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リバース・ザ・ネメシス 昇華のカケラ

 ユウセイが眠りに着いてもう2日目になる……炎鷹(えんおう)の勇者となったロッカ・ヴォル・フェニックスとの戦いの後崩れ去るように意識を失った。


「よく頑張ってくれました」


 椅子から立ち、ベッドに横になりユウセイの頬へと手を伸ばす。体温に触れた瞬間……体が一瞬跳ねる。(てのひら)を頬に這わせて行き、温もりを感じながらゆっくりと摩る。


 手を止めてしまえば、この熱さと心臓の音が、全て伝わってしまいそうで臆病な私はそれ以上の行為を容認しない。


 貴方は私を忘れてしまうけれど……私は()()()貴方を覚えている。貴方の想いは消え去り、私の想いだけが募って行く。


 いっそ心の(おもむ)くまま……流され、溺れて、しまおうか?


「あなたが(ささや)く言葉は、過去ですら無い……全て暴虐(ぼうぎゃく)の彼方で失われた史実」


 意識が遠のいて行く……アレはいつだっただろうか?何度目の記憶は定かでは無い。悠久(ゆうきゅう)の果てに、数えると言うことを辞めてしまったのだから……。


 ……深い微睡(まどろみ)の中、私の意識は深層心理へと落ちて行く。


 ーー今でも何度も思い出す。しつこいぐらい鬱陶しい、疼きの夜明けだった。


「本当に眠らないんだな」


 遠くを見つめながら夜明けを待ち続ける。飽きないのかと言われることもあったが、コレ以外することがない。幸い待つ事には慣れている。


「誰かと思えば、ユウセイ……貴方ですか」


 明けの空の果てを眺め、たたずむ私に声をかけてきた。まだ暗いと言うのに殊勝(しゅしょう)な事だ。私の隣に並び立つと、笑いながら視線を向ける。


「ただのお湯だけど、無いよりは良いだろ?」


 そう言うとコップに注がれた白湯を私に差し出す。息が白くなるほどの外気の中……その暖かさは人にはありがたい事だろう。


「ありがとうございます」


 深くは考えず……差し出された物を受け取る。横目で飲むのを確認すると、私も口をつける。


 最近の私はおかしい……遊星と話す度、私が私でなくなるようだ。逐一その行動言動に意識を持っていかれる。危険だ、戦場で命取りになりかねない。早急に解決策を講じる必要がある。


「こんな所でどうしたんだよ……あんまり離れると守り切れない」


 ーーまただ、心が振れる。


 何故? 当然自問自答に答えなど存在しない。答えの解けない気持ち悪さだけが残り、思わず顔をしかめる。


「私は“神”です……守っていただかなくとも死にはしません」


 複雑そうな表情でそれを飲み込んだのか、それ以上を追求しては来なかった。私としてもそれは望ましい。このやり取り自体、意味は無いのだから……。


「そう言う意味じゃ無いんだけどな」


 乾いた笑いでどことなく気を落としているようにも感じる。追求しようにも、答えようとしない為その話は流れた。


 しかし私は悔いることとなる……どうしてこの時もっと話をしておかなかったのかと、後悔などいくら重ねようと時計の針は戻らぬと言うことを知っているのに。


 あの背中を追いかけ、追いつき、並び立つだけでは容易に壊れてしまうことも忘れ、今に甘んじた結果が現実を告げる。


 戦場で朽ち果てるユウセイをただ見守ることしか出来ないのが心苦しい。


 仲間も親友も何もかもが犠牲になったのに私だけが生き残り、醜態を晒し続ける。それどころか、禁忌とされた感情さえ抱き、その心に安寧を求めた。


「ああそうか、コレが私だけ生き残った……罰なのですね」


「悲しいことを言うなよ……生き残った事には意味が有る……命は繋ぎ、受け継がれる物だ」


 鮮血が溢れ出る口を動かし、必死に言葉を紡ぐ。弱々しく顔にはヒビが入り、受けた呪いのような傷が並の外傷では無いことを証明している。


「俺の思いはルナに託すよ……だから悲しむ事はない。そんなに濡らしたら、綺麗な顔が台無しだろ?」


 震える手で私の頬を何度もさすり、瞳からこぼれ落ちる熱い血潮がユウセイの手を伝って行く。


「嫌です……私は離れたく無い、やっと……やっと私の気持ちに気付けたのにーー」


 伝えたいのに、目の前の貴方は足元から崩れて行く。この瞬間にさえ一歩を踏み出せない。ひび割れた大地のように崩れ消え去り流れる。止める手段がない、女神が聞いて呆れるこんなにも無力な私自身に絶望する。


「崩れる体を抱きかかえることしかできない……私は貴方をいつも突き放したのに、変わらぬ笑顔で私に語りかける」


「初めは危なっかしく思っていた程度なんだけどな……危うさに、儚さに惹かれた」


 ユウセイは何度も私に語ってくれた言葉を紡ぐ。この世界線も、どの時でもユウセイはユウセイだった。諦めずに何度も何度も、私に暖かさを差し伸べる。


「ルナを笑わせたくて、必死に言葉を見繕って、空回って……いつの間にか目で追っていた」


 その言葉が嬉しくて、同時に悲しい何度も私は頷く。どうして私は何もかも遅い……何度この痛みを繰り返せば、終わることができるのだろうか?


「その役目は次の俺に託すよ……俺は失敗だった」

 

 私は瞳孔を震わせ、何度も首を横に振る。否定しなければならない、ユウセイが失敗したなど、断じて認める訳にはいかない。


「否定しなくなったな……まあ、勘付いてたよ」


「そんなことはどうでも良いことです……もうこれ以上喋らないで下さい……」


 言葉を発するたびにひび割れは加速して行く。ここままでは数分と持たない……命が尽き果ててしまう。抱きかかえる力を強める。

 

 ユウセイが伸ばした手が私に振れる直前……砕け散る。名残惜しそうに消えない痛みを残し、砕け、チリとなって行く。


「お別れだ……さらば愛しきーー」


 その言葉が私に届くことはなかった。私の言葉を伝える暇などなかったように、ユウセイの言葉すら私にとどかなかったのだ。


 自覚した気持ちも、この想いも伝わらず……私は失意と繰り返される慟哭(どうこく)の中……禁術を唱える。


「時を司る神の指針、戻り巡りて永遠の、旅路の果てに終焉を……リバース・クロノス」


 巨大なからくり時計が空に現れ、少しずつ速度を上げながらやがて針が円になる。指針は1カ所で停止し、私は時の狭間へと沈んで行くーー。


 ……微睡に終わりが近づき、ゆっくりと瞳を開け、意識が覚醒する。


 私は息がかかるほど近くまで顔を近づけ、瞳を揺らす。


「ユウセイ私がこんな気持ちを抱くのも……貴方だけなんですよ?」


 今までと大きく違う貴方に戸惑いながらも、貴方の想いが知りたくて、臆病な私は今日も忘却にすがる。

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