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魔族の暮らす町 

 馬車に別れを告げ、関所に向かいひたすら進んで行く。海は目と鼻の先だが、手順を踏まずに国境を越えれば待っているものは想像に難くない。


「関所が見えてきましたよ? あ、向こうも気付いたみたいですね」


「そうだな、とりあえず許可証を出して備えるか」


 ルナがアースラから受け取ってくれた許可証を取り出し、兵士に見えるように提示する。こうしないと攻撃される事も有るから、意思表示は確実に行うべきだ。


「国境警備隊だ。通行証を確認しにきた」


 魔族の男、目の色は……薄い赤色か、負の力はそこまで強いわけではないか。こちらの目の色を確認し、体が強張るも口を紡ぎ、背筋を伸ばす。


 許可証を差し出しすと、ぴくりと反応を示し戻って行く。上の者に確認をとっているのか、その時間は短く無い。


「し、失礼しました勇者様方……どうぞお通り下さい」


 許可証の時点で気付かないのは、新入りだったからか……コレを持つ者はそう多く無いので、無理はない話かも知れない。


「そこまで畏まらなくていい、じゃあな」


「失礼しますね」


 問題なく門を通り抜け、先に進む。


「待てよ勇者……本物かどうか、まだ分からないだろ?」


 ルナの顔を見ると軽く息をつき、俺も頭を抱えるように振り返る。そこには先ほどの新人と、腕を組み仁王立ちする男に姿があった。


「ま、不味いですよ先輩……勝手なことしたら隊長に怒られますって」


 新人が慌てながら(なだ)めるも、男は気にも留めない。終始ニヤつき、品定めするような視線で俺を捕らえる。


「問題ない、勇者であれば瞳の色は青だ……だが奴らを見てみろ? 片側が蒼と、両眼が蒼。そうなれば実力で測るしかねーだろ」


 ルナがこちらに視線を向ける。


 そんな目で見られても俺のせいではないし、どこにでもいる“アホ”は直ぐに自分の力を試したがる。問題にならないと思っているのだろうが、変に自信が付くのも考えものだな……。


「辞めておけ……お前じゃ俺には勝てないし、厳罰を受けたくなければ早々に職務に戻るべきだ」


「問題無い、負けたら恥ずかしくて告げ口は無理だろ? 明るみに出ることはないさ」


 そこまで言われて俺はようやく理解した。コイツは負けるつもりなど微塵もない……どこで自信をつけてきたにか知らないが、手を出したとなると俺にも問題が残るしどうしたものか。


「ここまで無礼ですと、心底嫌悪を抱きますね……“カラス”ども」


 ルナの一言で男は飛び出す。槍を構え、心臓を貫くように刃を突きかざし、俺はそれに対応する為両手を構え、間合いを一気に詰める。


「お前の武勇伝に刻まれる事はない、精々“恥”を隠しながら慎ましく生きていけ」


 演舞にならない位の僅かな闘気を込める。左手に膜を張るイメージで、力を浸透させていく。足を踏み込むと、突き出す拳が加速するように男の腹部に吸い込まれて行く。


「ユウセイ手心は加えてください……流石に殺す訳には行きませんので」


 拳が直撃する2センチ手前で静止する。やがてめり込むような音が鈍く鳴り、触れていない腹部が陥没する。闘気を纏い、拳に集中させた。力の塊は触れずとも対象を軽々と屠る。


