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魔の到達点

 煙と砂埃を上げ、飛行魔獣が空を旋回し、水性魔獣が水中から引き摺り込もうと襲いかかる。血の匂いと、慟哭(どうこく)に包まれ……メツバの港は地獄へと変わっていた。


 王都アースにプルートが侵攻してきた時の光景が鮮明になり、目蓋を閉じれば焼き付いたように脳の奥を暴れ回る。


 ーー酷く不快で、胸糞が悪い。


鷹侯(たかこう)、俺を町の中心部にいる群れに放り込め……一瞬で終わらせる」


「正気か? 100匹は下らねえ数だ。正直手に余るーー」


「時間が惜しい、言う通りにしてくれ」


 魔獣は魔力保有量の多い者を優先的に襲う。捕食行為で魔力を補おうとするからだ。


「私もそこにお願いします。ユウセイを一人にはして置けません」


 ルナが見合わせるように頷く。手に魔力を込め始め、着地に備える。


「しょうがねえなオイ、目覚めが悪くなるから絶対に死ぬなよ」


 投げ捨てるように俺たちは宙を舞い、50mは有る高さを落ちていく。俺は風圧に遮られながらも、右手に溜め込んでいた魔力を解放して足場を埋め尽くす魔獣に放つ。


「火すら焼き尽くす最強の炎、太陽の熱をここに……アポロン!」


 直径10mはある巨大な球体が頭上に出現し、メラメラとその炎を揺らす。赤く凄まじい熱量を発するそれは、飲み込むように地上へと落下していく。


「俺はこれ以上の蛮行を許さない……跡形もなく消え去れ!」


 地上に落下と同時に、熱風と土煙が吹き出し、全てを飲み込んでいった。爆発は魔獣の悲鳴ごと飲み込んで行き、周囲にいる魔獣の意識が全て俺に集中する。


「吹けよ風……ウインド」


 ルナの魔法により、地上に風が吹き荒れる。着地の直前、俺たちは減速し、ゆっくりと降り立つ。


「GAAAAA!」


 着地の瞬間を見計らい、10を超える魔獣が俺たちの襲いかかる。蜥蜴(とかげ)、狼、鳥と様々で一々名前を確認している余裕はない。


「演舞日ノ舞……火輪(かりん)


 腰に刺した剣を引き抜き、ルナがしゃがみ込むと同時に横に回転する。円を描く太刀筋で、飛びかかる魔物の首を切り落とし、傷口から炎が燃え上がり焼き尽くした。


「ーールナ」


「はい、任せてください!」


 合図をし、俺は走り出す。頭上から三匹の飛行魔獣が俺に飛びかかる。


「雷の衝動……ライトニング!」


 稲妻が走る音が三度聞こえ、俺の後を追従するようにルナが走り出す。その隙に俺は揺り籠(クレイドル)へと手を伸ばし、蒼い光の中刀を掴み取り引き抜くと光が天に昇る。


 正面から追従する敵に、雷撃が飛び一瞬怯む。ロックサラマンドラの上位種、王都でも確認した個体。強固な装甲は、ルナの攻撃にも耐えうる。


「演舞月ノ舞……月虹」


 虹を描くように光の粒子が舞い散る……一閃。軌道にアーチを描き、首が滑り落ちるように地面に転がる。周囲の魔獣はまだ多く、行き着く暇すらやってこない。


 後方より建物を突き破り、牛の魔獣が五匹接近してくる。俺は振り返り、闘気を込めた刀を握り締め、一歩を踏み出す。


「演舞日ノ舞……烈火」


 刀身は大きく燃え上がり、高速の刺突が魔獣を貫いていく。一匹仕損じ、耐え凌いだ一頭が目の前まで接近して、角を叩きつける。


 タイルの破片が宙を舞い、俺は半歩右に移動して回避していた。その後方……ルナが両手を構え、集約した光がその手に宿る。


「降り注げ光よ……ライトジャッジメント」

 

