何度でも高く舞い上がる
踏み込みにより地を蹴り上げる。俺は魔力を左手に集中して、刀の切っ先を突き立てた。
「燃やせ、ファイアーボール!」
宙に20個を超える炎弾が出現し、次々にヴィーナスに襲いかかる。
左に走りながら翼を広げ、飛び立つと同時に左に右に上に下、翻弄するように飛び回る。尽くがかわされ、土煙を上げて行く。
ギターを強く握り締め弦を指で弾き、波打つ音が戦場に響いた。
「演舞金ノ舞……波動の民謡曲!」
音が空気を伝わり、衝撃波が刀身にぶつかる。
俺は弾かれそうになる手をしっかりと握りる。闘気を練り上げ、ヴィーナスに向かい一直線に走り出す。動きに追従し、刀身の闘気を解放した。
「演舞月ノ舞……朧月」
淡い光の中に存在が曖昧になり、俺を狙った衝撃が地面に落ちて行く。
「本当に奇怪な演舞ですこと……」
煩わしそうな表情で弦に手を触れ、異なる旋律を奏でる。
「演舞金ノ舞……騒音の不破曲!」
周囲に影響が無く音が鳴り響き、やがて耳を押さえたくなるような不快な音が届く。
鉄を引っ掻くような高音に、後ずさり、演舞が解けた。
「どうですの? 集中力を乱し、演舞を無力化する力ですのよ」
口角を吊り上げ、見透かしたように笑う。
これは良く無い……ヴィーナスは、精神系などにも攻撃手段を持つ厄介な演舞を使う。音を無力化する手段がない限り、際限なく攻撃をくらってしまう。
俺が悩む間にも弦を弾き、飛来しながら演舞を奏でる。
「演舞金ノ舞……軍歌の侵攻曲!」
重い音が重なり、重厚へと変化して行く。ぶつかる衝撃は、炸裂音と共に炎上し、爆風が視界を遮る。
俺は刀身を突き立て後ろに引くと、切っ先に闘気を集中させる。
「見えぬのなら、全部撃ち落とすまでだ。演舞日ノ舞……烈火!」
闘気を燃え上がらせ、何度も切っ先を突き出す。
「ふふふ間抜けですわね、無駄に体力を消耗し……勝手に力尽きるといいですわ」
空中で無数の爆発が起こり、煙が視界を遮る。
ゆっくりと後退し、前回のような反撃は与えないと言わんばかりに、その光景を嘲笑う。
「確かにそうかも知れない……だが、これでいい!」
俺の発言を不可思議に見つめる。演奏は止めず、警戒は怠ら無いように身構えた。
やがて爆煙が広がり、視界の半分を覆う頃……吹き飛ばすような力の流れが見え始める。
俺は口元を緩ませ、一気に地面を蹴り上げた。
「まさか……これを狙ってーー」
弦を弾き衝撃の数を増やして行く。
俺は切っ先を何度も突き出し、流れに向かい的確に誘発させる。
闘気が俺の体を満たし、共鳴した神託に導かれ、燃え上がるように変化が訪れた。それと同時に、爆炎の位置が段々とヴィーナスに近づいて行く。
それを危機と感じたのか、後ろに大きく後退する。
「演舞日ノ神楽……烈火旭!」
最後の一撃が空を突き破り、ヴィーナスの横を突き抜ける。周囲の爆発と共に、旋律が鳴り止んだ。
「ふふふ……あの時と比べ、いい面構えになりましたわね」
突き抜けた攻撃から視線を戻し、くすりと笑みを浮かべる。
「でも、私を倒すには至りませんのよ?」
弦を鳴らし、鋭利な刃が次々に飛び出す。そのまま振り下ろし、降下する。
俺は二振りの剣を交差する。衝撃を受け止め、みしみしと地面に足がめり込み、何とか踏ん張り、ゆっくりと顔を上げる。
視線を交差し、その奥に潜む心を覗こうとするも、見えることは無い。
「ひたすら考えた……」
「一体何を?」
「思い出が心を縛り、癒えない傷を仮面で誤魔化して行く」
その答えに僅かに眼を細めた。口角を吊り下げ、押し付ける力が強まる。
「自暴自棄なら他所でやって下さるかしら?」
人を救うのが英雄なら、英雄を救うのは誰なのだろうか?
神でもなければ、人でも無い。
「俺が差し伸べる。全部の手を取れるくらい強くなる。暗闇で迷わぬように道導になる」
力の限り振り上げ、押し返す。
「伴わない者に、理想を語る資格はありませんのよ!」
弾かれたギターの弦を弾き、再び振り下ろす。
「演舞金ノ舞……無音の対律曲!」
「演舞月ノ舞……月虹!」
鍔迫り合いから刀身は弾き合い、何度も打ち付け合う。
俺は下からの切り上げると、軌道が七色の光を帯び、振り下ろしたギターとの高い金属音が鳴り響く。左からの斬り払いに、上から弾き落とし軌道をずらす。
「燃え盛る太陽よ……サンライズバースト!」
死角の左手から閃光がヴィーナスに襲いかかるも、即座に俺の足を蹴り上げ、頭上へと突き抜ける。後方へと大きく距離を取り、弦を弾いた。
「演舞金ノ舞……波動の民謡曲!」
音が波になり、地上へと降り注ぐ。大地を吹き飛ばし、炸裂音が大気を揺らす。
俺は土煙の中を突き進む。空中に向かい左の刀を構え、刀身から炎が溢れ出る。
「演舞日ノ神楽……火輪飛輪!」
体を横に回転させ踏み込みと同時に斬り払い、炎の車輪が飛び立つ。空中で衝撃を浴びながら、一直線にヴィーナスを目指す。
それに対して上昇し躱すと、右手を振りかざす。
「輝きの輝石……ゴールデンロック!」
巨大な岩の塊が複数生成され、次々に降り注ぐ。
「優しき月の光よ……ムーンフォース!」
俺は右手に魔力を集中させ、一気に解放する。
月の光が放たれ、直撃した瞬間砕かれて行く。手数が足りず、降り注ぐ攻撃を躱しながら距離を詰める。息を大きく吸うと、闘気を切っ先へと研ぎ澄まして行く。
「演舞日ノ神楽……閃火螢日!」
「演舞金ノ舞……軍歌の侵攻曲!」
重音が鳴り響き、俺の周囲に衝撃が拡散する。足元で爆発し、即座に横に避けることで難を逃れるも、頭部から僅かな血が流れる。
俺は大きく斬り込むと、一瞬の光がヴィーナスの横を通り過ぎた。
空中で踏み止まると、胸を押さえながら地上へと降り立つ。顔を上げ、ギターを地面に突き立てる。
「げほ、惜しかったですわね」
口元を押さえ、こちらの様子を伺う。手を下ろすと僅かに口元が緩む。
「そもそも目的が違う」
俺の発言に首を傾げる。一息吐くと、ギターを持ち上げ再び構えた。
「構いませんのよ。いくら取り繕うと、結局は力でねじ伏せると言う事ですもの」
「アンタは今でも、妹を守れなかった自分を許せないんだな」
ぴくりと眉が跳ねる。警戒の視線が敵意と変わって行く。
お前が『なぜそれを知っている』と言わんばかりの表情をする。
これだと確信した。
後は、本心を引き摺り出し、ヴィーナスの止まった時間を動かすーー。




