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黄金の魔王と蒼海の勇者

 ーー殺気と殺気のぶつかり合い。誰もが動かず硬直状態の中で、一人の人物がスタスタとこちらに向かい歩いて来る。それに気付いた蒼海は、慌ててその後を追う。


「おい、無茶をするな。相手国だぞ少しは立場をわきまえてくれ」


 薄い緑色の髪を後ろで結い、団子を形成。頼りなさそうな顔立ちでありながら、キリッとした女性。一見チグハグの印象を持つも、その足取りは柔らかく場慣れした印象すら感じる。


「いいえカイト様。私はあの方とキチンと話をしておきたいのです」


 今までの殺気は何処へやら、すっかり空気は変わる。


「そうじゃない。行くなら声をかけろ……俺がいる以上、誰一人と手出しはさせん」


 カイトの呆れた表情が一変し、背筋を這う蛇腹状の殺気に俺は先程の評価を即座に訂正。腰に刺した剣の柄を持ち、最大限の警戒をする。


 ーーこの男はケモノの類だ。油断すれば一瞬のうちに命を刈り取る。


「ダメですよ」


 ルナが首を横に振る。俺は冷静になり、深呼吸を挟む。軽く殺気を飛ばしただけでこれほどの威圧感。そっと手を離し、頷く。


「あの少しよろしいでしょうか?」


 蚊の鳴くような声を辿ると、先程の薄い緑髪の女性が立つ。少し戸惑い不安そうな顔をするが、アースラが手を差し出す。


「初めまして、海王諸侯同盟筆頭諸侯……アシンリエ・リガル・オーシャンです。先程は私どもの勇者が失礼しました」


 子供に笑いかけるように柔らかな笑顔を浮かべ、その手を差し出す。


「そのような事、細事に過ぎない、貴殿も息災であった。お初にお目に掛かる。ガイア王国女王……アースラ・セイン・ガイアだ」

 

 お互いが手を握り、一旦はこの場が治った。


 何もない事に安堵するもカイトの方を見ると、興味深そうに俺を見つめる。剣士として、気になる点でも有るのだろうか?


「俺はユウセイ……双星の勇者ユウセイだ」


 黙り込んでいたカイトだったが、バツが悪そうに右手を差し出す。


「蒼海の勇者カイトだ……さっきは悪かった」


 断る理由など一つもない。俺も右手を差し出し、強く結び合う。カイトの口元が僅かに緩み、その様子がどこかおかしく……表情が砕ける。

 

 もしカグラが生きていたら、こんな感じに分かり合えたのだろうか?もしもなんて話は好ま無い。それでも……。


「ちょっとよろしいかしら?」


 俺たちの視線は一人の人物に集中する。ヴィーナスはじろじろと一人一人……特に俺たちを物色するように見定める。


(わたくし)は黄金の魔王ヴィーナス・レア・ゴールド……後ろに居るのは下僕(ファン)の方々です。以後お見知り置きを願いますわ」


 後ろに追従する者たちをファンと呼ぶ、しかしその声はものでも扱っているかのように冷酷で、良い印象は抱かない。事実先程からファンとやらが何をしようと礼の一つもなかった。それだけである程度のことは察し有り余る。


「うす黙ってる女……自己紹介をしなさいな。その口が飾りでない事を証明しなさい」


「魔王とは言え、些か横暴が過ぎるな?もう少し余裕を持ちたまえ」


 アースラが間に入る。しかし気に留める様子はない。


「新米の王如きが(わたくし)に意見など、弁えなさい無礼者」


 静止を無視し、しつこくルナに詰め寄る。それにはカイトたちも呆れ果て、ため息を吐くような場面が見受けられる。


「お前は相変わらずだな……いつか痛い目を見るぞ?」


「カイト様の言う通りです。そのような言い草はやめてください」


 俺はルナを見る。好き放題言われようと、動じる様子はない。意図は分からないが、変に目立つ行動は避けるはず。


「初めまして、私はルナと申します。度重なる無礼者……お詫び申し上げます」


 羽衣の裾? を摘み上げ、頭を下げて謝罪する。その姿が、動作が、表情が絵になっていて、この場の全ての人物が固まる。顔を上げ、流すような視線をヴィーナスに送り、慈悲のように柔らかく表情を砕いて微笑む。


「いかがなさいました……ヴィーナス様?」


 その返答に止まってしまっていた表情をしかめる。その赤い瞳は奥でマグマが煮え滾っているように、揺らめく。


 不遜(ふそん)な魔王に対し、気高さ、美しさ、包容さを持ってして対応した。確実にヴィーナスの気に触れ、その敵意は確実にルナに向く。

 

「ここまでコケにされたのは初めてですわ……どうしてくれようかしら?」


「ルナは俺の仲間だ」


 俺はヴィーナスの視線を遮り、正面に立つ。ここまで御膳立てされて何もしなかったら、ただの愚者だ。


「何が言いたいのかしら? 半眼風情が随分と勇ましいのではなくて?」


 ギターを手に取り、弦を弾く。そのまま右手で振りかざし、ボードが俺の首元に迫り、サメの歯のように無数の刃が飛び出す。


 ーー刃は首筋1センチと言うところで停止。俺は微動だにせず、ただひたすらヴィーナスを視線に捉え続ける。静止したまま、お互いに硬直状態となった。


 魔王は血の気は多いが愚か者ではない。負が多いだけで、判断は冷静、態度は大胆不敵。ここでの流血沙汰など、理解出来ないはずがない。


「俺は神前試合……ヴィーナス、お前を指名する」


 天門の前最も神に近い場所にて、新たな勇者か魔王が、相手を選び行う。誰もが受ける洗礼で、各国のパワーバランスを保つ意味でも重要とされる。


「フフフ……本気ですの?」


 あと10センチと言うところまで顔を近づけ、その赤い瞳孔を大きくする。視線同士がぶつかり合い、死線が引かれる。舐め回すように顔を物色すると、新しい玩具を見つけたように笑った。


(わたくし)貴方のこと気に入りましたの……ですから」


 一瞬視線を後ろのルナへと向ける。すぐさま戻し、左手を俺の顎に這わせ、親指で唇を押さえる。その目は獲物を捕らえた狩人の目……妖艶かつ、したたかだ。


「あの女から貴方を奪い、(わたくし)下僕(ファン)に加えて差し上げますわ」


 ヴィーナスは俺から離れ、弦を弾く。仕込み刃は閉じ、エレキギターらしきものを背負う。そして、左手の甲を見せながら、親指をペロリとひと舐め。


「貴方もこの憎悪の神託の餌食にして差し上げますわ」


 さっきとは打って変わり、機嫌が良さそうに振り返る。その後は何事も無かったかのように、塔へと歩いて行った。

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