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憎悪の中に……

 ヴィーナス・レア・ゴールドはまず、国の重鎮(じゅうちん)たちのを招きコンサートを行った。しかし大抵が想像するような華やかなイベントとは大きく異なる。


 血と旋律(せんりつ)のによる魔の宴(コンサート)……ヴァンパイアの種族を利用した血の契約による強制支配だった。彼女に言わせれば、奴隷(ファン)ということになるか?


 抵抗する者も多少は居た。魔王という力の塊を理解せず、数で押せば勝てると思う者がいるのは理解できる。


 魔族貴族の知能は高い……なら何故そんな愚かな選択をするか、“知らない”からだ。


 結果として公爵3人の首を晒し、残りの公爵が全て屈服する形で契約は履行(りこう)された。もう誰も逆らわない、一度“知って”しまえば……知らぬ存ぜぬを通せるわけがない。


 力による秩序の世界は、誰も望まぬ形で始まりを告げた。


 ーー高い高い山の頂上。飛行魔族とて気流に流されたどり着けない極地だろうと、魔王にとっては造作も無い。朝日を一身に浴び、背筋を伸ばすように両手を広げ、眼を瞑る。


「プリエールもう少しの辛抱ですわ……あなたに手向ける(いのち)がもう直ぐ手に入りますのよ?」


 その表情には僅かばかりの微笑みを含み、憎悪は感じさせ無い。


「私の存在を海王(かいおう)諸侯同盟(しょこうどうめい)はまだ知りませんし、今が好機ですわね」


 翼を大きく広げ、見つけた馬車に向かい一気に急降下する。魔族の視力はずば抜けている……魔力を通せば、5キロ先すら見通す。音を超えるほどの速度で、馬車の前で中停止すると遅れてやってきた衝撃が馬車を吹き飛ばした。


「いけませんわ……死んでしまえは本末転倒ですの」


 ヴィーナスの一振りにより、馬車を動かしていたモンスターの首が宙を舞う。爪に付いた血を振り払い、馬車を見ると手綱を握った手に先から、血溜まりが広がっていた。


「貴様! この馬車が誰のものか分かっているのか?」


「不快、不快ですわ……(わたくし)を知らないとは言え、下卑(げび)た刃を突き立てるんですもの」


 ヴィーナスは眉を寄せ、後ろに手を回し、エレキギターを掴み取る。首にかけ、演奏の体制をとった。


「お、お前まさか……黄金の歌姫か!?」


 男は何かを思い出したように語る。そしてその表情に見え隠れする動揺をヴィーナスの瞳が確実に捉える。


「あら? (わたくし)を知っている殊勝(しゅしょう)な方もおりますの?」


 爪で弦を5回弾き、その音波が空気中を伝わり、衝撃波となる。


 触れた物たちは、潰れるように形を保てなくなり、次々と爆ぜていった。最後に残ったヴィーナスを知る人物その人物へと急接近する。


 爪の人差しで、手の平に穴を開けた。男は苦しみ、悲鳴を堪え、苦悶の表情でヴィーナスを見つめる。


「あらあら男の子ですわね、我慢できて偉いですのよ」


 頭に手を乗せ、撫でる仕草をするものの、目が据わっている。気を許しているわけでは無い行動に、男は表情を引きつらせる。


 ヴィーナスは人差し指に親指を滑らせ、僅かに流れた血を傷ついた手の平へと落として行く。ヒタヒタと指先の爪を伝わり、傷口へと染み込んでいく。


「俺は……ヴァンパイアになるのか、何故日の光で無事で居られる」

 