 右手を天にかざすと、光の束が杭のように降り注ぎ、魔獣を串刺しにしていく。右手を下ろすと同時に、杭の光が強まり魔獣は爆ぜる。


 これで半数近くは討伐したが、まだまだ数が多い。


「ユウセイ、奴らは近寄ってくる様子がありません。今の戦いで貴方を強敵と認めたようです」


 それもそうだが、さっきからヴィーナスの姿が見えない。ここは囮なのか、帰ったのか……後者であって欲しいが、悩む時間すら惜しい。


「キリがなくとも放置はできない……このまま一気に終わらせる!」


「……分かりました。なら魔獣の動きを制限させます」


 ルナは魔力を集約し、両手を差し出し魔法が発動する。


「拘束せし輪の光、ライトリング」


 両手を広げると、大きな光輪が魔獣たちの周辺に現れる。狭めると同時に、輪が集約し魔獣たちが逃げ場を失っていく。


「演舞月ノ舞…… 新月(しんげつ)


 刀身が闇夜に潜むようにゆらりと消えて行く。そのまま切っ先を構え、隠れ消えた一撃は振り抜くと同時に魔獣たりの首を吹き飛ばす。


「ユウセイ魔獣はこれで全部です……後は、鷹侯の場所に集結しつつあります」


 残りの魔獣は全て鷹侯に場所にいる。俺たちは鷹侯を援護するため、町の外れに走り出す。


 改めて見ると崩壊の色が濃い……時折見つける亡骸をクレイドルに収めながら、激しい音のなる方口へと近づいて行く。


「あれが、鷹侯か……随分と凄まじい姿をしている」


「はい、鷹侯は獣人系魔族の中でも飛び抜けた戦闘能力を持ちます」


 それもそうだが、鷹になっているときの体色が赤色なのが珍しい。そして何よりこの荒々しさ、敵に回したくはないな。


 鉤爪(かぎずめ)を突き立て、次々に魔獣を屠っていく。俺が援護に入る頃にほぼ全ての魔獣が討伐されていた。


「おう、お前らか……そっちは終わったみてえだな」


 こちらに気付き振り返ると獣化を解き、掴んでいた魔獣の頭を握り潰す。


「凄まじい強さだった……真面目に戦ったら、俺も負けるかもしれない」


「よく言うぜ……ここの魔獣の大半はお前が倒したのによお?」


 僅かながらの棘を感じる。急な変化に疑問を持つも、その正体は掴めない。周りの衛兵も俺たちを囲み、敵意を向けるようなものまでいる。


「これはどう言うことでしょうか」


 周りを見渡しても獣人ばかり、四方を塞がれ少しずつ詰め寄ってくる。


「むしろ最大限の譲歩と思ってくれ、お前がもう少し弱ければこうはしなかった」


「俺がヴィーナスを救おうと言うのが、そこまで看過できないか?」


 俺の言葉に周囲の空気は一気に殺気立つ。


「こいつ……抜け抜けと悪気も無く」


 周囲の兵士たちは俺に対し、疑念の感情を向ける。


 導きの双星の名を知らぬ者はいない……それは俺の評価に関係ない事、“他国”の勇者はそれだけで脅威の対象と写る。導きの双星の名に比例し、得体の知れない恐怖に変換される。


「ユウセイ、なぜ挑発するような真似をするんですか」


 慌てるようにルナが止めに入るも、俺は鷹侯から視線を外さない。


 殺すつもりならとっくに襲いかかっている。そうしないのは、目的は別であり、弁解の余地があることを示している。ならここで嘘をつくのは悪手だ。


「その内カイトが到着する。その間だけでいい、無理ならおお前を殺す……俺様は本気だ」


 戦闘の意思を示し、攻撃の体制を取る。


「俺様にお前を殺させないでくれるかーー」


 殺意……では無い。


 悲願、悲しみ、優しさ、複雑に絡み合う表情をのぞかせ敵意を向ける。


「俺に戦う意思はない……好きにすると良い」


 正直に話すにしてもまず、緊張をほぐしてから……空気も段々と軽くなり、鷹侯の口元も緩んだ瞬間……それは現れた。


「おいおい嘘だろ……なんでこんなバケモンが現れるんだよ!」


 魔物の頂点、王、最強、誰もが口を揃えて言う、子供でも知っている……“星龍(せいりゅう)”には手を出すな。


 死にたくなければ、地獄を見たくなければ、ただただ息を潜め、過ぎ去るのを待て……もしくは“勇者”を連れて来い。


「う、あああああああーーーー!!」


 兵士が悲鳴を上げると同時に、星龍は口を開け一筋の閃光が放たれる。


 ーーその日、メツバの港町が地図から消えた。

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