カラスの巣
いざと言う時、誰かが助けてくれるとは限らない。弱きは挫かれ、地に伏せる定め……俺はそんな世の不条理を認めたくは無い。
友に対する贖罪なんて高尚なモノじゃ無い……コレは八つ当たりだーー。
俺は考えをまとめ瞳を開く。不安に駆られ意を決した少女に……答えを求める。
「……考えは纏まったか? 言っておくがこれ以上は待たない」
少女は頷く、決意に満ちた……良い瞳をしている。
「クロウはお金を集めるために、良くない連中と絡んでるの……昔はあんなじゃ無かった」
「それは“カラス”……と言う事で間違い無いですか?」
表情の変化に乏しいルナの顔が明るく無い。少しだけ悩む仕草を見せ、町中へと視線を移す。
「どうしてその名を? 私でも調べるのに苦労したのに」
クレンは口元を押さえ、瞳が大きく揺れる。動揺は目に見えた形で現れた。
ーー察するに鳥としての意味ではなく、“カラス”としての言葉そのもに意味があると考えて良い。その様子から察するに、ろくな組織ではなさそうだ。
「ユウセイ、貴方なら奴らの討滅など造作もない事です」
視線をこちらに戻しながら、その先の言葉に繋げる。
「潰せは動きを早める者がいます。それは、私たちにとって好ましく無い」
「随分遠回しに答えるじゃないか」
この手の連中に金を集めさせるとなると、革命を企てる組織の可能性が捨て切れない。闇社会の住人……そんな組織を敵に回した状態で、戦争を止めるなど正気の沙汰では無い。
「素直に今回の話はなかった事にした方がいいと言ったらどうだ?」
ここでようやくクレンにも話が飲み込めて来たのか、表情を徐々に曇らせていく。
「まってそれは、お願い……勇者様なんでしょう?」
クロウの話を聞いていたか、まあ良い。隠す意味は無さそうだ。
「そうだ俺は勇者だ……だから曖昧な話でお前の願いは受けられない」
「ユウセイ……何を考えてーー」
「お前の心からの叫びを聞いていない……クレンはどうしたい」
俺の言葉を聞き口を紡ぐように、空を仰ぐ。まるで届かないものに手を伸ばすように、果ての彼方を見つめる。
そうだ叫べ、取り繕わなくて良い。お前のお前だけの言葉で語れ、その想いは弱者にも許された当然の権利。心で猛れ。
「私は……クロウと話がしたい、会って昔みたいに2人で笑い合いたいの」
ルナはもう諦めたようで、一歩引いた位置から俺の顔を見つめる。俺の考えを汲み取り、合わせようとしている。
「私とて、意地の悪い事を言いたいわけではないのです。ただ、この話はきな臭いです」
「俺は弱さを理由に、踏みにじられる事を許せない」
俺が両手の拳を握ると、二つの神託は共鳴をし、高め合うように光を強くして行く。その様子にクレンは視線を交互に動かす。
「紋章が二つ? 聞いた事がない、眼の色もそうだけど……普通の勇者じゃない?」
理解が追いつかず色々考えながら答えを求めてくる。
紋章……ここではその呼び方なのか、まあ普通ではないが自惚れるほど持っているわけでもないのも事実だ。
「分かりました……貴方のそう言うところは悪いとは言いません。しかし、居場所も分からずどう探すつもりですか?」
ルナの意見は最もだ。だが俺も当ても無く言ったわけじゃない、クレンの反応を見れ見た時ある仮説に行き着いた。
「クレン、お前は他者の闘気が見えるんだよな? なら、クロウを見つけられるんじゃないか?」
少女は迷いはしなかった。頷き、決意の瞳で語る。
「うん、私は建物の中でもある程度近づけば分かる。クロウはいつも闘気を燃やしてるから、特に分かりやすいと思う」
「よし、なら後はアジトがありそうな所を回るだけだな」
