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モノクローバー

 男が深く呼吸をすると、その目を細める。敵意の視線は感じるが、戦う意思はまるで感じられない。


「ああ? なんで来ねえんだよ、まさか不意打ちしておきながら正々堂々ってか……下らねえ」


 男は嫌悪するように顔をしかめる。下らないものと称し、唾を吐くように一蹴する。


「お前が戦う意志を見せたら、追撃しようと思ったんだがな……どうもその気は無さそうだ」


 視線を傾け、瞳孔の先は何を見る?コイツは暴れているように見え、この子を攻撃はしていないし、思ったよりも知的な印象を受ける。


「は、調子に乗るなよ勇者様……戦いってのは勝たなきゃ意味がねえんだよ」


 神託が輝き、手に鋭利な爪が現れる。翼を羽ばたかせ、地面を蹴り上げると俺の手を掴み空高くへと飛び上がった。


「俺のことに詳しいんだな……どこで知った?」


「企業秘密に決まってんだろ、知りたきゃ金を出せよ」


 答える気はなしか、それなら仕方ない……早々に終わらせる。


「ここは俺の独壇場だ。離されたくなかったら、大人しくしてな」 


 すでに上空10メートルを超える高さまで飛び立つ、足元を見れば竦むような景色が広がる。落ちればタダでは済まないだろう。


「そらっ……こっからがお楽しみだぜ」


 ニヒルな笑みを浮かべ、俺を宙へと放り投げる。宙を舞う俺に対し、更に獣化を加速させ、飛びかかる。


「演舞(つばさ)ノ舞……紅端烏(べにはしがらす)


 翼のを大きく広げ、突き飛ばすように強襲する。攻撃を避けることができず、俺に直撃すると少しずつ翼が紅く染まっていく。


 四方八方から強襲を繰り返し、無防備な体に次々と翼を打ち付ける。


「どうしたよ勇者様は防戦一方か? このままじゃああっという間に勝負が付いちまうぜ!!」


 挑発的な言動を繰り返し、角度を変え、向きを変え、飛び方を変え続け、目を回すような強襲が繰り返される。獣化が進むたびにそのキレ、威力は増して行きく。


「この程度俺には何の意味もない……俺を殺したければ勇者か魔王を連れてくるべきだ」


「強がりもそこまで言えれば大したものだ……じゃあとびっきりの大技でとどめを刺すぜ」


 やがては完全な烏へと変貌すると、足で俺を掴み更なる高さへと放り投げる。そして俺の真下に回り込み、一直線に急上昇する。


「演舞翼ノ舞……大気の層を突き破り、流星の如く振り注げーー星烏(ほしがらす)


 漆黒の羽ばたきにより星は降り注ぐ突き上げる一撃は空気の壁をブチ破り、くちばしを突き立て、迫りくる。


「演舞日ノ舞……陽炎(かげろう)


 鞘から剣を引き抜き、刀身が烏を映し出す。落下の速度に合わせ、視界を開くために空気を裂いて落ちていく。


 ーーぶつかり合う刹那、炎が大きく揺れ、吹き飛ばすように炎が広がる。星は幻影を貫き標的を見失い、乱飛行する。


「今のは……幻影か、だが今度こそ逃さねえぜ」


 俺は剣を右手に持ち変え、落下したまま違う闘気を込めていく。星も急旋回し、重力の力も乗せたまま恐るべき速度で急降下する。


「演舞月ノ舞……月華絢爛(げっかけんらん)


