猛き剛の剣士
晴れる煙の中、無傷の天門が姿を表す。ルナの説明も有ったが、見せ付けられるとより一層実感できる。
「あの力をものともしないのか……」
「神力とは世界の理から外れた力、理の違うものに対し干渉する事は不可能です」
ルナの説明は分かる。しかし英雄は神に対し、傷を負わす事ができるし、納得がいかない部分がある。
「確かに英雄は神に近しい存在です。しかし天門はより上位の神力に守られています……門を破れるとしたら、それこそ神と同等の存在にしか出来ません」
ーー神と同等の存在。
俺が思考を始める前に、カイトが飛び出した。大剣を片手に、うねりを上げるように迫り来る。
「演舞地ノ舞……科学ノ章、重力の林檎」
アースラは即座に闘気を練り上げ、本のページが空に舞う。出現した巨大な林檎は巨大な力でカイトを押さえつけ、動きを鈍らせる。
「演舞海ノ舞……螺旋高波」
放たれた一撃は空の階段を駆け上がるように、渦を巻き、流れ、力の発生源を包み込む。引き裂き、全てをその中に飲み込み、爆ぜる。
重力場は消滅し、カイトの動きに俊敏さが戻る。
「演舞地ノ舞……物語ノ章、快刀乱麻」
千切れたページから大きな刃による一太刀が繰り出される。カイトは高い金属音と共に、大剣で正面から受け止め、腕に血管が浮き上がり、鬼気迫る形相で弾き返す。
「演舞地ノ舞……物語ノ章、紆余曲折」
左手を英知ノ書に掲げ、アースラは闘気を込める。しかし変化は起こらず、カイトの演舞が完成し、放たれる。
「演舞海ノ舞……渦潮波狼」
逆巻く流れと、荒々しく吹き付けるうねりがカイトを包み込む。その渦の中心には牙を向いた狼が獲物を喰らおうと、解放の瞬間を待つ。
「はあああーー!!」
振り下ろした刃が、アースラを紙一重で避ける。ここで初めてカイトは反応し、顔を見上げる。
カイトの太刀筋が捻じ曲がったように見えた。攻撃を弾くだけの単純なものではないかもしれない。
「すまし顔をぶち抜いてやるよ……アース・ウォール」
岩壁が目の前に出現し、カイトの腹部を勢いよく直撃する。
「っがは!?」
ここで初めてまともに攻撃が入る。よろめいたかと思うと、更なる追撃の手を放つ。
「演舞地ノ舞……遺産ノ章、砂漠の大三角形」
剥がれたページが天に登って行き、燃え尽きる。天空に宙吊りとなった逆三角形が現れ、高速回転をしながら降下。塔そのものを破壊するではないかと言う勢いで、降り注ぐ。
「演舞海ノ舞……天空流荒波」
カイトは異様なタフさで瞬時に持ち直し、切っ先を対象へと構えると足場を蹴り上げる。体を縦に回転させ、回転の速度を上げながら真上に捕らえる。
「アンタはここまでだ……うおおおーー!!」
天より振り下ろされる一撃……いや、二撃によりアースラの逆三角形は両断される。その衝撃が直撃し、その体が宙を舞う。
何とか起き上がろうと、体を震わせ必死に立ち上がるアースラに対し、カイトは瞬時に近づき腹部に拳を叩き込む……それは鈍い音が響いた。
「うぐ……」
見てられない……もう戦いと呼べるものじゃない。ただの公開処刑だ。
「無理に戦う必要は無い……降参しろアースラ!!」
必死に呼びかける。しかし反応は無く、ひたすらに無視し続ける。
「だそうだぞ?降参するなら俺も攻撃しない……それ位の分別はある」
カイトは攻撃の手を止め、降伏を提案する。神前試合と言って殺し合いでもなんでもない。
「私は覚悟も何も無いのに、こんな舞台に立ったりしないよ」
「そうか……無粋な質問をした」
カイトが無防備なアースラに剣を振りかざす……何か手は無いのか?俺のために無理をしている仲間のために何かする事はできないのか?
勇気の神託……お前が繋がる力だと言うなら、今すぐ繋げてみろ……縁が円を成し、円環が輪廻を回す。真理を導いて、答えを指し示して見せろ!!
「待ちくたびれたぞ……双星」
アースラの口元が緩む……アースラの神託を見ると、俺の神託と共鳴するかのように光っている。
ーー何が起こった?
「繋がったーー」
ルナは目を丸くする。まるでこの時を待っていたかのようにーー
「一体なんの話をしてるんだ?」
「共鳴状態に入りました。湧き上がる勇気は、時として仲間に譲渡されます……繋がり合い、英雄は次の段階に進む」
次の……ステージだって?
カイトは警戒したのか、飛び上がり後方へと退避する。ここの誰もが見た事がないような状態は、一体何が起こる?
「演舞地ノ舞……物語ノ章、そのモノ荒々しく、勢い激しく、天に向かい、夜明けに昇る」
今まで聞いたことのない詠唱が、アースラが口ずさむ。そして思う……この詠唱が、何かに似ている?
「降り注げ、旭日昇天」
舞い上がるページが燃え上がるように球体を成し、燃え上がり、その光がカイトに降り注ぐ。
「これは……日ノ舞じゃないのか?」
俺の神託に共鳴するように現れた謎の演舞……ソレはなにかを指し示しているようだった。




