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海王諸侯同盟へ

 休憩所? の扉を開ける。直ぐに飛び出そうとした際、影が飛び込んできた。俺はとっさに下がり、赤い髪とその瞳を見つめる。


「もう良いのかしら……三日三晩寝込んでいたらしいけど?」


「意外だな、わざわざ待っていてくれたのか?」


 ロッカはその言葉で嫌そうに顔をしかめる。


「冗談はやめて、色々聞かれたり確認したり……報告を纏めていて今終わったところよ」


 軽いため息をつき、眉間にシワを寄せる。


 少々疲れのようなものも見え、その言動に嘘はなさそうだ。と言うか、よくその程度で済んだと思うが……勇者を偽るのは重罪、嘘から出た誠とは言え寛大な対応だ。


「何かしら? 私の……貴方その髪、色が戻ったのね?」


 言葉を半ばで止め、何かに気が付いたように話題を切り替えた。


「私から説明させていただきます」


 どこから話したら良いものかと悩んでいると、間にルナが入り込む。


「貴方は……ルナ、だったわね」


「話も長くなりますし……一度座りませんか?」


 表情は崩さず椅子のある方角へと手を伸ばす。頷くとそのまま椅子に座り、先延ばしにされた話が始まる。


「ユウセイの髪ですが、戦いの後医務室に運ばれた際……直ぐに戻っています」


 そんなに早く戻っていたのか……まああの状態が続いたら、体力的に持たなかったかもしれない。それほどに消耗が激しかった。


「神託はそのまま……瞳に関しては、右眼が薄まりつつ有ります。ただ直ぐと言うほどではなく、活動をする度に減っているようにも思えます」


「少し待ってくれ、それじゃあ今も俺の右眼は少しずつ薄くなってきているのか?」


「はい、もう薄めの赤と呼べるところまできています。このままなら直ぐにでも元に戻るでしょう」


 アースラが言っていた事を思い出す。俺には負の力を制御する力が無い……だからこそ染まった右眼も戻るのか。


「そう……あの力は常時使えるわけでは無いと言う事ね? 今更だけど、貴方って本当に話題に事欠かないわ」


 呆れるように頭を抱えながら嫌味に近い言葉を受け取る。押さえた口に少しだけ笑顔が見えると、それだけで頑張りは無駄では無かったようにも思えるから不思議だ。


「悪かったな……まあ、今更だし惜しい気持ちは無い。そう簡単に強くなれるわけないしな」


「そう別にどうでも良い事だけど、そう言うなら私がこれ以上口を出す問題じゃ無いわ」


 その言葉に前ほどの刺々しさが無いことから、気遣ってくれていると言うのがなんとなく伝わってくる。少しばかりのトゲは素の性格ということなのだろう。


 立ち上がりこちらを横目で一瞬だけ見ると、背を向け歩き出す。


「あの決着はまだ付いていない……だから死ぬことは許さないわ。必ず生き残りなさい」


 お決まりの台詞に少しばかり思う事はあるものの、俺の返事を聞くまでもなく立ち去っていく。軽く手を上げ、真っ直ぐに塔の入り口に向かい消えて行った。


「ルナ……俺たちも今度こそ行くか」


「そうですね、ここで出来ることは有りませんし急ぎましょう」


 俺たちは今度こそ塔の外に出る。俺たちはアースラが手配してくれた馬車を見つけ、程なくして騎手を見つけた。


「お待ちしておりました。王に仰せつかっています……時間はさほど残されておりません。お乗りください」


「今回はよろしく頼む」


 軽く握手を済ませ、馬車へと乗り込む。それで程なくして、ルナが口を開いた。


「ユウセイが眠っている間にアースラとある程度の話はまとめてあります。これを見てください、国境付近に諸侯領の港町があります」


 地図を取り出し、海王(かいおう)諸侯同盟(しょこうどうめい)の名が記された場所を指す。その中の外れの港町……トハと言う町だった。


「ここは魔族の中でも、獣系特に翼の一族が多く住まわれています。出来れば争いは避けるようにしてください」


 その言い分だと、争いが起こり得ると言っているようにしか聞こえない。負の気が強い魔族とは言え、そこまでになるのは珍しいと思うが……。


「もしかして“カラス”が多い地区か?」


「そうですね……特にここのカラスは狡猾で頭が切れるボスが居ますから」


 少しばかりバツが悪そうに答えた。


 確かにそうなると話が変わって来る。必要なものを補充したら早々に立つのが吉だ。


「分かった。それなら注意しよう今回はどれだけ時間が残されているか、分かったものでは無い……なんだその目は」


 その目は『本当にコイツは分かっているのか?』と暗に訴えかけているようだった。段々と考えが読めるようになってきた自分が恐ろしい。


「いえ、何でもありませんよ。ただ、何も起こらねば良いと思っただけです……深い意味はありませんよ?」


 明らかに視線を逸らしながら答えるそれは、言葉よりも雄弁に語っていた。


「だったら俺の目を見て話してくれ……普段の俺も悪かったから」


 チラリと視線を戻し、何事もなかったかのように地図へと戻る。釈然としないものの、話を進めるには俺が折れるしか無いので、半分諦めている。


 ただ……気になる事が他にないでも無い、()()()にそこまで原因があるとも思えない。これが自惚であるならまだいい、もしも違うとしたら? 何にせよ答えはルナの口から聞く以外知りようは無い。


「ここは公益が盛んです。物資を手に入れるならここですし、何より黄金の最も欲する土地と言えるでしょう」


「黄金の魔王ヴィーナス……力を測れなかったのは痛手だが、それ以上のものを手に入れたと俺は思っている」


 仲間を1人救えたのは大きい……もし、これでヴィーナス、カイトの隷属印さえ破壊できれば、数の上では五分五分になる。何よりロッカを救えて良かった……あのまま放置すれば、重荷に耐え切れず潰れた可能性が高い。


「勇者様ーー無事の到着しましたよ」


 馬車が停止し、俺たちは地面に降り立つ。足が少し滑る感覚にバランスを整える。懐かしい……サラサラと肌触りが良く、指の隙間からこぼれ落ちる。


 俺たちは眼前の広大な水源に口が開く。転生前に見たきりだった……潮風の匂いも、暑く焼き付けるような砂浜も、激しく打ち付ける波の音がそれらを現実と知らしめる。


「沖縄……もしくはハワイか? 沖縄すら行った事ないけどな」


「よくそんな浅い知識で語れますね……まあ浮かれる気持ちも分からなくもないですが」


 分からなくないと言うことは、南国に少しは興味があると言うことなのだろう。神と言っても人と大きな違いは見受けられない。潮風に吹かれ、波打つ髪を手で抑え、地平線の彼方を真っ直ぐに見つめる。


 俺たちは海王諸侯同盟へ到着した。そこは大海原と太陽が熱く照りつける南国の世界だ。


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