 刀身に蓄えられた闘気が、淡い光を放つ。月夜に導かれるように光が満ち、緩やかな景色の中で、調を奏でるように刻は移ろうーー。


「ーーこれはなんだ、月?」


 息を飲むように剣が鞘に収まる。時は動き出し、澄んだ音とともに星は輝きを失う……瞬きの瞬間ーー漆黒の翼が紅く染め上がる。


「一体何が……がっは!?」


 血飛沫が宙を舞い、地表がすぐそこに迫る。俺は落下する男を掴み、背を下に向け庇うように受け身を取る。


「吹き荒れろ……エアーストーム」


 落下寸前、僅か10センチと言ったところで、空気の渦が巻き上がり、俺たちをすくい上げる。凄まじい突風は俺を1メートルの高さまで持ち上げると、自然と消滅した。


「助かったよ、ルナ」


「助かったではありません……心臓が止まるかと思いました」


 俺が体制を立て直し着地しすると、近づいてきたルナは頭を抱えながら抗議する。


 軽く笑い言葉を紡ぐ。完全に任せてたとは言え、そのまま落ちてたら……いや、普通は大怪我する。俺も闘気を完全に使いこなせているわけじゃ無い。


「ごめんな、心配させた……ただ信じてたとは言わせてくれ」


 僅かながらの罪悪感で、頬を描くように答えるも表情は硬いまま……ため息をつかれる。


「クロウ、しっかりして……癒せ、ヒール」


 やり取りをしていると、白羽の少女が駆け寄り黒羽の男に回復魔法をかけた。その回復速度には目を丸くする。得意なのだろうが、治る速度が尋常では無い。


「クロウ……それがその男の名前か?」


 少女は我に帰ったように回復を途中で中止し、庇うように立ち塞がる。両手を広げ、翼を広げ、震えながらも庇おうとする。


「止めて、クロウは悪くないの……私が弱いから、いけないの」


「それはどういう意味だ?」


 不可解に思い聞き返すと、クロウが目を覚まし少女に対し足を振り上げる。その攻撃は鋭く、当たれば致命傷になりかねない。


「見下すんじゃねえよ“鶴”の雑魚が余計な真似するな!!」


 少女の手を引き、紙一重で攻撃は宙を舞う。しかしすぐに手を伸ばし、少女の髪をつかもうとする。それを手刀で叩き落とし、クロウを蹴り飛ばす。


「いい加減にしろ小悪党……来るなら()()で来い」


 羽を広げ勢いを殺し、着地すると歯ぎしりをする。後ろを向き飛び上がろうとし、俺は止めるために右手かざし魔力を込めていく。


「ーーまって」


 俺の手は少女に捕まれ、クロウに向けられる事は無かった。クロウは一度だけ目線を向けるも、すぐに振り返り町中へ低空飛行し、飛び去っていった。


 こうなればもう追えはしない、隠れられ完全に見失うことになる。俺は少女に視線を向け、口を開く。


「どういう事か説明してもらうからな、あとルナもわざと逃したろ」


「それはそちらの方に聞かれてはどうですか、私も手を出せば無理やり止めたでしょうし、魔法の盾になられてはかないませんから」


 少女の顔を覗くと体を震わせ、後退りをする。怯えたように下がり、ルナの後ろに隠れる。


 ……そんなに怖いなら何故庇う。言ったところで余計に怯えるだけ、俺は視線を逸らし立ち去った方角を見つめる。


「俺に言いたく無いならルナに言えばいい……俺は町並みでも眺める」


「大丈夫……ちゃんと話す。だから、闘気を鎮めて」


 俺は目を見開く……この少女は何と言った? 他人の闘気は視覚出来ない、常識だ。だがこの少女は鎮めてと言った。俺は少女に詰め寄る。


「落ち着きなさい、ユウセイ何を考えているのですか!?」


「……悪い。少し落ち着く」


 少女は怯え、再びルナの後ろに隠れた。ルナも眉間にシワを寄せ、軽蔑するようにこちらを見つめる。


 息を数回吐くだけでいい……一旦深呼吸をすると、ゆっくりと少女に視線を向ける。


「悪かった……これで大丈夫だろうか」


 出来るだけ柔らかく取り繕う。ようやく少女は安心し、後ろから出てくる。


「私はクレン……激しい闘気の方、さっきはごめんなさい」


 丁重に頭を下げられ俺もいたたまれなくなる。気を紛らわすように口を開く。


「俺はユウセイ……で、こっちがルナだ」


「よろしくお願いしますね? クレン」


 俺とルナの顔を交互に見つめ、何度もうなずく。


 そこで気付く、クレンの目は薄い青……水色が近いか? ともかく、魔族でありながら正の気が強い。


「お願い……クロウを助けて」


 意を決したように放たれた言葉はとんでも無いものだった。俺から見ればあいつはただのゴロツキだ……救う価値があるとは思えない。そもそも何から救う?


「……分かった話は聞こう」


 クレンは嬉しそうに笑う。だが俺は水を刺すように、そのあとの言葉を続ける。


「だがそれはクレンが正直に話せばだ……出来ないならこの話は無かったことになる」


 クレンはゆっくりと喉をな鳴らす。厄介ごとに首を突っ込んでる暇はない……だがこの少女の必死さに何も感じないわけじゃない。


 ーーあとは照らされた救いの光を、どう目指すか?


 そんな事に思いを老けながらゆっくりと瞳を閉じる。

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