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天球の合わせ鏡

 アースラは右手をカイトに向け、左手を本に乗せる。それぞれに闘気と魔力を注ぎ込み、カイトの出方を伺っているようだった。


「吹き荒べ、サンドストーム」


 取り囲むように砂の粒子が、円を描き視界を覆い尽くす。


「演舞地ノ舞……物語ノ章、三本の矢」


 カイトに向かい、渦巻く砂から三本の矢が飛び出す。それを大剣でなぎ払い、一歩を歩踏み込む。


「演舞海ノ舞…… 断流漣(だんりゅうさざなみ)


 闘気が流れを作り出し、大剣の周辺空気が渦巻いて行く。剣を後方に構え、踏み込みと共に振り抜く。砂嵐を両断し、巻き上がる砂が推進力を失い落下する。


「さあ舞台はクライマックス。蒼海はコレをどう読む、アース・ウォール」


 英知ノ章に闘気を注ぎながら、無数の壁をフィールドに張り巡らす。


「時間稼ぎに付き合う気は無い」


 カイトは両手に剣を握り締め、周囲の空気が逆巻いて行く。地鳴りのような音が大気を揺らし、何かが押し寄せる前兆のようだ。


「演舞海ノ舞……海帝津波(かいていつなみ)


 振りかざす事で放たれた一撃は次々に岩壁を砕いて行き、勢いを増しながらアースラへと迫り来る。


「演舞地ノ舞……科学ノ章、蜃気楼(しんきろう)


 力の濁流はアースラを巻き込み、全てを押し流した。後には何も残らず、カイトは周囲を見渡す。


「幻影……どこにーー」


 ふと足元に影が映る。空を見上げると、アースラが太陽を背に飛翔……大技に幻影を合わせ、その隙をついた。カイトは逆光を遮るように片手で、視界を覆うと目を細める。


「厄介ではある。だが空中なら逃げ場は無い……アンタはここまでだ」


 その発言を鼻で笑うように一蹴する。


「よく喋るじゃ無いか蒼海。私も遠慮なく行かせてもらうよ」 


 太い腕を振り回し、無数の衝撃波が発生する。


「演舞地ノ舞……物語ノ章、矛盾。そしてアース・クエイク!!」


 千切れたページより現れた盾が衝撃波とぶつかり合う中、床が砕け陥没して行く。それに対しカイトは足を踏み込み砕けた床を蹴り上げる。


 矛盾の槍を足場とし、そのままカイトに急接近する。


「演舞地ノ舞……科学ノ章、その光何よりも強く、熱く、速く降り注ぐ……天球の合わせ鏡にてその力顕現せよーー」


 詠唱と共にアースラに闘気が纏う……それらは英知ノ章に注ぎ込まれ、ページ上に渦を巻いて行く。


「ーーさせるか」


 警戒したカイトの一振りが、数枚のページを切り裂く。舞い落ちるページたちの隙間から、時が静止したような空間の中で、アースラの薄い笑みが浮かぶ。


「織りなせ、太陽の鏡!!」


 飛び散ったページが全て燃え上がり、中に出現した無数の鏡が、カイトを覆い尽くして行く。直感で危険を感じ、アースラに剣を振りかざすも、鏡に遮られ閉じ込められる。


「……これは一体」


 一瞬にして直径10メートルの鏡の球体。ミラーボールが形成されたかと思うと、今度はその頂上に円を描くように無数の鏡が現れる。


「閃光の狂乱……光は乱反射の果てに、踊り狂い光の速度で温度は上昇する」


 次々に鏡が傾けられ、頂上の隙間から光が注ぎ込まれる。


 次の瞬間眩い柱が天を貫き、視界が霞むほどの閃光が飛び散り、巨大なエネルギーの塊が、吹き出したかと思うと、球体が消滅して行く。


「悪いが敗北は趣味じゃ無いんだ」


「そうか……それは残念だったな」


 煙を払うようにカイトが姿を表す。耐えていた……凌ぎ切り、あふれるような闘気が体を覆っていた。


 信じ難き光景に目を見開く。着地したカイトは焼け焦げたマントを脱ぎ捨てると、軽く咳払いをし、ひび割れた刀身を手で掴む。


()を壊したのはお前で三人目だ」


 刀身を握り潰すように砕くと、そこから蒼の刀身が姿を表す。鈍く光り、吸い込まれるような輝きは、何やら得体の知れない力を感じた。


(さや)だって……そんな物で戦っていたのか?」


 カイトは少し顔をしかめ、少し迷うように剣を見つめる。

 

「俺は手加減が苦手だ。だからこうでもしないと、この剣……アロンダイトを抑え込めない」


 剣を複雑な心境で語り、その説明を続ける。


「コイツは深海鋼で作られている。海底火山、水圧、海水、により……熱し、圧縮、冷却を途方も無い年月で繰り返し、鍛え上げられた天然の鋼」


 聞いたことのない名だ。恐らく海王諸侯同盟でしか取れない物なのだろう。


「加工は困難……だから年月をかけ研ぐ事で形成する。深海鋼と言われる理由は、海の闘気を放つ事に由来する」 


 カイトが剣を横に構える……闘気が剣から漏れ出し、カイトが注ぎ込んだ闘気と共鳴し、燃え盛る蒼炎のように舞い上がる。


「演舞地ノ舞……」


「ーー遅い」


 反応の遅れたアースラの間合いに一瞬で潜り込むと、その剣を喉元に突き立てる。


「……ギブアップだ」


 アースラは両手を上げ、降参の合図を出す。疲れ果てたようにため息を吐くと、視線がアポストルに集まる。


「決したようですね。勝者、蒼海の勇者カイト様」


 手を上げ、その勝利を讃える。他の反応は薄く、注目度は高く無いように思えた。


「感謝する……色々課題点が見つかったよ」


「俺の方こそ楽しめた。またいつかやろう」


 お互いに握手を交わし、挨拶を済ませる。


 アースラが苦虫を噛み潰したのを必死に堪えてるように見えた。もう戦いたく無いと言う感情がひしひしと伝わる。


「お疲れ様でした……どうでした?」


 ルナの問いに複雑な表情をするも、少しだけ緩ませる。


「どうだろうな……問題は君だよ双星、私が動いたんだからしっかり決めてくれよ?」


 難題を押し付けられるも、俺の考えはある程度まとまっている。


「そうだな、試したい事もあるし期待してもらって良い」


 横目でヴィーナスを見ると、片手を振ってきた。俺は無視し、ルナに視線を移す。


「随分と強気ですね? 弱気よりは良いですが、何か思いついたんですね?」


 ルナの言葉に頷き、信託に視線を向ける。


 俺のやることは変わらない。導く事、答えは出尽くしている。もしかしたらルナたちは反対するかも知れない、だからと言ってこのチャンスは逃せない。


「俺はもう後悔したく無い。手遅れになる前に手を打とうと思う」


 ルナは理解の届かない顔で、俺の返答に戸惑う。


「……後悔しませんか?」


 俺は首を横に振り、歩みを進める。


「仕方のない人ですね」


「おい、一体何をしようとしているんだ?」


「ただの大馬鹿者ですよ」


 後方で深いため息を出すも、その声色は決して悪いものでは無かった。俺は視線を標的に向け、ゆっくりと息を吸い込む。


「炎鷹の勇者ビレト……俺はお前との戦いを望む」


 多分何をしても後悔は付き纏うと思う……だから俺は、納得のいく後悔をしたい。右眼の疼きを感じながら、俺は戦場へと足を踏み込む。


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