表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
63/325

勇気を貫く覚悟

 醜悪な男はクスクスと空気が漏れるような笑い声を上げる。周りの男どももそれに釣られるように声を上げ、余裕の笑みを浮かべる。


「誰だか知らないが俺たちの背後に、誰がいるかも知らない“バカ”が紛れ込んだようだ」


「そのままそっくり返そう……“バカ”に付ける薬はないな」


 前方から2人、後方のクロウ1人動く様子は無しか……闘気を木の棒に込めて行く。カイトの闘気コントロールは凄まじいものだった。カイトに勝つにはもっと闘気を張り巡らす必要がある。


「バカが、隙だらけだ。死ねええ!!」


 飛びかかる相手の懐に飛び込む。まだ相手は反応していない……遅過ぎるのだ。


 横なぐように空気のみを引き裂くイメージ、振り抜き奴らが反応した頃には壁を突き破り下へと転落して行った。


 床を蹴り上げ、男に向かう。しかし男は余裕を崩さず、後ろにあった布を剥がし、中からスピーカーが姿を表す。


「くはははは……お前たちはこれで終わりだ」


 魔道具のスピーカー……受信機のような物か?だがそれは……今はそんな事を悠長に考えている場合では無いな。


「何を企んでいるかは分からない……破壊させてもらう」


 折れた柄をスピーカーに向かい全力で投擲する。男が身代わりになるように入り込み、その攻撃は防がれた。


『演舞金ノ舞(きんのまい)……狂乱(きょうらん)抗争曲(こうそうきょく)


 女性の声と稲妻が走るような音がスピーカーからこだまし、波動のようなものが周囲へと拡散する。音を聞いた男どもと、クロウまでもがもがくように地面に倒れ込む。


 次々と弦を弾く音に衝撃が呼応して行き、弾く度音の波が規則的にこだまする。


「クロウ……大丈夫?」


「クレン、不用意に近付いてはなりません」


 ルナが間に割り込む瞬間クロウが目を見開き、食い殺すような形相で飛びかかる。神託が異様な光を放ち、その瞳はは血走ったように赤く染まり、白身の部分すら変化する。


 さっき聞こえたのは、ヴィーナスの声か……それが意味するのは背後にいる人物は魔王と言うことになる。


「女性に……何をするのですか愚か者」


 表情を僅かに引き締め、右手から光の粒子が溢れ出す。その輝きに目をしかめ、後ずさると容赦なく左足のカカトで左腹部を薙ぎ払う。


「ぐうう……がああ!!」


 そのまま水平に吹き飛び、外の建物にめり込む。舞うように着地し、誇りを払う。俺が頭を抱えると、半泣きのクレンがルナの縁を掴み、指を刺す。


 道理で村での戦闘で助けがいらないはずだ。これだけの力があれば十分戦闘面も期待できる。


「がああ……ううううう」


 驚くべきは牢屋に繋がれた者たちも苦しみ始めた。それを見るに次の行動は想像に難くない。


『ッフフフ……躍り狂いなさい、(もだ)え、苦しみ、焦がれなさい』


 音の波に乗り、脳を溶かすようにねっとりと耳に纏わり付く。弦を弾き、リズムを刻み、脳の深い部分に作用し抜けようとしない。


「幻覚……違うか、脳内麻薬でも分泌する効果があるようだ……ルナ、お前たちは大丈夫か?」


「私たちは大丈夫です……守れ、ライトプロテクト」


 俺に変化はない、ルナたちにも変化は見られず、念のため防御壁を張ったようだ。その瞬間牢の者たちが鎖を引きちぎり、鉄格子を粘土細工のようにねじ曲げ中から飛び出してきた。


「が……なんで、俺まで……がああああ!!」


 踏ん反り返った男の様子も急変し、胸を押さえ、服を引きちぎり、白目を向いていく。神託に金色の光が宿り、その姿は他の者と同じように、狂乱の者へと姿を変えた。


 ルナたちに3人、俺に7人、飛びかかる。的確に腹部を突き、気絶を図ろうとするも怯まず狂った怪力で腕を掴まれる。次々に体を掴まれ、引きちぎるように一斉に力を加え始めた。


