↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
66/325

闇夜に舞うヴァンパイア

 周囲の蝙蝠(こうもり)の動向を伺いながら、俺は屋根を蹴り上げる。飛び出す先にヴィーナスを見据え、闘気の流れを右手から切っ先まで余す事なく伝える。


「演舞月ノ舞……十六夜(いざよい)」


 三日月と逆方向に刃を走らせ、弧を描き、湾曲(わんきょく)した斬撃を振りかざす。ヴィーナスは表情を崩さず、弦に爪を掛け、デタラメなリズムで弾き続ける。


「演舞金ノ舞……波動(はどう)の民謡曲(みんようきょく)」


 弾いた瞬間に何かが飛び出すような感覚を覚えた。剣に衝撃が何度も打ち付けられ、跳ね返されて行く。


「なんだ……何が起こっている?」


「貴方がそれを理解するまで、立っていられますの」


 一瞬のうちに5回の音が鳴り響き、肩、左腕、右足、右手首、頭部と鈍い衝撃が襲う。


「ユウセイーー!!」


「五月蝿いですこと……あまり騒ぐと、蝙蝠どもの餌食になってもらいますのよ?」


 ヴィーナスの視線がルナに向かう……止めろ、それだけは許さない。


 俺はふらつく頭を起こし、揺り籠(クレイドル)へと手を伸ばす……溢れ出す蒼光を断ち切り、刀を引き摺り出す。


「よそ見してる余裕があるのか? 演舞日ノ舞……烈火(れっか)!」


 逆巻く炎が刀身に宿り、目に止まらぬ刺突撃を繰り返す。


「問題などありませんわ、演舞金ノ舞……無音(むおん)の対律曲(たいりつきょく)!」


 肩の紐を外し、弦を鳴らして、突き出た鮫歯のような刃と、ボードをこちらに向けるように突き立てた。


 ギターを両手で振り回し、烈火のスピードのついて行きながら何度も何度も振り回す。やがて相殺する形で力は拡散し、衝撃が周囲に飛び散る。


 鍔迫り合いのまま硬直し、睨みを利かせ、お互いの瞳を覗き込む。


「あら? 貴方瞳の色まで戻ってしまわれましたの」


「それがどうした? 今は関係ないだろ」


「大有りですのよ、演舞……同時に使えませんのね?」


 見透かしたような瞳で覗き込む……次第に刀身が押し返され、心の奥底を覗き込むような赤が視界の奥に入り込んで来た。


「見えますのよ、動揺した貴方の瞳が……もっと、私(わたくし)に見せてくださる?」


 憎悪(ぞうお)の神託の光が強さを増して行く。力の供給源が分からない以上、ヴィーナスの憎悪を削るしかない、それにーー。


「見当違いも良いところだ……好意の感情がそんなに怖いか?」


 力任せに俺は弾き飛ばされ、後方で体制を立て直す。


 なるほど、安い挑発には乗らないと思っていたが、心境は穏やかではない。その目は正に“憎悪”だ。


「醜い……醜悪ですわ、力も無いくせに男はいつも息巻(いきま)く。力でねじ伏せれば、それで解決すると信じ切ってる」


 表情に笑顔が消えて行く。張り付く空気の色が変わる。負の感情が爆発し、全てを飲み込もうと渦巻く。


「ーーやりなさい、豚ども(ファンの方々)……その駄神(だしん)を引き裂き、私(わたくし)に生き血を献上しなさい」


「ヴィーナス!!」


 蝙蝠たちが一斉に飛び立つ。大軍勢の塊は、一目散にルナを目指し、群がるように流れ込む。


「はあ……ヴィーナスもユウセイも勝手です。私ってそんなに弱く見えます?」


 その表情に強めの不快感を表し、掌(てのひら)を天に掲げ、巨大な魔法陣が複数形成される。それらは円を描くように幾重(いくえ)にも重なり、中心部にて螺旋運動を開始した。


