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火焔帝国

 ヴィーナスは立ち去って行った。ファンとやらもその後を追従し、嵐が過ぎ去ったかのように、皆が安堵する。


「取り敢えずは……一安心ですね」

 

 ルナがそっと胸を撫で下ろす。


 まあ、ここからが大変とは言えなくも無いが後はなるようにしかならない。


「はあ……緊張しましたぁーー」


 足が崩れそうになるアシンリエに、カイトが慌てて近寄る。大きな手でしっかりと受け止め、すました顔で口から吐息を吐く。


「全く、あの女は全然変わらないな……もう少し落ち着いてくれると助かるんだが」


 面倒事に頭を悩ませるように呟き、目を細め、困ったように視線を俺に向ける。


「そうか、前からあんな感じなのか?」


「まあ、そうだな……会議の度に手を出しては問題視されている。あそこまで啖呵(たんか)を切ったのはアンタが初めてだ」


 その視線は俺に対しても向けられているのか?まあ派手にやれと言われたし、問題ない気はするが……。


「良い、褒めて遣わす。胸が()いたと言うもの……私は貴殿の活躍に期待する」


 アースラから送られて来る視線は、後に引けない事を示唆(しさ)しているようだった。元よりそのつもりだが、掌で踊らされていると思うと気分の良いものでは無い。


「そうだな、期待せずに待つと良い」


「もう、その下りはいいです……ユウセイの悪い癖ですよ?」


 ルナは視線をこちらに向けず、薄くため息を吐く。


「ふふふ……楽しそうですね。あ、すみません」


 アシンリエがクスクスと口元を押さえるが、何かに気付いたように両手を横に振る。その後は少し恥ずかしそうに、カイトの方を見つめている。


 ……詰まりどう言う事だ?


 俺は答えを得られず悩むがアースラとルナに目をやると、何かを納得した様子。解る必要はないが、何処か引っかかりを覚える。


「すみません。ここで失礼しますね」


「これからよろしく頼む」


 カイト達は一礼し、俺たちも挨拶を交わす。


「む、そうだな。会議の場でまた会おう」


「ありがとうございました。失礼します」


「少しだったが、同じ勇者として楽しかった」


 別れを告げると二人は塔の中へと消えて行った。俺たちもそろそろ行くべきか……。


「よし私たちも行くぞ、準備はいいか?」


「構いません」


 俺もルナに続き、頷こうとしたその時。燃え上がるような炎のマントを羽織り、甲冑に身を染めた人物が遠くに見えた。人気の無い所に向かい、何をしに行くかは定かでは無い。


 そうは言っても今は急用が立て込んでいる。


「悪い、手を洗ってくる」


「はい? ああ、分かりました。先に受付を済ませて置くので、終わるまでには来て下さい」


 一瞬悩んだようだが、ルナは納得したようだった。ここじゃあまり使われないみたいだな。


「中は広いから、迷子になるなよ?」


 アースラに軽く手を振り、気になった甲冑を追いかける。


「全く……俺は子供かよ」


 毒付きながらも、俺は案内を辿りながら20メートルほど歩いただろうか? 目的地にたどり着き、用を済ませる。


 戻ろうと歩を進めた時、壁に違和感を感じる。俺が無意識に触れると、神託が光り出した。


「は?いやいや、どう言うことだよ」


 手がすり抜け、その先に道がある。さっきまでは壁だった。理解は全く追いつかないものの、神託を信用することにした俺はその先に進んだ。


 10メートル位歩いただろうか? やがて中庭のような広場にたどり着く。


 塔の内部にこんな部屋があるとは……いや、感心してる場合じゃ無い。何も無いなら、早く帰らないと面倒なことに……。


「お父様……お願いがあります」


炎鷹(えんおう)よ、ここでその呼び名は辞めろと言ったはずだが?」


 声の方角を覗くと先程の甲冑が、年配の男……火焔(かえん)帝国皇帝と思われ人物に願いを語るも、玉砕する様が広がっていた。


「申し訳有りません……皇帝陛下」


 拳を握り締め何かを考えているのだろうが、かぶっている仮面が視界を遮り、表情を読み取らせてはくれない。


「うむ、して炎鷹……あの女狐が導きの双星と妄言を吐いておった。今回の会議ではソレが集点となる」


 当然俺の話が出てくるか……アースラも言っていたが、導きの双星を名乗った以上ある程度の事は覚悟していた。しかし今回は大分面倒なことになりそうだ。


「問題ありません……私が、奴の化けの皮を剥いでご覧に入れましょう」


 甲冑が自信気に答える。音声を弄っているような異音で、声で性別は特定できない。だが、会話から推測するに俺の考えが正しければ……。


「私は別の準備がある。後はお前に任せるが、良いな?」

 

「御意……必ずご期待に応えて見せましょう」


 そう言うと皇帝は立ち去って行った。


 塔内では護衛は必要ないだろうが、些か無防備すぎる。それでも別行動ってのはそれだけ意味のあることなのだろう。


 炎鷹の勇者は無言のまま立ち尽くしている。コレはチャンスと捉えるべきか?


「中々いい場所だな?」


 俺は炎鷹に声をかけるよに木の影から飛び出す。それに対して、素早く振り返り視線を俺に落とす。


「貴様、双星の勇者か? 何しにここに来た?」


「初めて来るからな、探索をしていた」


 仮面があるせいで表情は読めないが、ボロを出すつもりはないらしい。


「そのような戯言を、信じるとでも思っているのか?」


「信じる信じないじゃない、事実だ」


 適当に答え、ソレが気に食わなかったのだろう。舌打ちが聞こえてくるも、当然俺は平常運転で対応する。


「まあ良い、なんの日陰もなく……平らな道を進んできた者に、恵まれた者になど、私の気持ちを知る由もないか……」


 ーー平らな道?


 一瞬で俺の怒りは頂点に達し、何かを言ってやろうとも思ったが、左手の項を見た時……怒りは沈静化して行った。


「……分かるよ。俺はお前と同じだからな?」


 意識した言葉ではない。素直にそう思って応えた一言。しかし炎鷹は、そこで初めて俺の話に大きく反応してきた。


「同じ……だと? そんなはずは無いわ!! 貴方は勇気の紋章に選ばれた人間。この紋章が生んだ不平等な世界で……それ以上が存在するわけないでしょ!!」


 炎鷹は一歩を踏み込みこちらに近く。その衝撃で土の地面はめり込み、クレーターが形成される。


「信じられないかもしれないが、神託を手にしたのは最近だ。そう言えば分かってくれるか?」


「貴方も……誰かを犠牲にしたの?」


 突然の殴打……頭を鈍器で殴られたような気がした。ヤツのペースに乗ってはいけない。目を閉じ、深く深呼吸をする。大丈夫だ。俺はもう前までの俺じゃない。問題はそれよりもーー。


「今のは忘れて……失礼する」


 炎鷹はそう言うと、逃げるようにその場を立ち去って行った。


 

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