「ぐうう……ちょっとこれは、まずいな」


 ミシミシと音が鳴るのは、俺の体だけではない……むしろ狂乱した者たちの方が酷く、血管が浮き出て内出血を起こしているような部分もある。


「ルナ……俺たち以前に、狂乱した者たちに体が予想以上に危険な状態にある」


「分かっています……しかし、これでは手の出しようがありません」


 防壁をひたすらに殴り続け、自身の拳が潰れ、血が噴き出そうと構わず、何度も何度も打ち付ける。クレンは怯えて、うずくまり、耳を押さえながら震える体に身を寄せた。


 ルナの顔から冷ややかな汗が流れる。状況は良くない、何か突破口を見つけなければ……。


「ヒヒヒ……ヒャッハーー」


 クロウがルナの死角から防壁に一撃を入れ、ヒビが入った。予想していなかった攻撃に一瞬瞳が揺れる。後は火を見るよりも明らかだった。


 ーー獣化し放たれた一撃は防壁を粉々に吹き飛ばす。ルナはクロウと飛びかかる3人を撃退する為、集約した魔力を使い、さらなる交戦に出る。


「聖なる守護の光、集い、繋いで悪を貫く槍となれ……ホーリーランス」


 同時にルナの周囲に4本の光の槍が円を描くように出現。輝きを放ち、ルナが右手を空へ掲げると、円はルーレットを回すように高速で廻り出す。


「奴らが警戒するように離れて行く……本能で判断しているのか?」


「下がれ、無礼者ども……我が慈悲に感謝し、(つくばい)、詫びて、その心清めよ」


 一瞬の出来事だった。手を振り下ろし、回転が止まった瞬間高速で同時に4人の腹を貫く。肉体に損傷は無く、貫かれた者は次々に倒れて行く。


 少しだけ安心したように瞬きをすると、クレンの姿がないことに気付く。


 ーーそう言えば、あれは!?


「クロウ……やめてよ、なんでこんなことするの?」


 クレン掴み槍の盾にしたらしく、不気味な笑みを浮かべ、首をゆっくりと締めていく。クレンの表情は青ざめて行き、ことの重大さを告げていた。


「ルナ!!」


「分かっています……手癖の悪い烏は直ぐに叩き落としてーーきゃあ!?」


 俺の方から移動した2人がルナに飛びかかり、地面へと倒れ込む。振り払うことができずに、押さえつけれれたまま為す術がない。


「この……どこを触って、ユウセイ私では振り払えません」


 やはりそうか、力が強すぎるんだ。……どうする? このままではクレンの命は無い、こんなところで死なせるわけにはいかない。


「クロウ、ごめんね……辛かったんだよね? 気付いてたのに助けられなくてごめんね」


 クレンはやっとの思いで口を開き謝る。クロウへ震える手を伸ばして行くが届かず諦め、首を締め付ける手を掴み優しくさすって行く。


「私のためにこんな事してくれたんだよね? クロウは意地っ張りで本当の事は言ってくれなかったけど……私はちゃんと分かってたよ」


「ぐううう……クレン……一々、うるせえんだよ」


 目に僅かな正気が戻ってくる。行使する力と抵抗する力がぶつかり合い、腕が曲がり2人の距離が近づいて行く。クレンはクロウの背中に手を回し、弱々しく抱きしめる。


「帰ろう? 話したかった事、見せたい物、行きたい場所……いっぱいいっぱい、あるんだよ?」


 笑いかけ、その瞳には多くの水滴を蓄える。不深いため息をつくとクロウはクレンを突き飛ばした……苦しさなど忘れ、心が満たされたように覚悟を決めた男の顔。


 ーー俺は認めない。どいつもこいつも勝手だ……知ったような顔で、満足しながら先立って行くのは止めろ!!


 神託が強く輝く、その光に苦しむように、拘束が解けていき……一つの答えにたどり着く。


「そうか……一か八かだ!!」


 燃えろ魂の日……廻り巡りて、奇跡を呼び起こせーー。


 俺は揺り籠(クレイドル)へと手を掲げ、目的へと手を伸ばす。放たれた蒼き光の収束と共に、覚悟の軌跡を照らし出す。


「演舞日ノ神楽……烈火旭(れっかあさひ)


 円環を伴わない日ノ神楽は、制御を乱す。だからロッカとの戦いの時、途中で威力が落ちて行き、まともな戦いにならなかった。


 ーーだがそれは甘えだ。やらねばならない、失いたく無いものがあるなら、その都度限界を越えろ、それが勇気の信託に与えられし可能性の権利ーー。


「安心しろクロウ……誰も死なせない、俺の存在がここにある限り、世界の理(ディストピア)は否定される」


 熱く、激しく、雄々しく、刀身の炎は自身さえ焼き尽くすほどに燃え上がる。刀を後方に引き突き立て、放たれる刺突の7連撃が俺の前にいた5人、ルナに覆いかぶさる2人を打ち抜く。


 仰け反り倒れ、引き摺り出された隷属印を再び撃ち抜いて行く。砕け散り、足に極限の力を加え、蹴り上げ、クロウの眼前へと一気に詰め寄る。


 驚き、戸惑い、強張る男に刹那の踏み込みで、その左手に切っ先を突き立てる。夜明けの空から、眼前に突き刺す高速の刺突……その一撃が貫いた。


「ぐう……うおおおーー!?」


 衝撃は周りのスピーカーを吹き飛ばして行き、弾き出された隷属印はひび割れ、貫かれ、砕け散る。


「ええっと……終わったの? あっ……」


 最後の余力で、クレンの隷属印も破壊しておく。刀をクレイドルに戻し、ルナに手を伸ばす。


「終わったぞ、立てるか?」


 少しだけ口角を下げ、手を伸ばしてきた。それでも素直に受け取り、ゆっくりと立ち上がる。


「今回の件……アースラに書面を送るべきでしょう。余りにも穏やかでは有りません」


「ああ、それにヴィーナスの能力は戦争時に厄介な事になる」


 ルナが頷き、俺たちは壊れたスピーカーの山を眺める。さっきのは一体なんだったのか? 答えはこの国を進んだ先に有る。


 


 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