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自己完結型の完全生命体

 鷹侯(たかこう)たちが街の外に避難しきった頃、龍もそれを見ていたのか、視線を戻すように俺に振り向く。


「奴らが気になるか、勇者よ」


「その呼び名は好きじゃない、俺はユウセイだ……ソウル・バハムート!」


 切っ先を龍に向け、切っ先を突きつける。睨みを効かせ、一瞬の隙すら見せぬ相手に苦笑いをこぼす。


「そうかユウセイよ、なら俺もソウルと呼ぶがいい」


 両腕と翼を大きく広げ、宙へと飛び上がる。


「俺が認めたものしか呼ばせぬ、ありがたき名だ!」


 ソウルは急降下をし、その間合いを一気に詰めてくる。小細工は一切無し、肉体と闘気の強度ですり潰すように力を振るう。


「演舞月ノ舞…… 月光花(げっこうか)!」


 振り上げるようにかざした刀身からこぼれ落ちる光が、花のように咲き開く。輝く粒子は舞い散り、息を忘れるような光景が眼前へ広がる。


「美しいものだな、舞い散る光が粒子となり花のように彩る……ユウセイ、その髪の色はーー」

 

 拮抗した力の天秤が傾いて行く。拳を押し返し、そのまま弾き返す。


 悪かったな……まだ本気を出していなくて、だがここからはその余裕ごとお前を狩り取る。


「なんだ……闘気が上昇していく? 馬鹿な、今までは全力ではなかったのか!」


「言葉を尽くすのもいいが、今はこの戦いを楽しんだらどうだ?」


 意地の悪い提案に、読めぬ表情で口を閉じる。体に纏っていた闘気を全て手に集中させ、逆巻くように力を上昇させていく。


「闘気(まと)い拳に集中させた……俺も全力でユウセイと闘いの舞踊(ぶよう)を舞おうぞ!」


 振りかぶる拳を後方に避け、地面に衝突した時、その衝撃で大地が激震する。巨大な揺れに足元を救われそうになるもなんとか堪え、踏みとどまる。


 次いの拳は回避をできぬ俺の腹めがけ一直線に降り注ぐ。


 身動きは取れない、なら正面から受け止めて反撃するのみだ。


「演舞日ノ神楽…… ゆらり揺らめく日ノ虚い、踊り引き裂く見えざる刃、薄刃陽炎(うすばかげろう)」 


 俺の幻影を拳が貫き、その中で切っ先がぶつかる。ソウルの拳を斬撃が螺旋を描きながら上昇し、本体へと駆け上がるように迫っていく。


「力の円環はお前の闘気を辿り、やがて胴に到達する」


 ビクリと体が跳ね上がり、後方へ飛び去るももう遅いーー。


「なんだこれはーー!?」


 ソウルの手から胴に至るまで、血の回廊が描かれもがくように乱飛行する。数秒のうちに落ち着くと、警戒するように宙で待機する。


「奇怪な技だな、こうも攻撃がいなされては考えると言うもの……一撃で吹き飛ばすか?」


 様子が変わった……近接戦闘から遠距離に切り替えるように、宙で膨大な魔力を集中し始める。


 しかし妙だ……まるで大気からエネルギーを集めているような、得体の知れない何かを感じる。


「ユウセイ、奴は“星龍”星の守護獣……ならば力の根源を、相当する自然から得るのは道理と言うもの、次の大技は今までとは比較になりません」


 駆け寄り、俺の隣で魔力を集中し始める。


「鷹侯たちは避難が終わったのか?」


「問題ありません。だから、ここからは十二分に戦えます」


 良く見ている……なら多くは言わない。


「ルナ……出来ればでいい、俺の時のようなことをもう一度できるか?」


 一瞬魔力供給を止めてしまうほど集中力が乱れる。動揺から呆れに、わずかな表情の変化が見られ深い吐息の後、再び表情を引き締める。


「お人好しにも程があるでしょう……ですが、ユウセイが望むならやってみます」


 僅かなやり取りだが、答えは定まった。攻撃を止め、ソウルを引き摺り下ろす。魔力を集中させ俺は両手を向けながら、力を集約させる。


