺は無防備に落下するヴィーナスを受け止める。意識は、はっきりとし顔を両手で覆い、嗚咽(おえつ)と共に、落ちたギターが二つに切断される。


 左手の神託が燻ると、燃え上がり、新たな形へと変化する。俺は眼を見開いた。


 ーーおかしいとは思っていた。辻妻が合わない理由として、ヴィーナスは反転魔王(・・・・)だった。妹のプリエールの言った通り、憎悪で無く愛情……それこそが、真の姿だ。


「何で……トドメを刺さないのよ」


 悲痛なほど(かす)れた声で、ヴィーナスは嘆く。


「お前は敵じゃない、俺たちの仲間だ」


「綺麗事が聞きたい訳では無いのよ……貴方は、私を(はずかし)めたいの?」


 トーンを落とし、震えた声を絞り出す。


 この後の末路を気にしているのか、悲観的な想像が頭を巡っているように思う。どう取り繕ったものか……かける言葉を選びながら、思考は堂々めくりを迎える。

 

「俺がどんな手を使っても、そんな事は阻止する」


 俺が強めに答えると、少しだけ震えが治った。手を顔から離し、ゆっくりとこちらを見つめる。


「もう全部終わりですのよ……(わたくし)は敗北を宣言しますの。野望は潰え、責任だけが残りましたわ」


 いかにも魔王らしい野望という言い回しを使うも、目的は察しが付いた。プリエールの復讐は終わっていない、だがその終焉を意味する。


 鼻を啜り夜空を見上げて、その心境は何を思うのだろうか? 


「変に背伸びしなくていい、辛い時は本当に苦しいんだ。そこに種族の壁も何も無い……泣き言は全部吐き捨てて、少しだけ軽くなったらまた進むんだ」


 瞳を揺らし、ヴィーナスは顔を塞ぎ込んだ。


「私は傷心中ですのよ? 道なんて、とっくに失ってますわ」 


「俺は導きの双星だぞ? 道に迷ったなら、いくらでも照らす。それくらいの甲斐性(かいしょう)はある」


 ヴィーナスの神託が少しだけ光る。腕を握り締め、埋めた顔を起こそうとはしない。


「口説いてますの? 下らない話は辞めて下さるかしら」


「そう取ってもらってもいい、俺にはヴィーナスが必要だ」


 ビクンッと体を揺らすと、体を小刻みに揺らす。それの合わせるように、神託の光も強弱を繰り返す。


「く、くくく……はは、はははは」


 その様子おかしくて、思わず笑いがこぼれ落ちた。


 それが気に入らなかったらしく、顔を起こして耳まで赤く染め上げる。


「な、何がおかしいのよ! ユ、ユウセイ……失礼な男だわ」


 呂律(ろれつ)が回らず、大きく取り乱す。


 ここまで笑ったのはいつ以来だろうか? きっと前世の記憶まで遡る。それくらいの事だった。


「ありがとう……少しだけ、元気が出たよ」


 俺の返答を不思議そうに見つめる。


「貴方は本当に変な男ですわね……」


 ため息を吐くように、口元を緩まし、俺の腕の中から飛び降りる。


「もう十分ですのよ、これ以上借りを作りたくありませんもの」

 

