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思いの果てに

 今の俺にとって“本物”かどうかは些細な問題だ。全ては成すための“手段”……偽り真実が意味をなさないように、現実こそが真実と言えるこの世界でーー。


「俺はまだ証明していない……双星の力も、ビレトとの約束すら果たせていない」


「貴方……一体何を言っているのーー」


 お互いに強く力を込める。鍔迫り合いの刀身が弾かれ、大きく後退する。視線を交差し、両手に魔力を込めて行く。演舞を廻す要領で魔力を循環し、その力を解放する。


「優しき月の光よ燃え盛る太陽よ……ムーンフォース!! サンライズバースト!!」


 二つの異なる魔力を同時に発動……右の手で月の光を集約し、力の塊として解放。左の手で太陽の光を膨張させ、息吹のように吹き飛ばす。それでもコントロールが難しく本来の力には届いていない。


「属性の異なる魔法を同時に!?なるほど、本当にカグラの力が使えるみたいね」


 一瞬だけ眉を吊り上げると、直ぐに切り替え左回りに走り出す。俺はそれに追撃するように向きを修正する。


「逆巻く炎の翼……ボルカニックウイング!!」


 高温に燃え盛る炎の翼が放たれ、月明かりと激突する。押し合いの末に炸裂し、炎は尚も強く燃え上がった。煙を突き破り飛び立つ翼に太陽に息吹をぶつける。


演舞(えんぶ)炎ノ舞(えんのまい)…… 飛翔ノ炎鷹(えんたか)


 ロッカは戦斧にその猛禽を纏い、ぶつかり合う二つの力へ飛び込んでいく。戦斧を突き立て、猛禽が全てを喰らい尽くすように刀身にその力を飲み込んでいく。


「そうか……コレを狙っていたのか」


 感心するように呟くも、表情は引きつる。当然最悪の一手に、苦笑いが溢れる。


「覚悟しなさい……私のとっておきで終わりにして上げるわ」


 まるで地面から飛び立つようにに炎の鷹が急上昇……炎の飛翔は熱風を放ち、吸収した炎も相まって、その大きさは5メートルを遥かに凌ぐ大きさになる。


 あえて詠唱せずに膨大な力を取り込む事で、ここまでの力に昇華させるか? 吸収する秘密はあの戦斧かまたは演舞によるものか……考えている場合では無いな。


「演舞日ノ神楽…… ゆらり揺らめく日ノ虚い、踊り引き裂く見えざる刃、薄刃陽炎(うすばかげろう)


 円環を解除し、今持てる最大限の技を放つ。燃え上がる猛禽にヤイバを突き立て、その炎を一身に受けながら陽炎を揺らす。


「正気なの? 貴方も燃え尽きてしまうわよ」


 ロッカは優しさを知らないという……でもそれはきっと違う。優しさとは内から滲み出るもので、手に入れようとするものじゃ無い。


「お前はチグハグだ……人を遠ざけて置きながら、同時に人の心配は絶やさない」


 あからさまに煩わしさを浮かべ、それでも口を挟もうとはしない。きっとロッカも分かっている……足りないのはもっと別のものだ。


「恐怖や戸惑いによって神託が反応することはない。お前が自分自身を認めない限り、お前自身が立ち止まったままだ」


 まだ受け流すことができない……陽炎をかき消すほどの炎がじりじりと手に伝う。苦悶を浮かべ、歯が軋む音がなる。などもぶつけ合うも、その勢いは衰えを知らない。


「黙りなさい、貴方の言っていることは勤勉よ。綺麗事に意味なんて無いわ」


 獣の神託が輝きを増し、ミシミシと体が膨張を始める。ロッカの負の感情に比例し、力が強まっている。鷹も勢いを増し、その炎を更に広げた。


「お前の時間は昔で止まったままだ」

 

 俺は更に受け続け、少しずつ刀身に滑らせて行く。いなし、流し少しずつそのチャンスを伺う。


「もう自分を許してやれ……これ以上自分を追い込むな、傷付けるなーー揺り籠(クレイドル)の住人はそんな事を望んでいない」


 その言葉に大きく反応し、表情を強張らせる。余裕を感じず、追い込まれて行くように、表情を揺らす。


「黙れ黙れ黙れーーそれ以上私を惑わすな!!」

 

 戦斧を振るたびに鷹がその鋭さを増す。飛び上がり、四方から狩り取るように翼を打ち付け、爪で切り裂き、嘴を突き立てる。


 ……力が薄れて行く。手に力が入らない、奇跡の神託の光も弱まり、体の感覚が右手の覚醒前に戻っているのが分かる。


 ーー違うだろ。


 振り絞れ、最後の一滴まで……一歩、あと一歩なんだ。今を逃せば次なんて無い、今ここでやるんだ。千載一遇のチャンスをモノにしろ。出来なかった時のことは後で考えれば良い。奇跡が光らなくても、助けを求める仲間がそこにいるなら奮い立て、力が消えかけていても勇気を燃やせ!!