「な……にを、しーー」


 ーーようは意識を刈り取る……食らえば最後立ち上がれはしない。


 男の眼は白を剥き、崩れ落ちる。後輩の男は尻餅をつき、恐怖に怯えた表情で後ずさるように下がって行く。


「ひ、ひいいーー、助け……」


「全く……ユウセイが穏便に済ませていただければ、怯えられる事も無いでしょうに」


 ため息をつき、俺の行動を非難する。


「そうは言ってもな、中途半端をして逆恨みされても厄介だ」


「まあ、それはそうかも知れませんが……ねえ? 君」


 ゆっくりと近づいて行き、男の前でしゃがむ。眼と眼を合わせ、吸い込むように蒼い瞳で見つめる。


「私たちは貴方に危害を加える気はありません……ここまでは良いですか?」


 男は必死に首を縦に振る。喉元を鳴らし、表情の一切変化しない顔をジッと見つめる。


「彼は……熱中症で倒れ、意識を失った。私たちはなにも関係ない」


 瞳に涙を蓄え、小刻みに震えだす。あまりの恐怖に、ただ頷くことしかできず、息を殺す。


「ありがとうございます……これで私も、間違えずに済みます」


 その一言が決め手だった。息も忘れ、白眼を剥き、泡を吹きながら倒れ込む。


「衛兵さーん……2人が熱中症で倒れました」


「おい、本当にそれで通すつもりなのか?」


 ルナは平然と嘘をつき先を急ぐようにその場を後にする。俺も足並みを合わせ、先ほどの光景に息を漏らす。


「さっきのは傑作だったな? アレじゃ、俺よりルナの方が怖かったんじゃないか?」


 俺に冗談に少しだけ口角を吊り下げる。不服だったらしく、詰め寄るように近づいて来る。


「あれは……あの男が軟弱だっただけです。勝手に眼を回して倒れました」


「お? あっちに市場がある……行ってみるか?」


 もしやと思ったが、近づいてみると多くの商店が軒を連ねる。


「行きますけど……話を逸らさないで下さい」


 俺が目的を見つけ進路を変えると、慌てて後ろから追いかけて来る。俺が答えず、町並みに意識を集中していると、諦めたのか何も言ってこなくなった。


「確かアースラから活動費が出てるんだよな?」


「そうですね……三千ゼルほどいただいています。これだけあれば必要な物は大抵揃うでしょう」


 気前の良いことだ……だが、プルート? を倒したんだから褒賞金をもらっても良いと思うのだが、それは後で請求するか。


 幸いゼルは世界共通通貨……詳しくは知らないが、星のワルツの決め事とかなんかだったな……色々謎が多いが、少しでも争いを無くそうとした形跡は各地にある。


 それでも争いは消えない……むしろ逆行している。俺は複雑な思いで、世界に思いはせる。


「あそこは……ルナ、変わった商品がある……見てみないか?」


「変わった商品ですか……ユウセイに任せます。私に合いそうなものを見繕って下さい」


 それが一番困る……言われた通りにすると、そうじゃ無いだの後で言われる奴だな。


 言い返しても始まらない為、適当な商品を手に取って、その具合や感触、素材などを確かめる。道具は長持ちするのも大事だが、合う合わないもあるし、慎重に選ばないとな。


「コレは……竹に似てるが、植物をくり抜いて水筒代わりになる」


「水分を持ち運ぶのに便利そうですね、こっちは塩などを入れるのに良さそうです」


 思ったよりもう良さそうなものが多く驚いている。買い物は早々に終わり、ひとまず昼食にしたい。場所を移し、立ち去ろうとすると人混みを発見する。


「何度言わせるんだ? 金だよ金……ねえなら見繕え、無理やり買わせろ、頭を使え」


 穏やかな発言では無い、張り詰めた空気が何より物語る。


 人混みをかき分け進んで行くと、背中に黒い羽を生やす男が、白い羽を生やし、跪く少女に罵声を浴びせていた。


「無いの、ごめんなさい……明日なら払えるから」


 力無く謝る少女に男は詰め寄る。不機嫌そうに眉間にシワを寄せ、台の上に並べてある花と木の実に視線を移す。


 ーー次の瞬間それらは中を舞う。


「ああ? こんな物で金出す奴がいんのか? ええ? 工夫しろよ、戦闘力だけじゃなく脳味噌も雑魚かよ」


 落ちた花を踏み潰し、薄く笑いながら赤い瞳で顔を眺める。何かを思いついたように含み笑い、その言葉を発する。


「まあ、ねえ物はしょうがねえ……体で払うか?」


 少女はぴくりと体を跳ねる。呆然と男を眺め、固まった状態で見つめる。


「不愉快ですね……早々に立ち去りなさい」


 ルナの一言に周りの視線が集中する。振り返るように男と目が合うと、一触即発の空気が流れる。


「何だ? お前が身代わりになるか? 俺はどっちでも構わない、金になるなら何でも良い」


「ーーそれ位にしておけ」


 男が俺を視界に捉える前に、闘気を込めた蹴りを打ち込む。男は瞳孔を見開き、刹那に5メートル先の壁に激突する。野次馬たちは慌てて逃げ出し、人の気配が一気に無くなる。


「げっほ……テメエ何者だ」


 腹を抱えながら、男はフラつく。倒れはしない、弱い相手では無いが……その蛮行を許す理由にはならない。


 俺は拳を握り締め、戦意を男へと突き立てる。



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