種族の壁
最近溜め込んでばかりだったからか、言葉にする事で少しスッキリした気がする。ルナにはロッカとヴィーナスとの過去の話を一通り話した。
「そこまで来ているのなら、話は早いです。過去を清算する事で、皆前に進んでいくでしょう」
「どうかな……少なくとも、ヴィーナスの闇は底無しで正直言ってーー」
そこまで言うと、人差し指で口元を遮られる。言葉が止まり、視線が自然とルナの方に向く。
「ユウセイ、私は貴方に完璧を求めましたか?」
クスッと笑い、指を引っ込める。額に差し、神妙な面持ちになる。
「思いっきりやりなさい、答えが出ているのなら……あとは突き進むだけです」
思いっきりか……そう言われればそうだ。毎回必死で、気が付けば全力で息切れするまで突っ走っている。
「そうなんだよな、考える程ドツボにハマっていた気がする」
「そう言う事ですよ。転生前と足したって、もうろくする歳ではないでしょう?」
思わず乾いた笑いが止まらなくなるも、これがルナと言えばそうか。
どこか安心感を覚え、背中を軽く叩かれると、肺に残る古い空気を全部吐き出して、新鮮な酸素を取り込む。緊張が解れ、心なしか楽になった気がするから不思議だ。
「もう手が掛からなくなったと思いましたが、まだまだ道は遠いですね」
意地が悪い言い方をし、俺の顔を覗き込む。
「俺は子供か……まあルナからしたら、赤ん坊みたいなものか」
少し年寄り扱いしてしまったかと、思うがこれくらいは許容して欲しい。
「手の掛かる子供と思っていた時期が、私にも有りましたね」
否定どころか堂々と肯定される。否定するつもりもないし、今はどうかを聞きはしない。答えはまだ出尽くしていないはずだ。なら無粋な真似は止そう。
「そう言えば、鷹候領って本当に魔族の数が多いな人族もそこそこ居るけど」
そらすと言うわけでは無いが、思った事を口にする。聞いてはいたものの、本当にそれぞれ特色があり、まるで別の国のように思える。
「そうですね、それぞれの特色はあれど、ここまでお互いの距離が近い国は有りません」
「魔族と人族って……何が違うんだろうな、どうしてこんなに争わないといけないんだろうか?」
見た目の話では無い、同じ言葉を話し、通じ合い時には子供さえ生まれる。
「有りませんよ、明確な違いなんて……そう有るべきとし、争った血の歴史が答えです」
5000年前の出来事は殆ど歴史から消えてしまっている。
「その辺が話途中で、終わっている記憶があるんだよな」
前に司祭などと戦った時のことを思い出す。星神教だなんだと、邪魔が入り込み聞けずに終わっている。
少し悩むように頭を抱えると、纏まったのか言葉を口ずさむ。
「始まりはいつだって単純です。正の気と負の気……人族と魔族、最初の分け方なんてそんなものです」
少しの困惑を示し、あの時聞きそびれた話へと繋いでいく。
「歴史など忘れ、神話となった頃には手を取り合った話など、信じる者はいなくなりました」
それでも人は飽き足らなかったのか、さらに細分化され今に至る。
しゃがみ込むと落ちていた木の枝を拾い、十字に線を引き上に正、下に負と描き、左に闘気、右に魔力と描き記した。
左上に神人、右上に亜人と描き込む。
「人族は主に二種類……世界の人口の多くを占め、最も神に近い姿の神人と、エルフやドワーフなどの亜人」
ルナたちの事を言っているのだろうが、確かに見た目は人間との差異を殆ど感じない。それが何を意味するのか……多い議論の一つだ。
特に神人……俺と同じ種族は亜人すら排他的な層がいる。
神人と呼ばれつけ上がったのか、自分達こそ選ばれた“種族”と主張し、戦争を招いたケースすら有る。
左下に獣人、残った右下に魔人と描く。
「魔族も同じで……殆ど神人と変わらないその身に宿す膨大な力の持つ魔人、獣に似た特徴を持つ身体能力特化の獣人」
「ヴィーナスはヴァンパイアだが、魔人って解釈でよかったよな?」
ルナは頷きその細分化された図を眺める。
「もっと詳しい分け方はありますが、今はこれで十分です。線の先に進むにつれ、その力は強まります」
素直に分かりやすいと思いながら、色々考えさせられることがある。
ルナは更に手を進め一瞬止まるも、十字の中心に丸を描き、そこに“人間”と描いた。
「ルナ……コレは“禁忌”に触れる内容じゃないのか?」
目を細め、後ろを冷たい風が通り過ぎる。温暖な気候にも関わらず、まるでその話題を止めるかのように午後の日陰から、背筋を撫でる。
風に揺られ髪がなびき、抑えられた口元からは表情は読み取れない。
「だから“排除”されてきました。世界の意思は、常に敵に回ります」
有り得ない血の混じりによる生まれる混血種。世界を終わらせるとも、救うとも言われている。救世主で終焉者……混沌とした存在が世界に与える影響は少なくない。
「人の間と書くその名称はまさに体現していると言えるでしょう。心当たりはありませんか?」
ルナの問いに一瞬だけ考えるも、直ぐにその存在を吐き捨てる。
「無くも無い……でも、確証はないしそれを確かめることも出来ない」
「……そうですか、しかし忘れないで下さい。必ず答えは必要になる……巻き込んだ私が言うのも変な話ですがね」
進むほど後退している錯覚を覚える。埋まることの無い一定の溝、明るくなるほどそれは鮮明さを増す。
時々不安に思う……自分の中の答えを全て吐き出した時、周りが変わってしまうことへの恐れ、それを打ち明けた時の後ろめたさ、知れば知るほど思考の奈落へと落ちていく。
「そろそろ行こう……」
「そうですね……行きましょう鷹候に会いに」
少し寄り道をしたが、目的は変わらない。諸侯たちの動向も注視し、過去の気になる出来事にも注視しなければならない。
「腹を割って話してくれるだろうか」
「どうでしょう、少なくとも裏表のない方ですので悪い方向には行かないと思いますね」
吐き出したかと思えばまた溜まり、呆れを含みなながらも気を使われているのは理解出来る。複雑な感情を抱き、空を仰いだ。




