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誓いの髪飾り

 飛び去って行くヴィーナスを見つめ、砂の海に体を預ける。少しのだるさは感じるものの、前より動ける事に驚く。ゆっくりと立ち上がり、パラパラと砂を落とす。


 じゃりっとした食感に表情を歪め、吐き捨て、冷静になると、これからのことに頭を抱える。


「はあ……戦争は避けられないか」


 まだ決まったわけでは無いが、足を掴んだ以上深入りする事はあり得ない。


 人が、大量に死ぬ……俺は、いや……あんな過去を見せられて、何とも思わない方がどうかしている。


「あそこにいたぞ、確保しろ」


 人が余韻(よいん)に浸っていると思えば、衛兵が集まって来た。10人位か、これでどうにかなると思っているならおめでたいな。


「おとなしくしろ、抵抗するなら殺処分も許可されている」


「ヴィーナス・レア・ゴールドは立ち去った……俺は双星の勇者ユウセイだ」


 皆が顔を見合わせるように視線を交わす。何かを確認するようにするも、俺にその意図は読めない。


「バカめ……双星の勇者は白髪の蒼と紅のオッドアイだ」


 得意げに衛兵は語る。武器を構え、今にも襲いかかりそうな体制を取った。そこで自分が今どんな誤解を生んでいるか理解する。


「衛兵を呼んできました。ユウセイ大丈夫ですか」


 後方よりルナが走りながら近づいて来る。他の衛兵を引き連れ、手には通行証を持っていた。


 あれは身分証にもなり得るか……覚えておこう。


 周りの者たちが顔を見合わせ、武器を下ろして行く。やがてルナが目の前まで来ると、全身を隈なく触られる。


「怪我はありませんかーーこんなに擦り傷を作って、無茶のしすぎです」


 少しだけ表情を曇らせると、慌てながら手を握り、癒しの力が体に浸透して行く。強い力では無いが、ゆっくりと傷は塞がり、体が楽になる。

 

 ーーその後はルナの説明もあり、ことなきを得た。俺たちは鷹侯(たかこう)に会うため移動を余儀なくされ、結果お膝元までっ来たわけだ。


「まあ手ぶらも悪いし、少し下町で買い物してくか?」


「貴方は貴族に何を持っていけばいいか分かるんですか?」


 俺の何気ない一言に、血の気が引いたような顔をする。粗相があればいけないとかだろうが、そこまで変な事を言ったか?


「分かってるよ……そんな高価なものは買えないし、余計な事はしない」


 冗談と分かってか、スッと胸を撫で下ろす。


 よくよく考えるとルナって、結構トゲがある発言が多い……まあ、俺としてはそこまで気にしていない。俺が悪かったと解釈し、謝っておくに限る。


 今横眼で見ると、少しだけ嬉しそうに隣を歩く。どうしてもクスリと声が漏れてしまい、不可解そうに視線を向けられる。


「珍しいですね……笑うところなど、久しぶりに見ました」


「そうかも知れない、最近は余裕がなくて何気ない笑顔ですら覚えが無い」


 これからは戦い詰めで、こうした時間すら取るのが難しくなるかも知れない。そういう意味ではすごく貴重な時間になるのだろう。


「偶には無駄な買い物でもしてみませんか?」


 珍しく俺の手を取り、商店街の方へと視線を向ける。少し積極的で、いつものルナと比べ違和感を覚えるも俺は頷き、少しだけ口元を緩める。


「言い方が悪いが、休息を取ろうという事なら賛成だ」


 待ってましたと言わんばかりに、手を引いて駆け出した。こうして見ると、年相応にしか見えないから不思議だ。実際ははるかに長生きで、寿命の概念すら存在しない……と思う。


「おい、危ないぞ」


 つい考え事をしていたせいで、前方確認が疎かになっていた。


 前に出過ぎ、ぶつかりそうになったところを後ろに引っ張る。ルナはバランスを崩し、後ろに倒れ込んできたので支えるように受け止めた。


「つ……ありがとうございます……ゆ、ユウセイ?」


 心配そうに俺の顔を見合わせる……どうという事はない、ただ……心配なだけなんだ。


「俺たちは、あと何回こうして普通を過ごすことが出来るんだろうか」


「……私の胸、使います?」


 困った子供をあやすように、優しく笑いかける。


「茶化すな……俺は真面目な話をーー」


 ルナは泣きそうな笑顔で、美しくも儚く笑う……そこで俺は気付く。


「もうこれで最後かも知れません……それくらい今回の戦争は危険です」


 ルナの体は震えていた。不安でいっぱいで、心を強く保っていても、少しの刺激で崩壊する。そこで初めて、不安なのは俺だけでは無い事に気付く。


 俺は困り果て、店に並んだ商品に眼が行く。女性の店員が気付くと、俺が指さした商品を手に取り、こちらまで運んできてくれた。


 気付かれないように支払いを済ませ、そっとルナの髪に付けていく。

 

「ユウセイ……一体何をしてるんですか?」


 店員が鏡をルナに向ける。ルナは暗い顔が疑心暗鬼(ぎしんあんき)の表情となり、俺の顔を何度も確認して来る。


「えっと……これはどういう事です」


 僅かながらの戸惑いと、混乱の感情が見え隠れする。焦点が定まらず、何度も鏡を確認し、頭のそれに手を当てる。


「お似合いですよ」


 店員がニコニコと鏡を合わせながら、ルナに話しかける。


「いえ、そういうことではなくてですね……これ、意味をわかっているのですか!」


 噛みつき気味に詰め寄って来るが、無知の行動ではない。


「本来の意味とは大分変わって来るかも知れない……でも、誓いそのものは本物だ!」


 ルナは頭を殴られたように仰け反る。少し間抜けにも見えなくもないが、顔を起こすと少々頬が火照って見える。


 周りから『おお〜〜!』と歓声が上がるも、“半分”は間違ってないので俺はあえて否定しない。周りがうるさいので、俺はルナを抱え、海の見える丘まで走り出す。


「な、何をするのですか! 下ろしなさい」


人気(ひとけ)がないところまで行ったらな」


 終始不機嫌そうな顔のまま、されるがままに運ばれる。思ったよりも抵抗はなく、たどり着くと下ろし、話の続きをする。

 

「ジンクスなんてガラじゃない、でも誓いを立てることで……少しでも確率が上がるなら俺は迷わずそうする」


「勝手な人ですね……まあ、購入してしまったものは仕方ありません……有効活用します」


 やがて諦めたのか、複雑な表情で受け取りを承諾した。


「しかし、こんな物を女神に渡すとは……“しれもの”もいいところです」


 少し落ち着き始め余裕が出てきたのか、俺を罵る方にシフトし始める。


「恐れ多いという意味なら、そうかも知れないな……でも、形にする事で決意はより強く固まる」


 少しすると、こちらを伺いながらゆっくりと口を開く。


「……どうでしょうか?」


 潮風に流されるように、髪が揺れ、二つの装飾品は太陽の光に輝く。髪質もあってか、その輝きはとても幻想的に思えた。


「似合ってる……と思う」


「なぜ若干疑問が残るのですかね」


 ため息の後、俺たちはお互いに顔を見合わせると、苦笑いとなり、しばらくその場に留まった。


 ーー2つの髪飾りを渡すのには伝説がある。


 必ずキミの元に帰って来るという夫婦(めおと)の誓い。戦場に向かう男は必ず戻ってきて、女に永遠を誓う古来からのジンクス。

 

 太陽と月は円環を意味する……“不変”の誓いーー。


挿絵(By みてみん)


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