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受け継がれし炎翼

 燃え上がる猛禽を、無数の見えざる刃が包み込む。暴れ引き裂き、雷雨のように降り注ぎ、集約して行くように轟音が鳴り響く。飛び散る火の粉が視界を塞ぎ、熱風が喉を枯らす。


「そんな……まだよ、闘気はまだ残ってるもの」


 二つの神託が輝きを強める。


 眩い閃光に、力強く輝く。可能性が奇跡を手繰り寄せる。

 

 約束も誓いもこの一撃に乗せ、力の限り振り抜く。大気を貫き、ひたすらに突き進む刃を察知し、戦斧で身を守る。


「終わりだロッカ……この一撃でお前に巣食う闇を払う」


 刹那に放たれた一撃は、戦斧をすり抜けロッカの体を貫く。そのまま隷属印を引き摺り出し、爆音響かせ天門に叩き付ける。揺られ振られて、暴れ動き、衝撃が治まる。


 刃がなおも降り注ぎ、ヒビが入り、力の濁流は限界を超え隷属印を打ち破り……断続的な金属音を扉に刻み込む。カイトでも傷一つ付かなかったそれは、深く抉られ、メラメラと炎が燻り白に煤がつく。


 ヒラヒラとかけらが舞い散り、力が抜けるように疼きが治まって行く。まだだ……最後の仕事が残ってる。俺は手を突き出し最後の力を振り絞る。


 それは可能性を広げる力……奇跡を呼び出し、“完全”へと定着させる。光は優しく伸びていき、ロッカの右手を包み込む。手の甲で輪となり、やがてロッカの灰の瞳が青く染まって行く。


「嘘……そんなことあるはずが」


 手袋を外し、瞳孔を揺らし恐る恐る手を見つめる。そこに輝く優しさの神託に、ロッカの頬に水泡が伝う。戦斧を落とし、反響する音が収まった頃には、崩れ抱えるように咽び泣く。


 同時に俺の意識も遠退き、崩れ去る。多くの声が聞こえる中……俺の心はどこか穏やかだった。


「おいおい、早く治療したまえ……ここまで戦う奴がいるか!」


「ユウセイ……大丈夫ですか? 今回復させます、気を確かに」


 騒がしくも気にかける温かな声……悪い、今は答えられそうにないんだ。でも良いだろう? 今すごく疲れてるんだ。


 温かな光が俺を包んでいく……吸い込んだ空気をゆっくりと吐き、それに釣られるように俺の意識は落ちた。


 ーー知らぬ天井。


「おはようございます」


 視線を向けると、ルナと視線が合う。椅子に座りながら俺の看病をしてくれたらしい。どれだけ眠っていたかは知らないが、悪いことをした。


「おはようルナ……いきなりで悪いが、簡潔に話が聞きたい」


 俺を見てアイツらがどう判断したかが気になる。俺が認められるかどうかは、今後に大きく関わる。問題は敵意があるかどうか? 最低でもそこが重要だ。


 ルナは少しだけ考えるようなそぶりを見せると、僅かに眉を寄せ、口を開く。 


「大手を振って否定をしていた者は居なかったと思います」


 触りは良好と言ったところか? でもキレのない会話に少し違和感を覚える。


「全ての魔王は判断をしかねると言っておりました……ただ、その力そのものは疑いがないとも言っておられます」


「二つの神託ーーそして二つの演舞、その両方を扱えるのは双星だけだろ?」


 俺の推測に頷き、ルナはテーブルのコップに水を注ぐ。手に取ると俺に差し出してきた。


「どうぞ、時間が経っていて冷たくは有りませんが、喉を潤せると思います」


「悪い……ありがたく頂く」


 それを手に受け取り喉を鳴らす、思っていたよりも喉が乾いていたようで、全てを飲み干した。何も言わずにルナはそれを受け取る。


炎鷹(えんおう)ですが、信託が宿り、正式に勇者として認可されたようですよ」


 うまくいって良かった。最後の決め手は、親の力か……全く、今日も、助けられてばかりだな俺も……。不快ではないため息が出る。何はともあれ本当に良かった。


「そうか……問題がないならそれで良い、エドワード皇帝の方はどうだった?」


「少々不満そうでしたが、結果は良好みたいでしたよ? 機嫌は良いと思われます」


 妙な話だ……あれだけ敵意を向けられていたのに、何もなかったのか? 無論ないに越したことはないが、あの話が早計だったとは思えない。


「難しそうな顔をしていますが、何か問題でしたか?」


「何事も無いならいい……それで、他の勇者はなんだって?」


 カイトとシスイは良いとして、ツバキとロッカが気になる。この2人は俺の事をよく思ってないみたいだし、特にツバキのそれはただならぬものを感じた。

 

蒼海(そうかい)は納得してくれましたが、水豹(すいひょう)が少し濁していましたね」


 言葉以上にルナの反応が良くない、絶望的とは言えないまでにも……いや、明るく無いのは英雄たちか? 


木弓(もくきゅう)は否定一辺倒でしたが、炎鷹(えんおう)は意外と肯定派でしたね」


「ロッカが? アイツは俺を気に入らないと無いとばかり思っていたが、どんな心境の変化だ」


 一瞬だけルナが固まる。視線を逸らされ、遠くの方を見つめた。


「……そんな事より。アースラからの伝言があります」


 ……そんな事より? 強引に話を逸らされる。俺の認識に誤りが有るのか? 俺が不思議に思いながらも話は進む。


「私はこのまま帰国する。君たちは、海王諸侯同盟に向かって欲しい」


 ふと思ったが、ここには俺とルナしか居ない。その他は見られず、会議は終了して解散したと思われる。


「待て、聞かなかったが……あれからどれ位の時間が経った?」

 

「丸三日です……その間に全て終わり各々国に帰りました。今国に帰っていては間に合いません。中心地のここから目指すべきです」 


 その瞳は震えている。この先は後戻りは出来ない……本物の戦争。一度踏み込めば脱出は不可能な血溜まりの世界で、命の保証はない、国同士の揉め事に対し首を突っ込むことになる。


「誰かが断たねばならない…… 悲しみの連鎖を、世界を飲み込む死の円環を」


 俺はベッドから立ち上がる。ゆっくり眠り、気力体力共に回復している。指を小刻みに動かすも痺れや、おかしなところはない。


 国境越えにかかる時間は少なくない、手早く装備を纏い支度を済ませ刀身を僅かに引き抜く。光の加減で写り右に紅の瞳を宿す。


「行きましょうユウセイ……今回は役に立てませんでしたが、次こそは全力でサポートします」


 少しだけ口を吊り上げる。僅かながらに表情を緩ませ、首を僅かに傾ける。


 俺たちは2人でどこまでも進んでいく。たとえ何が立ちはだかろうと、勇気を持って突き進む。それしか方法を知らない。

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