「託した者たちを侮辱するな!! 闘気全開!!」


 演舞へ闘気をありったけ注いで行く。今この瞬間が最後のチャンスだ……ここで負ければ勝機はない。勇気の神託が輝く、呼応するように奇跡も光を放つ。猛禽へと向けた刃がぶつかり合う刹那、引き裂かれ、陽炎を揺らめかせ、虚いの中へと消えて行く。


「そんな……まだよ、闘気はまだ残ってるもの」


 俺は最期の一撃を放つため、ロッカを見据える。神託から光を放ち、標的を定め、力を込める。

 

「終わりだロッカ……この一撃でお前に巣食う闇を払う」

 

 刀を振り抜き、見えざる刃がロッカへと届く。咄嗟に受け止めようと戦斧を盾にするも体を通過し、隷属印へと降り注ぐ。轟音と共に亀裂が入り、砕けちると、後方にそびえ立つ天門へと炸裂音が響き塔が大きく震撼し、その惨状をみなが目撃する。


 ーー大きな傷跡が入り、その場に信じられない光景が広がる。その時神託が強く光り、俺たちを包み込む。


「まだよ……私は負けてーー」


『あらあらロッカは頑張り屋さんだから、ついつい無理してしまうのよね』


 そこには信じがたい光景があった。奇跡の神託がロッカの揺り籠(クレイドル)と共鳴し、ロッカの母とビレトの姿が薄ぼんやりと映る。


「お母様……何で」


 クスっと笑いながら、ロッカからぼろぼろと溢れ出る水泡を眺める。瞳を揺らし口元も結び、時が戻りあの頃を再現しているかのようだった。


『ダメよそんなに顔をクシャクシャにして、もう立派な“レディー”でしょう?』


「これは……ただの鼻水よ。泣いてなんて無いわ」


 負けず嫌いなロッカに苦笑いし、少し寂しそうな顔をすると近づいてきて頭に手を置く。


『こんなに大きくなって、私身長越えられちゃったわね……よく頑張ったわね』


 頭を摩りながら、頬にはうっすらと光るものが伝う。視界が変化し、時が巻き戻り昔の姿で母に抱きつくロッカの姿があった。涙腺は止めどなく溢れ、納まりが効かなくなっている。


「ごめんなさい……ごめんなさい、お母様ーーごめんなさい、ごめんなさい」


 何度も、何度も何度も謝り許しを乞い、失った時間を埋め合わせるようにその行為はいつまでも行われた。


『謝らないで、貴方は私の誇り……何も謝ることなんてしてないのよ?』


「それは私のせいで……」


 そう言いかけた時、人差し指で口元を押さえる。言葉は止まり、優しく笑いかける。


『お母さんどうでも良い記憶は忘れちゃったわ』


 フフフと含み笑いをし、力いっぱいロッカを抱きしめる。不満そうにしながらも、ロッカも腕を回し、力一杯温もりに触れる。


「あったかい、あったかいよぉ……」


 声のトーンがブレ、震え出すとあやすようにその手をで背中をさする。


『あらあら、体は大きく成ってもまだまだ子供ね、泣き虫ロッカ』


「そうやってすぐ子供扱いする」


 少しだけ不機嫌そうに目尻を吊り上げる。2人で笑い合い、永遠にも近い時間を過ごした。


『ロッカ……貴方は、貴方のやりたいようにやれば良いのよ?でも心配してないわ。私の娘だもの……』


 ロッカが目を瞑ると、霧が晴れるように姿は今へと虚う。目を開けたときには周囲にかかる霧も晴れていた。


「はい、私は貴方の娘で……炎鷹の勇者ロッカですから」


『あらやだ……先生の話をする時間考えていなかったわ』


 唐突に思い出したように視線を傾け、様子を伺う。本当はわかっていたんじゃ無いかとも思うが、俺はお呼びでは無いみたいだし、空気に徹するべきか。


『俺が教えられる事は何も無い……お前は立派な後継者だ』


「ええ……分かったわ」


 淡白なやりとりに、母親は不満そうな表情を見せるも、何も言わずに見送った。雲が流れるように2人が遠のいて行く。追いかけようと手を伸ばすが、思い直しその手を下ろす。


 奇跡の神託が見せた光景は終わりを告げ、再びの現実へ俺たちを誘って行く。

 

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