炎を持って炎を制す
俺の問いかけに炎鷹は沈黙を貫く。一呼吸置くと、顔を上げこちらに視線を向けた。
「しつこい男だ……私などより、そこで癇癪を起こしている“黄金”にでもすれば良いだろう」
相槌でヴィーナスを指し示すと、ため息を放ちながら視線を逸らす。
「癇癪とは横暴な言い方をなさりますわ……私がどう見えているのかしら?」
口元を手で覆いクスクスと笑みを浮かべるも、目が据わっている。
「騙すような真似をして悪いな……何、遠く無い未来にチャンスは訪れるさ」
「目移りするような色男は、夜道に注意する事ですわね……どうなっても知りませんのよ?」
軽蔑の謗りと共に、床にギターを叩きつける。亀裂が俺のところまで伸び、ギリギリで止まる。
「高評価だな、もっと罵倒されると思っていたが……忠告は受け取る」
炎鷹に視線を戻す。
不満とは行かないまでも、その足取りはやや重く感じる。
「炎鷹よ構わぬ……ヤツの傀儡など信用できん。双星の化けの皮を剥いでやれ」
火焔帝国皇帝は随分な言い方をする。初めから信用などしていないと言わんばかりだ。
「よせよ……そこまで信用されると、誇らしくなるじゃ無いか」
お互いに睨み合いが始まる。
信用していないのを信用していると言えなくも無いのか?仲良くなるのは無理だろうが、もう少しどうにかならないものか……。
「そこまでにしていただきましょう。これからの戦いは皆様の大注目……お互いが位置に着きましたし、始めましょう」
アポストルが手を叩き、悪い空気を断ち切ろうとする。気が付くと、炎鷹は開始位置で待機していた。
「双星の勇者ユウセイだ。よろしく頼むぞ炎鷹」
「炎鷹の勇者ビレト……早めに終わらす。所詮は戯れだ」
気乗りしないのだろうが、俺も引くわけには行かない。後方を確認する。祈るように見守るルナと、腕を組みながら不満そうにするアースラを横目に、開戦の合図が下される。
「それでは試合開始です」
俺たちは腰の剣に左手を添えて、右手に魔力を注ぎ込む。
「燃やせ……ファイアーボール」
「燃やせ……ファイアーボール」
周囲に炎の球体が大量に出現。お互いに射ち合い、爆ぜていく。爆煙が宙を舞い、視界が狭まって行く。
やはり炎鷹も炎を使うか……。
思考を重ねる中、煙に人影が映る。俺は即座に剣を引き抜く。
高い金属音と共に剣はぶつかり合い、剣を押し合う。鍔迫り合いの中、マントの隙間から小さな炎弾が見える。
「ーーさせるか」
俺は上体を逸らし、足で腹部を蹴り飛ばす。それに体制が崩れて鼻の頭すれすれを通り、炎は見当違いの方向へと消えて行く。距離は離れ、再び間合いが広がった。
アッツいな……髪が短くて良かった。
さするように熱に晒された鼻を押さえる。炎鷹も軽く舌打ちをし、剣に闘気を込めて行く。
「っは!!」
再び刀身は高い共振音を放つ。
甲冑に潜む表情は読み取れない……もう少し揺さぶりをかけるか?
「炎鷹、俺も同じだ。カグラを犠牲にして、惨めにも生き残り、今ものうのうと生恥を晒している」
「私がいつお前に同意を求めた……のぼせ上がるな!!」
感情に振られ、ドス黒い怨嗟に呼応するように、剣を押す力が強くなる。
「演舞炎ノ舞……炎翼ノ飛翔」
炎鷹の刀身から横に広がるように炎の羽が開く。吹き出した熱は容赦なく俺に襲いかかる。
「演舞日ノ舞……陽炎」
逆巻く炎の中、姿を揺らすように後方へ攻撃をかわす。
「逃げるのだけは上手いようだな……そうやって生き残ったのか?」
甲冑を揺らし、直進しながら詰め寄る。鎧をものともしない動きで間合いを瞬時に詰める。
「そうだな俺は今まで逃げてきた。いや、今でも逃げ続けている……だからこれは懺悔の戦いだ」
後悔は尽くした……それでも新しい後悔は俺の歩みを無視するように、次々にやって来る。何が正しかったなんて、結果だけが指し示す……だから俺は後悔をしながら、思いを胸に、願いを背負って戦って行く。
「演舞日ノ舞……烈火」
剣を大きく後ろに引き……何度も刺しては引いていく、超速の刺突連打。燃え上がる切っ先が炎鷹を強襲する。
「演舞炎ノ舞……旋回ノ炎鳶」
回転を繰り返し飛び上がるその姿は、まるで鳥のようだ。翼を纏い燃え上がる刀身を振りかざし、空から強襲するようにぶつかり合う。燃え上がる鳶は、勢いを増し攻撃をものともしない。
「双星などと言っても、所詮はこの程度か?」
徐々に攻撃が押され始める。
それでも俺は攻撃を続ける……闘気を込め、刀身を燃やし、心を燃やす。足を大きく踏み込み、腕を前に突き出す。幾度となく突き刺し、燃え盛る連撃の果てに貫く一筋の光。
「演舞日ノ神楽……烈火旭!!」
「く……日ノ神楽だと!?」
光は炎の鳶を貫き、天を登る。肩の鎧を貫き、破片が宙を舞うように落下する。
「日ノ神楽……初めて聞く名ですね」
アポストルが興味深そうに疑問を口にすると、その波紋は周りにも広がっていった。神楽を舞っている者は見たことが無い。やはり他に使える者はいないのか。
「力を隠していたか……趣味の悪い男だな?」
炎鷹は右手を構え、魔力が鳥の形を作り出す。
「飛び立て……ファイヤーバード」
無数の鳥が弧を描くように羽ばたく。燃え上がる翼を推進力とし、不規則に追尾を開始する。俺は右手に魔力を注ぎ込むも、撃ち落とすだけの技は有していない。
視界に映るのは5羽……出来るだけ撃ち落とすしか無い。俺は横に走り出し構える。
「貫け……フレイムアロー」
五本の矢を同時に生成し、鳥の突進に対して放つ。2羽が旋回し迫りくる。こちらも2本放ち、撃ち落とす。後方に1羽……直前で左に飛び込み、俺の位置に矢を放ち相殺。
「忌々しい、さっさと奴を吹き飛ばせ」
二羽が上空に飛び上がる。そして急降下しながら螺旋を描き、交互に位置を変える。俺は狙いを定め、最後の2本を放つ。1本は命中し、もう1本は外れた。俺は剣を構え、下から突き上げるように振り抜く。
剣に触れた途端鳥は爆ぜ、俺は転がるように吹き飛ばされる。その隙を逃すまいと、炎鷹は床を蹴り上げ、急接近を図る。
「無様な姿だな、直ぐに終わらせてやるぞ」
「そうだな……お互い様だ」
上空からの矢の急転直下……外した矢は消えず、狙いを定め炎鷹を強襲する。
「何を……上空か!? ファイヤーバードよ」
後方より1羽が飛び立ち相殺すると共に爆風が全てを飲み込む。その隙に俺は後方3メートルほどの距離を取り、闘気を込めて行く。
「ふざけた真似を、タダでは終わらせんぞ」
敵意を露わにし、頭部の甲冑にヒビが入る。
「俺も簡単に引くつもりは無い……必ず届かせる」
集中しろ、研ぎ澄ませ、心を震わせ、双星の力はこの程度では無いはずだ。必ずモノにする……その先を目指し、俺はどこまでも愚直に廻り続ける。