「開け光の道筋よ、軌道(きどう)を描き、葬送(そうそう)の柱、天焦がす」


 手を振り下ろし、同時に魔法陣もそれに釣られる。肩のかかる羽衣が花開くように後方で広がっていく。照準を巨大な黒の塊に合わせ魔法陣の光が強くなり、回転も速さを増す。


「太陽の閃光、アーク・ロード・アラマズド」


 放たれた光の閃光は夜であるにも関わらず、太陽の如し輝きを放つ。後ろに引きずられそうになるも、羽衣が抑え、出力はさらに上昇していく。


「勘違いしているようなら言っておきますがね……私は全ての重荷を背負わせる気はカケラも有りません」


 もっと自分を頼ってくれとの意思表示にも思える。『一緒に戦い、支え合う』酷く忘れていた。置いていかれる辛さも俺は知っている。


 全ての蝙蝠を飲み込むと、光は収束し、片膝を突くようにルナが座り込む。


「殺しはしません……ただ、しばらくは動くことすら出来無いですよ」


 ルナが不敵な笑みを浮かべると、次々に獣化の解けた魔族が降り注ぐ。完全に意識を失い、伸び切った状態で倒れていた。


「どうやら見誤っていたのは私(わたくし)のようですわ」 


 神託の光少しずつ弱まって行き、纏う空気に変化が訪れる。


「ユウセイ……言いたいことは山ほど有ります。ですが今は、勝ちなさい!」


 勝手なことを言ってくれる。だがそれはお互い様か……チャンスは今だ。


「任せろ、演舞月ノ舞…… 新月(しんげつ)」


 右の刀身が闇夜に潜むようにゆらりと消えて行く。そのまま切っ先を構え、力の限り振り下ろす。


 夜に放たれたその一撃は、闘気を流れるように吸い込み、切っ先から溢れ出した。


「ちょこざいですのよ、演舞金ノ舞……軍歌(ぐんか)の侵攻曲(しんこうきょく)」


 力強い弦の弾き、低音を中心に構成することで重厚なる音が重なっていく。調律により整えられた音波が重激となり、ぶつかり合う瞬間轟音を上げ、周囲の建物にも影響を及ぼす。


「町への被害は避けたい、場所を変えさせてもらうぞ、演舞日ノ舞……烈火」


 重厚な音はその強さで位置を何となく把握できた。後は相殺し、ヴィーナスまでの道筋を繋げるだけだ。


 刀身を熱く燃え上がらせ、超速の突きを浴びせて行く……重音の予測地点に攻撃を当てて行き、俺たちに届く前に次々に爆破させていく。


「生意気ですこと……轟く雷鳴、サンダーボルテックス!」


 右手を大きく掲げ、飛び出す雷の衝動は衝撃で町並みに飛び火し、崩壊の旋律を奏でる。同時に後方へ飛びながら移動し、ジグザクに後退していく。


 屋根を強く蹴り上げ、全力で走り抜ける。雷の衝動に突っ込み、触れる直前で右手に溜め込んだ魔力を解放する。


「これ以上の破壊はさせる訳にはいかない。優しき月の光よ、ムーンフォース」


 月の光の輝きが雷を飲み込んでいき、押し返すように手を前に突き出す。


「力が増していますのね……それでこそですわ」


 ヴィーナスは咄嗟にギターを縦に、ボードに光が直撃すると、大きく後退する。


「どうしたのかしら?この程度では私に傷一つーー」


 俺はヴィーナスの目の前まで迫り、左手に多くの闘気を注ぎ込む。燻った炎を再び再燃させ、奮い立たせた心に呼応するように、切っ先の炎が溢れ出す。


「演舞日ノ神楽…… 烈火旭(れっかあさひ)」


 激しく鉄を打ち鳴らす音がこだまし、なおもその勢いは激しさを増して行く。連続した金属音に耳を塞ぎたくなるも、無視し、力を限界まで研ぎ澄ます。


「砂浜まで、一緒に付き合って貰うぞ!」


「お断りですわ……エスコートは必要なくってよ!」


 燃え上がる炎が身を焦がして止まない、心がどこまでも猛り、勇気が灯火に日を付ける。どれだけ遠く離れようと、繋がった力は俺に力をくれる。髪先から指先の爪まで細胞に日を灯す。


 暑さは限界を超え、切っ先に全てを注ぐ。


「ーーその姿は」


 アースラ瞳孔が開き、最後の一撃を突き放つ。高い金属音が鳴る瞬間空気を貫く怒号が鳴り、かき消すように音を焼き切って行く。

 

「うおおおーー!ヴィーナス!」


 空気を焼き切るように進み、俺たちは砂浜までの距離800メートルを2秒の刹那に振り切る。砂浜に激突し、巨大な砂埃が舞い一歩下がった位置で俺たちは対峙する。


「ゲホ……ふふっふ、なんて美しい右眼なのかしら?邪魔な左眼をくり抜いて、右眼だけにして差し上げますのよ?」


 ギターを一振りし、砂埃を一蹴する。


「終わりにしようヴィーナス……」


 夜は深けて行き、月明かりのステージが俺たちを照らし出す。観客のいない舞台は月だけが俺たちを見守った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。