宣戦布告
チリチリとプレッシャーだけで焼き切れるような空気の中、黒土の魔王はその鎧を軋ませる。
「魔王が英雄だと? にわかには信じ難い話だ……根拠があると言うなら示してもらいたい」
「まだ皆さんを信用させるだけの情報は持ち合わせていません」
隷属印を大々的に話す事はでき無い。向こうも少しずつ分かって来ているかもしれ無いが、肯定が許され無い以上対立という結果は崩すことはできず、扱いの難しい話だ。
「ですから私を完全に信用していただかなくとも、どちらが間違っているか、今一度考えてはもらえ無いでしょうか?」
大体の話は見えて来た……ルナに対する追手を辞めて欲しいという事、世界の異物かどちらか考え直せって話なんだろう。
「ソナタの考えは分かった。しかし、私はそもそも神という存在に否定的だ。方便はいくらでも語れる……結果で示して貰いたい」
黒土の支配領域は混血が多いと聞く、俺にも混血がどんな扱いを受けるかくらいは理解できる。それを考えれば、神に否定的なのも仕方のない事だ。
「分かりました……信用を得るよう私も善処いたします」
黒土の魔王も食い下がり、この話には終わりが見えて来た。アースラも一息し、次の話題に移ろうとした時……。
「私からも聞きたいことがある……女神で無く、ユウセイにな」
ーー堕天の魔王ウラノス、こいつが仕掛けてくる事は考えていた。俺に用があるみたいだが、双星の名を避けて呼んだように思える。
「俺はいつでも良いが、初めましてだな……随分と馴れ馴れしい」
異様な空気を周りが察知し、様々な視線が向けられる中……ウラノスはため息を吐く。
「随分と嫌われているようだが、今のお前に私は倒せ無い……間違いなど起こさぬ事だ。お互いの為にもな」
白々しい……分かっていながらそう答えられると、悪意を疑ってしまう。
「心配してくれているようだが、俺は間違えるつもりはない」
……俺は真っ直ぐにウラノスを見据えて答える。
まだ何が正しいかは分からない、力を付け、ウラノスを倒した時……答えはそこにしか存在しないだろう、なら今は進むだけだ。
「そうか私から言えるのは一つだけだ、導きの双星……貴様の二つの星は何か証明して見ろ。その為の神前試合だ」
手を差し出し、答えの催促をしているようだった。今までと何かが違う?少しだけ感情が見え隠れしているようにも思えた。
しかし当然答えなんて無い……無いものは証明できないーーそれでも心当たりがない訳じゃ無い。
「言ったはずだ……俺が導きの双星足る証明をして見せると、答えは戦いの中にある。そこまで言われれば望む所だ!!」
星は命を燃やして輝くもの、ならそれは戦いに中でしか有り得ない。
「いやいや盛り上がるは勝手だけどさ、会議終わらせてからだからな? 頼むからこんな所で、暴れないでくれよ?」
シスイが左手を横に振り、冷ややかな声を上げる。
「いやはや若さってヤツかな? 微笑ましく思えてしまうが虚しくもある。年は取りたくないね」
「もう聖王様ってば見た目は若いんですから、年寄りくさい事言わないで下さい」
笑う聖王に対し、木弓が注意を呼びかける。ウラノスは答えに理解を示したのか、それより先の追求をしてくる事はなかった。
「はい、以上を持ちまして……導きの双星の討論は終わりたいと思います」
アポストルの一声とともに、会議は次の段階に移行した。次が本題と言えなくもない……海王諸侯同盟とウェヌス魔境国との小競り合いへと移行していく。
「では最近の小競り合いについて、話し合って行きましょう……アシンリエ様お聞かせ願いますか?」
合図をするようにカイトとアシンリエが頷き、その惨状を声に出して伝える。
「始まりは、ウェヌス魔境国側からの襲撃からでした」
「私がそのような事をするはずが有りませんわ、何かの間違いでは無くって?」
それに被せるようにヴィーナスは無罪を主張する。クスクスと笑いながら、ギターの弦に手を触れる。
「そんなはずは有りません!!」
椅子を押し、勢いよく立ち上がる。その目には少しに怒りの感情が宿っていた。
「アシンリエ……抑えろ、コイツらのやり口だ。冷静さを失わせて、煽ってその反応を楽しんでいる」
視線をヴィーナスに飛ばし、両腕を組みながらその一挙一動を伺う。
「……すみませんカイト様」
冷静さを取り戻し、握った拳を震わせ、椅子へと腰を下ろす。一息つくと、続きを話し始める。
「我らが国ではその日は年に一度の収穫祭……海の恵みに感謝し、笑い合い、分かち合い、笑顔が絶えない日でした」
「知っていますわー。今でも鮮明に覚えています」
何かを思い出すように両手で頬を包み込む……その表情に悪意は無い、ただ純粋に狂気に満ちている。
「機会があれば……もう一度参加したいものですわね」
一々煽るように被せるな……ただ中立のアポストルが干渉してこないのが少々不自然てところか? ルナの方を見ると表情が若干険しかった。良くない兆候……なんだろうな。
「彼女はその場で暴れ出し、死者も出てしまいました。私は厳罰を要求します」
思い出したく無い記憶だったのだろう。話終えると顔を落とし、表情を読み取る事はできない。一方のヴィーナスは相変わらず……この状況を楽しんでいるように、ヘラヘラとしている。
「これは困りましたね……事実であれば、中央も対処しないわけには行きません」
アポストルは悩むように視線をヴィーナスに送る。
「ヴィーナス様? 貴方はこの話、認めますか?」
「うーーん、そうですわね……」
考え込むように人差し指を立てて、唇に当てる。少し困ったような表情で、答えに詰まる。今までのヴィーナスと違う反応……。
「全く記憶にございませんわね……私は関係ありませんのよ」
あくまで記憶にないで通そうとする。あまりに無策、無謀、無理……正気を疑うレベル。
「そうですか……なら仕方有りませんね」
アポストルがヴィーナスに手を差し伸ばす、ヴィーナスは不適な笑みを浮かべたまま……なんなんだこれは?
「ヴィーナス様は不問とします……これよりこの問答は終了。次に移らせていただきます」
ーーは?
不問とする? 一体何をーー。
「クスクス、賢明な判断ですわ……聡明なアポストル殿に感謝致します」
カイトは目を細め、眉間にシワを寄せる。アシンリエはあまりの衝撃に目を丸くした。そこはヴィーナスだけが笑い、その笑い声だけが……しばらくの間響き渡った。




