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二色の眼

 体を濁流のように暴れ回る闘気により、俺の体は悲鳴を上げる。汗を流すほどに体温が異常に上昇し、ウイルス感染時などによる発熱を上回る程だ。だと言うのに体のキレは過去最高峰……そのチグハグさが今は救いだ。


 ーー近い、その感覚が俺を突き動かす。あと少しで何かに届きそうな気がする。でも決定的に足りない。


 蒼と紅の瞳も、白く染まった髪も、両手に輝く神託も、まだ足りないのだ。


「何か勘違いしているようだけど、私は違う……優しさの神託が光らないのがその証拠よ」


 その表情はすがりつくものを探すように、擦り切れるような声を上げる。


「演舞(えん)ノ舞…… 炎翼ノ飛翔(えんよくのひしょう)


 戦斧の刀身から横に広がるように炎の羽が開く。体制を低くし、少しずつ足を引く。やがて足を深く構え、吹き出した熱が周囲を焦がしていく。


 左の刀に闘気を集中させ、熱が刀身を伝わる。


「演舞日ノ舞……火輪(かりん)


 足を踏み込み、刀身に伝わる闘気が燃え盛る。メラメラと揺らめかせ、蹴り上げた瞬間にその懐へと刃を伸ばす。


 炎の翼を刈り取るように、炎の円が包み込み、混ざり合うように消えて行く。ぶつかり合う刀身と、擦り合う剣と戦斧。幾度にもなる鍔迫り合いが、その行く末を見守る。


「私の血は呪われてるの、私が慕った人はみんな死んで行く……そんな私が“優しさ”の神託なんて相応しくない。死神の私に勇者なんて出来ない」


 ビレトの言葉が重荷になって、ロッカをここまで追い込んでしまっている。過去の出来事を清算できず、今まで来てしまった。


「誰もが納得の行く死は得られない、その尽くが不本意なものだ」


「そんなの分かってるわ……説教なんて要らない」


 ロッカは強く否定する。お前は分かっていない、俺が言おうとしていることも……ビレトの残した本当の意味もだ。


 足を振り上げ、顎をつらに抜くような一撃が頬をかすめる。俺はとっさにかわしたが、鍔迫り合いは解け、戦斧の柄を床に突き刺し、もう片方の足で力の乗った攻撃が炸裂する。


 メキメキとなってはいけない音を立て、俺はとっさに後ろへ積んだ。蹴られた衝撃もあり、10メートル先で着地し、衝撃受け流したのち強く蹴り上げる。


「良いか? 犠牲になった者たちは、お前に生きて欲しくて想いを託した。犠牲になったなんて思っていない」


 置き去りにして行く後悔はあっても、守った後悔は絶対にしない。


「誰もが大切な人に生きて欲しくて、自分を犠牲にしてまで守り抜く。自己犠牲じゃ無い……自分の命より、大切だと思えたから命尽きるまで戦ったんだ」


 負の力が押さえ込まれている……知識とのつながりから干渉の力を感じた。ありがとう、これで気にせず戦いに集中できる。


「演舞月ノ舞……新月(しんげつ)


 右の刀身が闇夜に潜むようにゆらりと消えて行く。そのまま切っ先を構え、ロッカへと踏み込む。


「しつこいのよ……立ちはだかれ炎の壁、ファイアーウ・ォール!!」


 手のひらで生成された炎球を地に落とし、燃え盛り広がって行く。うねりを上げ波を打ち、5層にまで重なった壁が解き放たれるように暴れ回る。


「それなら、演舞日ノ舞……陽炎(かげろう)


 俺は左の刀身に闘気によって燃え上がる熱を込め、突き立てるように炎の壁へ突き進む。


 切っ先は揺らぎ、炎の壁が一瞬揺れたかと思うと、次の層に到達する。突き刺す、次へと向かう。突き刺す、次に向かう。突き刺す、揺れが一瞬だけブレるが次に向かう。突き刺す、ブレが大きくなり刀身を伝わり流れ出す炎が俺に襲いかかる。


