世界を回す者たち
男は口元の見えた道化のような仮面を被り、耳に半分かかる紫色の髪を覗かせ、三日月を形成する程に口元を緩ます。
「驚きましたね……命はないと報告を受けて居ましたのに」
アポストルが落ち着いた様子で語りかける。その口調に驚きなど無く、社交辞令を貼り付けたような顔で、目を細めた。
「ヒハハハハッハ!! 何やら私の名を語る俗物が現れたようでしてね……ご迷惑をおかけしました」
「なるほど……確かにそれなら、今回貴方が問われる罪は帳消しと言えるでしょうね」
顎に手を当て、考え込むようにプルートの意見を精査している。心が読めるわけじゃないが、そのやりとりに心が伴わないのは明白だった。
「それも含めて、話し合うとしましょう……席にお着き下さい。中王会議を始めるにあたって、軽い説明をいたします」
答えは無く、無言で席に歩き出す。椅子を引き、腰を下ろす瞬間に一瞬だけこちらに顔を向けるも、言葉を発する事はなかった。
全てが席につき、円卓が役者で満たされる。コレから始まるのは世界会議で、平和の為、各国が意見を交わし、世界を導いて行く。
「それでは改めまして……今回進行役は私アポストルが努めさせていただきます」
アポストルの一礼とともに、会議が幕を開けた。
「今回双星の勇者ユウセイ様とアースラ様は初めての出席となります。なので私から簡単な紹介をさせていただきます」
アポストル手が俺に向けられ、皆の視線が集まる。
「様々な形でお聞きになられていると思います。ガイア王国所属、双星の勇者ユウセイ様。詳しくは今回の議題で議論されると思われますので、割愛します」
次に向けられるはアースラ。誇らしげな顔をし、その紹介を今かと待ちわびている。
「ガイア王国女王アースラ・セイン・ガイア様。お父上同様に国家に尽力され、劣らぬ成果を上げております」
横目でこちらを見てくる……言いたい事が丸わかりだが、今は他国の情報が知りたい。次は、カイトだな。
「海王諸侯同盟所属、蒼海の勇者カイト様。言わずと知れた剛剣使いで、内乱を鎮めた英雄ですね」
「続けてその筆頭諸侯を努める、アシンリエ・リガル・オーシャン様。先程の話で国をまとめた際、旗印となったお方です。このお二方の詩は……失礼しました。不要な話でしたね」
吟遊詩人の歌か?国を再興する英雄譚は、いつの時代も根強い人気を誇るのだろう。特にカイトは平民のようだから、更に拍車をかけている感じだ。
色々試行していると、ヴィーナスにその手が向かった。
「ウェヌス魔境国、黄金の魔王ヴィーナス・レア・ゴールド様。ファンと呼ぶ独特の臣下を従え、そのカリスマ性で国を治めています」
奇抜ではあるものの、その信頼は厚かった。やはり魔王と呼ばれるだけの事は有るのだろう。
「ハデス魔王国、冥府の魔王プルート・ヘル・カロン様。話す事があまり無いので、難しいのですが、私どもも国の情報は把握しておりません」
私情が無いわけじゃない……忘れはしない。その瞳は何を見ている?
そうこうしている内に、次はシスイへと手を合わせた。
「水城共和国、大統領で有り水豹の勇者シスイ・フォン・ウォータル様。前より勇者としてご活躍されてきましたが、今期より国の代表になりまして、勇者との兼業に御座います」
アースラは魔王との兼業はしていない。何より、知識の神託が有る訳でもないのに、それをやってのけるのか?
「火焔帝国、皇帝エドワード・ヴォル・フェニックス様。紋章学にも精通しており、その名を知らぬ者はいない程です。人族至上主義としても知られ、話題の絶えないお方です」
「続けて炎鷹の勇者ビレト様。平民のでなれど数々の戦場で兵を導き、火焔帝国を世界に知らしめた立役者でも有ります」
ーーおかしく無いか?
炎鷹はお父様と呼んでいた。なら、皇族でなければ説明がつかない……何やらきな臭くなってきたな。
「神樹聖王国、聖王オベロン・フィル・フォレスト様。この円卓の古株で、聡明な方です。柔軟な考えを持ち、場を導いてくださります」
白くて肩より長い後ろ髪と、整った顔立ちが印象的だ。二十代前半位にしか見えず、爽やかな顔立ちで、カグラよりも整ってるかもしれない。
「続けて木弓の勇者ツバキ・フィル・フォレスト様。オベロン様の血縁で、人族嫌いで知られています。話しかける際はお気をつけてください」
紹介が雑な気もしまくないが、だから俺に突っかかって来たわけか……打ち解けるのには時間がかかりそうだな。
「ユピテル騎士王国、黒土の魔王サタン・ソール・ヴァース様。漆黒の鎧に姿を包み、決して他人に気を許しませんが、聡いお方です。強さも保証しますよ」
デカいな……身長で言えば、カイトより更に大きい。フルプレートを差し引いても、その大きさは群を抜いていて、何より凄まじい気迫を感じる。
「ハーシェル失楽国、堕天の魔王ウラノス・ホープ・セラフィム様。本人より固く禁じられている為、詳細は割愛させていただきます」
ウラノス……こんな所でもローブをかぶっているが、心の読めない男だ。こいつもカグラの仇である以上気を許すつもりはない。
「以上を持ちまして、紹介を終了させていただきます。ここからはお待ちかねの議論……張り切って行きましょう」
長い自己紹介も終わり、発言をする機会がやって来た。
止める……何としても、その為の足がかりとして、この会議で仕掛ける。