俺は近くの建物に向かい走り出すと、足と手に闘気を集中させる。地面を蹴り上げ、建物の軒を掴むと腕の力を使い一気に投げ捨てるように飛び上がる。体をひねり、反転して着地する。
「うわ……人族なのに、牙の民みたいだね」
「まあ人族離れしているのは確かですね……最近また頑丈になりましたし」
ついた時は海ばかり見ていたせいか、町並みに視線を向けていなかったのがよく分かる。改めて見渡してみると、平坦ではあるが、日陰者が好みそうな場所がちらほら……。
「どうですか、奴らが好みそうなところがありますか?」
「ああ、捕まれ……ルナの意見も聞きたい」
そう言うと下に手を伸ばしルナの手を掴む。ゆっくりと引き上げ、完全に登るとクレンも翼をを羽ばたかせ、上がってきた。
「この町は明るい場所と暗い場所がハッキリしていますね」
目を細め、視界に広がる光景に苦言する。
ルナの言う通り、これほど明確に明暗が分かれているのは異常ではないかとも思う……意図的に操作している者がいるなら話は別だがな。
「あそこ……クロウの闘気を強く感じる。メラメラと燃え上がって、よくない状態こんなに遠くから見えるのは普通じゃない」
状況は良くないか、なら一刻を争う。呑気に下を進んでいる暇はないな。
「ルナ、俺たちに防御魔法だ。クレンはついて来い」
俺はルナを両手で抱え、一気に走り出す。足に闘気を集中させる事で、蹴り上げる力を強化し、疾風の如き速度で駆け抜ける。クレンもそれに次いで飛行し、一直線に進んでいく。
「ユウセイいきなり抱えないで下さい。本当に……ああ、もういいです」
今文句を受け付ける暇はない、ルナの意見を無視し、ひたすらに突き進む。クレンもなんとか追従し、必死に追いついてくる。
「聖なる守護の光、守り、導き、不変となれ……輝け、ライトプロテクト」
光が俺たちを包んでいく、攻撃に対する警戒は最小限に抑えられた。なら後は速度を上げればいい。
俺たちはスピードを上げ、一気に距離を詰める。クレンを俺の後ろに回し、空気抵抗をできるだけ少なくする。確か、スリップストリームと言ったか?
「ユウセイ……見えてきました。どうやらあの建物の二階が怪しいですね」
「クレン……そこで問題ないか?」
「そこ、クロウの闘気が、そこから強く出ている」
よし、なら遠慮する必要はないな……闘気の層を拳に集中させる。ルナを背後に避難させ、防御壁から俺は飛び出す。
「監視に気づかれる前に、一瞬で突き破る」
ーー次の瞬間壁を突き破り、俺は建物侵入した。瓦礫を防御壁が防ぎ、ルナとクレンが中に入る。
「な、なんだテメエらーー」
男の腹部に左拳を叩き込む。右手で手に持っていた槍を膝で折り、長さを調整し、そのまま振りかざす。少しの鈍い音の後に、吹き飛びそのまま気絶する。
「お前ら……どうしてここに」
クロウは驚いた顔を見せるも、瞳が揺れていない。演技も良いところで、食わされた感が半端ないのが尺に触る。
「クロウ、話をしに来たの……こんな事辞めよう?」
クロウはクレンを見ようともしない。この男も面倒な事だ……だが今は、それどころではないな。
「初めて見る顔だな、この町……他国の住人か?」
部屋の奥で椅子に座り、いかにもなシチュエーションで助かる。これで間違えたなど、笑い話にもならないからな。
「悪いがお前たちはここで潰させてもらう。原因は俺の逆鱗に触れたとかでどうだ?」
実際は半々と言ったところだが、ここに来て更に怒りが湧き上がるのを感じる。周囲は牢が置かれ、多くの人族が繋がれている。魔族もいるが、その数は少ない。
俺は遠慮なく怒りを底上げし、親玉の男を再び視界に収める。