 ソウルが口を開き、その膨大な力を解放させていく。


「その鼓動原初にあり、生まれて、栄えて、終わりきて、高みの炎を手向けよう……ヒュペリオン!」


 それは太陽そのもの、巨大で赤く燃え盛り、膨れ上がる球体は俺を押しつぶすように降り注ぐ。


 こんなものが地上に落ちれば、ただでは済まない。なんとしても止め、愚行を終わらせる。


「その輝き永遠の、華やぐ夜に輝いて…… 火すら焼き尽くす最強の炎、太陽に熱をここに」


 身体中の魔力を吸い尽くすのではないかと言う魔法の二重詠唱……限界を超える力の流れに、俺の体は悲鳴をあげる。


「……ユウセイ」


 ルナが俺の肩に触れ、体の痛みが僅かに和らぐ。瞳が大きく揺れる感覚を味わいながらも、歯を食いしばり、両腕を高く掲げる。


「セレーネ……アポロン!」


 右手から放たれた極円の満月が軌道を描きながらぶつかり合う。そして左手を頭上に掲げた位置に燃え盛る太陽が現れ、ソウルめがけて落ちていく。


 苦悶の表情に包まれるも、それを堪え、ヒョペリオンを押し込んでくる。二つの強大な力のコントロールに、一歩を踏み込み、力を上昇させる。


「お前がどんな存在だろうと、負けはしない、超えて行く、燃える炎は消せやしない!」


 神託が光輝き、ソウルの肩がガクッと落ちる。そのままぶつかり合う力に押し込むように落ちて行き、巻き込みながら三つの力はぶつかり合うーー。


「くははははあはは! 見事、天晴れ、驚嘆(きょうたん)だ、ユウセイよーー」


 笑い声を上げ呑まれていく、規格外の力の躍動は、強い閃光とともに四散爆破し、その衝撃は街全体に広がり、包まれていく。


「ユウセイ、さすがに使わせてもらいますからね……守れ、ライトプロテクト!」


 光と衝撃が収まる頃、町は跡形もなく消え去り、残ったのは俺たちの足場と大きなクレーターのみ、その中心に立ち尽くすようにソウルがいた。


「さすが星龍タフだな、このまま動かないでいてくれると助かるんだが?」


 ズシンと音を立て、膝を折るように座り込む。翼を地面につけ、首を落とす。


「無茶……を言う、さっさと……殺せ」


「ならお前の扱いは俺の自由にしていいと言うことだな?」


 焦らすような俺の言動に苛立ったのか、体を動かそうとするも失敗する。


「……くどい、好きにしろと言っている」


 俺は言質を取ると、ルナに視線を向ける。口元が僅かに緩むと、ソウルの胸に両手を当て、正の力を送り込む。


「女……目障りだ、下がーー」


 ドカンと、普通では無い平手が放たれ、ソウルは塞がっていた口を僅かに開ける。


「口を閉じなさい、負け犬に権利は有りません。黙って待ちなさい」


 きつい態度の裏には優しさのような感情が垣間見えた。やがて強い光を放ち、ソウルの胸を貫く。


「これですね、悪さをしていたのはーー」


 紫色の歯車のようなものだけが串刺しとなり、砕け散るように消えていく。ソウルは崩れ落ち、倒れ込むと体がみるみる小さくなり、手乗りサイズになってしまい傷も癒えていく。


「どう言うことだ?」


「厳密に言うと星龍は不滅です。朽ちた肉体は生まれ変わり、次の体へと移り変わる。自身で転生を繰り返し、記憶と力を受け継ぎ円環を繰り返す」


 さらりと、とんでもないことを言う。自己完結型の完全生命体というだけでも凄まじいが、“星”と名の付くものはどれも規格外の力を持つ。


 星の勇者、星と名の付く演舞然り、この世界の絶対法則。


「行かないでーー」


 突然の声に肩が跳ね上がる。ルナを見ても首を横に振り、ソウルを見ると、その瞳には一筋の涙が流れていた。


 俺は抱え上げると、どうしてそう思ったのか、無意識に頭を撫でていた。やがて呼吸が落ち着き、微睡(まどろみ)の中へ溶けていった。



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