燻る火種
全てが終わると、クレンに頼み、それとなく匿名で衛兵に連絡を入れる。答えに辿り着くかは分からないが、まだ俺たちがこの国にいる事は知られたくない。
気絶したクロウを抱えて、早々に退散した俺たちは、クロウの家で目覚めを待っていた。クロウはベッドで横にして、2人は椅子に座り、俺は壁に寄りかかる。クレンたちの身の上話をしていた。
「それで、幼い頃からこいつと仲が良かったのか」
何度目かも分からない俺の会話に頷き、クレンは嬉しそうに語る。
「なんかよく分からないけど、私にちょっかい出す男の子にひたすら喧嘩売っちゃうの」
よく分からないのか……少しだけ不便に思いながらも、自分の状況にも頭を悩ませ俺は複雑な気持ちで頷く。
「それはまた……酷い話ですね、なんで気付いてあげれないんでしょうか?」
視線が僅かにこちらを向いている。気付かないフリを言うのも心臓に悪い、地雷を踏んだと理解しながらも無理に話題を変えれば怪しまれるしどうしたものか……。
僅かな葛藤の後ため息をついたルナは、半ば諦めたように言葉を繋ぐ。
「男と言うのは本当にどうしようも無い生き物ですね」
花の無い、男を下げるコメントに、見つからない答えを探しながらも適当に共感をしておく。無難にやり過ごす……それが俺の最優先事項と信じて。
「そうだな、俺としても否定しきれ無いのが情けないところだ」
「そうですねえ? 情けなすぎて私は涙が出てきてしまいますよ……早くハッキリして欲しいものです」
無難の代償は更なる地雷への呼び水だった。クレンは不思議そうに俺たちを交互に見るが、話題がすり替わっていることに気付き始めた? どちらにせよこれ以上話題が持ちそうに無い。
冷ややかな汗が顔を伝い、冷たい視線と、奇怪な視線に晒され、俺は限界を迎えそうになっっていた。
「お前ら……俺が寝てる時に、何勝手な話をしてやがる」
「良いところで起きたな、ちょうどお前に聞きたいことがあったところだ」
奇跡が起きた……俺が限界を迎えたギリギリのタイミングでクロウが目を覚ます。瞳を開け、不快感をあらわに体を起こす。
「ッチ……分かってる。どうせ言い逃れは出来ないだろうし答えてやるよ」
「物分かりが良いですね。じゃあクレンの何処が良いか、じっくり語って貰えますか?」
「はあ!? お前ふざけるのも大概にしろよ」
話は続いていた……豆鉄砲をくらった烏は、酔狂な声を上げてたじろう。
「私はクロウの良いところいっぱい言えるよ?」
無邪気なクレンは悪気も無く不思議そうな顔をする。
これが素で無いなら、とんでもない悪女だ。俺はいたたまれなくなり、助け舟を出すことにした。
「話を戻そう……クロウ、自分が何の組織に居た理解してるだろ?」
周囲に漂っていた明るい空気は一気に鳴りを潜め、重苦しい空気が支配する。
「ユウセイ、いくら何でもそれはーー」
「優しい言葉だけがそいつの為になると思うな……清算しなければ、前に進めない者もいる」
ルナの言葉を遮り、あえて厳しい言葉を浴びせる。クロウもそれが分かっているのか、じっとこちらを見据える。
「俺はクロウがこちら側だと思っている」
夕焼けが窓に差し込み、昼が終わりを告げようとしている。影が色濃く、顔を視界に収めることが困難で、表情は読み取れない。ここからは夜の時間……綺麗事だけを許さない陰りの刻。
「俺たちは鳥目でな……クレン、隣の部屋にあるランプを取ってきて貰えるか?」
「うん? ちょっと待って、暗いけど場所は分かってるから」
クレンは頷き、部屋を出て行くとそれを見計らい鉄カゴを開け、中からランプを取り出した。火をつけると、立ち上がりドアに留め具をはめる。
「あの部屋に出口は無い、話をするのはお前たちで十分だろ?」
「そうですね、構いません。クレンもその方がいいでしょう」