 やがて全ての領域が消えると、視線の先にルナとソウルが見えた。俺は軽く手を上げ答える。ルナはふらつき、力の限り口を開いた。 


「ユウセイ後ろです!!」


 緊迫した表情で、ルナが叫ぶ。俺が後ろを振り向くと、カイトが剣を振り上げる。


「カイトおおおおーーーー!!」


 俺が振り上げた剣がぶつかり合う。鍔迫り合いに移行し、高い金属音と共に空気中にまで放出された闘気が火花を散らす。


「ヴィーナスは殺す……それ以外でこの戦争は終わらん」


 喉を鳴らすと、ヴィーナスは苦しそうに瞳を揺らした。分かっていたことだけに、その現実は重い。


「お前は正しい……だから大きく間違う」


 俺はカイトを睨み返す。


「世界を救うにはヴィーナスの力が必要だ! それは変わらない!!」


 カイトの押し込む力が強まる。敵意を露わにし、罵るように口を開いた。


「世界が滅ぶ前に国が滅ぶ、剣を引け……“部外者”」


 言葉が重く突き刺さる。その程度の認識しか持たれていない事実に、先程とは違う笑いが込み上げる。


「世界も国も全部救う……いや、導く!!」


 全身から力が溢れ出す。地面を強く踏み締め、カイトを弾き飛ばす。眉を吊り上げ、引き摺るように着地すると、眼を細め口を開いた。


「明らかに力が増しているな、これが双星の力かーー」


 大剣から闘気が渦を巻き始め、噴き出す。


 負けるつもりなど微塵もない、ただ派手に暴れすぎた。タウラスが俺たちに気付き、ここに向かっている可能性が高い……一刻も早く移動する必要がある。


「演舞海ノ舞……断流(だんりゅう)(さざなみ)!」


 カイトが大剣を振ると同時に、幾重にも重なる斬撃が襲いかかる。


 俺はそれに合わせ、振り上げると刀身に蓄えられた闘気が、淡い光を放つ。月夜に導かれるように光が満ち、緩やかな景色の中で、調を奏でるように刻は移ろいで行く。


「演舞月ノ舞……月華絢爛(げっかけんらん)!」


 差し込む月明かりは、斬撃を斬り裂き、カイトに襲いかかるが、後方へと飛び、難なく交わした。


 この程度でどうにかなるとは思っていない。俺は大地を蹴り上げ、カイトへと直進する。


「燃やせ、ファイアーボール!」


 100に匹敵するほどの炎弾を生み出し、次々とカイトに飛ばす。すると横に走り出し、大剣で弾きながら、その先にはヴィーナスがいた。


「それが狙いかカイトーー!!」


 俺が炎弾全てで道を塞ぐように放つと、土煙を突き破り、カイトが飛びかかる。刀身には闘気が宿り、強力な一撃を振り翳す。


「演舞海ノ舞……渦潮波狼(うずしおはろう)!」


 刀身に纏った渦が、放たれ俺を飲み込んでいく。


 初めから俺が狙いか、ヴィーナスを囮にし、まんまと作戦にハマってしまった。


 闘気を練り上げ、刀身が月夜に光り輝く。


「演舞月ノ舞…… 花鳥風月(かちょうふうげつ)!」


 水滴の音がこだまし、世界は静寂に包まれる。全ての音は遮断され、時が凍りつき、風に舞う花びらと小鳥たちが渦を包み込んで行く。渦は相殺され、水面に写る月の中にゆっくりと引き摺り込む。


 俺は剣を引き突き立て、闘気を練り上げて行く。


 届かすは新たな境地……その先の先の先へ、限界を超えし光の一閃。


「演舞日ノ神楽……烈火旭(れっかあさひ)八咫烏(やたがらす)”!」


 何度も切っ先を突き出し、燃え盛る刀身を眼にも止まらぬ速度で繰り出す。


 カイトは剣を振り上げ、切っ先に向かい龍が登るように闘気が遡る。


「演舞海ノ舞……大津波黒潮黒龍(くろしおこくりゅう)!」


 全てを飲み込むように、龍が炎をかき消して行く。俺はさらに力を、回転を上げる。


「もう……何一つとして世界にくれてやるつもりは無い!」


 光が差し込むように、3つの旭が同時に差し込む。龍は一瞬で貫かれた。 


「そんなバカな!?」


 カイトは驚愕し、刀身を盾に構えると、直撃と同時に大きく後ろに引き摺られる。


「いっっけええええーーーー!!」


 刀身を覆っていた物にヒビが入っていく。砕けけると同時に、カイトの体が宙に浮き口を開く。


「うおおおおーーーー!!」

 

 俺は一歩踏み込む。力の限り突き出し、それと同時にカイトは音速を突き破り、地平線へと消えていった。


 それを見ていたルナとソウル、ヴィーナスが固まった。


「呆けてる場合じゃな無い、早く移動しよう」


 まだ本当の意味で救った訳じゃ無い。早く戦争の終焉を伝え、終わらせる。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