 男が恐怖に引きつり絞り出した言葉に、ヴィーナスは眼を丸くする。それも僅かな間、クスクスと小さく笑うと、舐め回すような視線で男を見る。


「自惚れに聞こえるかもしれませんが、(わたくし)の容姿に自信を持っていますの……どうかしら? あなたの目線で、どう写りますの?」


 男は戸惑う……やがて眼を逸らすように視線をずらす。


「魔族の女に興味はない……」


「それは残念ですわ……是非貴方に慰めて頂こうと思いましたのに」


 男は喉を鳴らし、眼の色を変える。ヴィーナスは男の手を握り、顔の前で笑ってみせた。


「ーーそれ、ですのよ?」


 意地の悪い笑みへ変わり、男は表情を強張らせる。


「口ではそう言っておきながら、結局のところ頭の中は下衆(げす)なことでいっぱい……聞こえてますの?」


 倒れた馬車の上に座り、手の甲で2度ほど叩く。返事はなく、ヴィーナスは笑みを消すと、両手の爪を1メートルの長さまで伸ばした。


「待ってくれ……さっきの事と、一体何の関係があるんだ!」


「同じですのよ、無知が方便を垂れる。知りもしない、知ろうともしない、好奇心だけが一人歩きして間違いを振るいかざす」


 男は言葉に詰まる。半分も意味を理解出来ていないかもしれない。だが負の感情の高まりは、想像の遥か上で膨れ上がる。


 心が悲鳴を上げるーー悲しみの中で壊れてしまった。どれだけ叫んでも助けは来ず、狂った世界で踊り続ける。


「ヴァンパイアは太陽でも平気、ニンニクも効かない、十字架も無意味、杭も関係無い、血は吸いませんし、噛み付いたら同族(ヴァンパイア)になる事も有りませんのよ!」


 両手の爪を馬車に叩きつけ、鋭利な衝撃が周囲に広がる。


 馬車は細切れになり、中から男が飛び出して行く。装飾品も豪華で、貴族は間違いないと思われる。全力で走り振り返らず、小石に躓いて転んで、また走って行く。


「助けてくれーー化け物がここにいるぞ、金ならいくらでもあるんだ」


 ヴィーナスはギターを弾く。何度も打ち鳴らし、闘気を高める。


「演舞金ノ舞…… 狂乱(きょうらん)抗争曲(こうそうきょく)


 音の衝撃波により、近くにいた護衛の男がカタカタと震え始め、貴族へと飛び付いて行く。


「は、放せ馬鹿者……殺される。あの化け物にーー」


 完全に操られている護衛の男は、貴族の口を塞ぎ、体を拘束しヴィーナスの前まで運ぶ。


「質問の回答のみ許しますわ、頷くか横に振るか……わかりますわね?」


 首を強めに縦に振る。ヴィーナスを伺うと、クスっと笑い、再び口を開いた。


(わたくし)によく似た12歳くらいの子共を見たことはありませんの?」


 首を横に振る……そうすると、手を離し貴族を自由にした。にっこりと笑い、片手を横に振る。


「ーー嘘つき」


 貴族の体がボコボコと膨れ上がって行く。呻き声をあげ、血管が膨れ上がり、絶叫と共に転がり回る。


「私は血の流れを可視化(かしか)出来るのよ。脈に変化があれば、見逃すことはないわ……例え、服の上からだろうとね」


「た、助けてーー」


「貴方はプリエールが悲願したときどうしたの? あまり私を怒らせないでちょうだい」


 抵抗の後も、涙の後も、その場の惨劇が証明していた。事を済ませ、さらなる暴挙に出たのは間違いなく。余りにも凄惨な最期だ。


 風船が破裂するように貴族の男ははじけ、ヴィーナスは笑った。その瞳に、水泡が溢れ出す。矛盾を孕んだ表情に俺は心の中でひっかりを覚えた。


 ーー足元の抵抗が消え、下から炎が噴き上げる。俺を上昇気流で舞上げ、炎にはうつ伏せになったヴィーナスの姿が映り込む。


「ーーおかえり双星のお兄ちゃん」


 そこにはプリエールが立っていた。最期の時まで姉を気にかけ、苦しみの果てに散っていった。男の俺に恐れなく近づくのは、もう肉体がないからかなど、余計なことばかり考えてしまう。


「俺は上手くやれるだろうか……ヴィーナスの心に、俺の声は届くのか?」


「難しい事ばかり考えてる?」


 参ったと言わんばかりに、少女は頭を悩ます。


 考え過ぎと言われればそうなのだろうが、扱いの難しい内容に俺がどこまで出張っていいのかわからない。


「心を尽くすしか、ないんじゃないかな? 単純だけどきっとそれが、答えだから」


 クスっと笑い、こちらを見つめてくる。姉妹というだけあり、小さい頃のヴィーナスにそっくりだ。


「心配しなくても君はもう持ってるよ……だから心配しないでーー」


 ーー意識が覚醒する。薄刃陽炎がヴィーナスを貫き、俺たちは落下していた。だが隷属印を破壊するまでには至っていない。


 俺が視線を送ると、ヴィーナスが目を開きこちらに近づいてくる。チャンスは一瞬……振りかぶるギターを紙一重で避け、左手を伸ばす。


「汚らわしい……なんのつもりですの」


 弾こうとした左手を掴む。奇怪な表情で俺を見つめ、一瞬だけ動きが止まる。


「必ず迎えに行く、だから俺が倒すまで……絶対に死ぬな」


「そんな約束聞いたことありませんわ、ふざけ……本気で言ってますの?」


 俺は頷くと、刹那に俺たちは見つめ合う……一息の後手を離し地上へと落下する。砂埃が宙を舞い、その隙にヴィーナスは翼を広げ飛び去っていった。


 

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