「この程度で止まってたまるかあああーー!!」


 ーーまだ無駄がある。陽炎は攻撃を()()に受け流す技……それが出来ないのは、闘気の流れに無駄があるんだ。乱れた流れをもっと緩やかにする。


 もう一度闘気を注く。刀は燻った炎が息を吹き返すように、強く燃え上がり、揺らめきを取り戻す。その時、まるで炎の間をすり抜けるように俺の体は壁の向こう側に立っていた。


「な、一体……何をしたの!?」


 ロッカが目を見開き驚愕の表情を浮かべる。しかし刹那で我に帰り、戦斧を構えた。


「演舞炎ノ舞…… 旋回(せんかい)炎鳶(えんとび)


 戦斧を頭上で振り回し、遠心力を加えながら周囲の酸素をも巻き込み、猛禽はその炎翼を羽ばたかせる。


 消えた新月の刀身を構え、俺は正面から勝負を仕掛けるた。闇夜の影に潜むように、強き光に紛れながら死角の隙間を探り進む。相手が強く闘気を込めるほど、技のキレは増す。


「そんなの小細工で私の炎鳶は敗れないわ!!」


 飛びかかる猛禽の頭に刃を通す。そのまま登記の流れにそうように、太刀筋を流し、引き裂いて行く。


「小細工じゃ無い……カグラが紡いだ、オレたちの力だ!!」


 剣を握る力が強まる。俺が刀身を一気に流すと、猛禽は二つに引き裂かれ燃え尽きるように消えて行った。そしてそのままロッカへと詰め寄る。お互いが睨み合い、刀身を撃ち合う音が響き渡る。


 ロッカが戦斧を横に振り、それを右手の剣で斜め方向へ打ち、軌道を逸らす。左の刀で突き刺すも、瞬時に離した手で止められ、溝に肘打ちを喰らう。


 ーーっく、一撃が重い。


 さっきも思ったが、ビレトに教育されたせいか、型破りな格闘戦も心得がある。


「演舞月ノ舞……朧月(おぼろずき)


 揺らめきながら、次の一撃は存在をぼかすように避けて行く。消えたと判断するや、戦斧を振り上げ無差別に振り回す。隙をつかれないため、周囲に刃の防衛線を敷く。


 獣の神託により、身体能力はお大きく強化されていると観ていい。神託も相まって戦い辛い手合いだ。


「演舞炎ノ舞……不死鳥ノ羽根(ふしちょうのはね)


 振り回す戦斧の起こす風に乗り、膨大な数の羽根が宙を埋め尽くす。その尽くが燃え上がり、火の粉の旋風を巻き起こす。


「演舞日ノ舞……陽炎、演舞月ノ舞……朧月」


 炎の揺らめきに流れながら、流れをいなして行く。それが終わると今度は淡く揺らめくように、幻影の中に羽をすり抜ける。


「演舞炎ノ舞……飛翔ノ炎鷹(えんたか)


 全てが終わった瞬間、吹き荒れる炎が顕現(けんげん)する。下から突き上げるように炎の鷹が産声を上げ……炎の飛翔は熱風を放つ。周囲が揺らめくほどの熱さが大気を燃やして行く。


「演舞日ノ舞……烈火、演舞月ノ舞……月虹」


 左の一撃は燃え盛る鷹に何度も刺突し、何度も何度も突き刺す。右の一撃で虹を描くように光の粒子が舞い散る。ぶつかり合う闘気は、地周囲を巻き込み、そのエネルギーが大気を揺らす。


「無駄よ、“炎鷹”は負けないの……誰にも負けない、例えあなたが本物の双星だろうと、コレだけは譲らないわ」


 そうかお前も譲れないモノがあったんだな、俺もだ、俺たちのかさね技が、負けるわけにはいかないんだよーー。お互いに闘気を込めて、エネルギーが膨れ上がる。それらは大きな音を立て、地鳴りと共に爆ぜるように四散した。


 絶え間なく続く爆風の中、俺たちは再び剣を打ち合わせる。お互いに息は上がり、込められた力も弱くなりつつある。満身創痍……決着の時は刻一刻と近づいていた。




 

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