臭い物に蓋をするように、現実から目を背けるように、そんな事がクレンの為になるのかは分からない……いや、俺はならないと思う。
だからこそ無謀を繰り返す、何も知らない故に……。
「過保護もどうかと思うがな……」
扉を叩く音が響き渡るが、誰一人留め具を外そうとはしない。
「うるせえよ、クレンに“カラス”の説明をする訳にはいかねえんだ」
暗がりのラップの炎に照らされ、僅かに揺れる炎が瞳とその表情を写す。神妙な面持ちで、次へと言葉を繋いでいく。
「人身売買がカラスの資金源だってのは分かっただろ? 主に戦闘奴隷を多く扱っている」
「お前を探しにいく時も思ったが、ここはスラム街が多いと言う見立てで良いのか?」
繁栄裏に見え隠れする闇の顔……世界の縮図であるようなこの場所は、ただただ歪な空気が漂う。
「察しが良いな、戦争孤児が多いこの街は国境付近もあってか、他国の孤児まで流れてきやがる」
「身元不定の戦争孤児は、いくら消えようとバレる事はない、奴らにして見ればこれほど魅力的なものは無いーー」
だから不運にもカラスの拠点に選ばれた。しかし分からない、それにしては構成員が少な過ぎるし、余りにもあっさりとしていた。
「だがいくら足がつかないとは言え、そんなん事は国が許さないし、諸侯が黙っちゃいねえ」
「なら何故そのような事がまかり通るのです?」
「決まってんだろ? 目には目を、諸侯には諸侯だ」
ここに来て相当キナ臭い話が飛び出す。カイトの信頼の元、絶対的な結束力を持つと言う国が他の諸侯領で事を起こすのか?
「とても信じられません……結束の固い海王諸侯同盟が内輪揉めするなど」
「まあ当然だな、だからこそ秘密裏に、“鷹侯”の失墜を狙ってるって話だ。黒幕までは知らねえが人族ってのは分かってる」
頭の痛い話だが、どうも人族と魔族ってのは争い合う運命に有るらしい。同じ国だとしても、そこは変わらないのか……。
「おかしな話ですね、人族がヴィーナスに協力している事になってしまいます」
「末端の俺にはこれ以上は知りようもねえよ。俺が入った理由は一つだけ、クレンが狙われたからだ」
だから変なちょっかいをかけていたのか、奴らの仕事を請負い情報を得る。そこからフレンを逃す為色々していたようだな。
「なら何故嫌われるような真似を……本末転倒ではありませんか?」
「狙われてるのに仲良くできるはずねえだろうが、場所代だってカモフラージュでやってるんだよ」
ルナが言いたかったのはそうじゃないと思う。大切なら、何故キツく当たって突き放すのかと言う意味だ。
俺は視線を向け、黙って聞いていた人物へ視線を向ける。
「なんで……なんでなのクロウ」
「は? お前、なんでここに居るんだよ」
クロウは驚き、焦りの余り声が裏返る。クレンに知られる事は、よほど効くらしい。ルナの顔を伺い、僅かに視線が合うと僅かに口元を緩ませた。
「子供の頃、私とつがいになるって言ったじゃん嘘つき!!」
「このジャジャ馬……いつの話してやがる」
子供の喧嘩のように言い合い、組み合い、笑い合い……守る事ができた光景見詰める。
「守りたいなら側で守ってやれ」
俺は肩を軽く叩くと、家を後にした。ルナも横に並び立つ。人通りの多い道に出ると泊まれるような宿舎を探す。
「少し夜風に当たりたくなったのと、今晩どうするかと思ってな」
「素直では無いですね……二人の邪魔をしたく無いと言ったらどうですか?」
少しトゲがあるように聞こえ、苦笑いで誤魔化す。
「明日からは国境付近の町を片っ端から回ろうと思う」
「それが良いでしょう。潰して回れば、行き着くと思います」
もしくは向こうからの接触の可能性もある。可能性は低いが、もしそれで戦争が止まるなら俺はーー。
夜風に吹かれ、町の夜は更けて行く。仮初かもしれない平穏を刻みながら……。




