世界の中心へ
ガタガタと馬車に揺られ、俺たちは中王会議の会場……ヘブンズゲート・ソル・トゥールを目指す。セイヤの件は納得のいく結果が得られず、不完全燃焼となった。
「考えすぎても疲れるだけですよ?」
ルナからの心配するような話を、聞きながら手を懐に忍ばせる。
「そうだな」
俺は気のない返事を返す。それ以上は言及して来なかったが、俺の心の無さにどうこうする様子は無く、ジッとこちらを見つめてくる。
「何だ? せっかく認識疎外眼鏡まで貸して1日の休息を与えてやったのに、それでは先が思いやられるぞ?」
視線をやると呆れたようなアースラの顔。眼鏡はアースラが普段しているもので、目の色を誤魔化す効果と相手に個人をぼかす効果がある。最も知り合いにぼかす力は通用しないので、そこまで便利な魔道具でも無い。
まあそんな訳で、俺たちはあの時誰にも気付かれず、街を探索出来た。
ガタンっと馬車は再び揺れる。俺は窓の外を覗き、流れる景色に視線を這わせると、観念したかのように諦める。
「一通りの訓練と新しい装備も整った。何も文句は無い、感謝します国王陛下」
俺は何もかも誤魔化すように頭を下げる。少しして頭を上げると、見透かしたような視線で、アースラがこちらを見る。
「何と言うか……いやよそう、私が言っても詮無いことだ。人には役目と言うものがある」
アースラは黙り、ルナは何も答えない。動かぬ世界で、ガタガタと馬車に振動だけが時の流れを告げる。
「ちなみに俺が護衛をしなくて本当に良かったのか?」
「気にするな、君は体力を温存しろ」
適当に質問するも、正直落ち着かない。長らく一人でやって来たせいか、索敵を人任せってのは何とも言えないな。
「少しは堂々とすることを覚えてはいかがですか? 勇者の落ち着きがないと、国の威厳に関わります」
「そうだな。肝に銘じる」
ルナの話に俺も改める事を決意し、ゆっくりと深呼吸をする。
ここから先導きの双星を名乗るなら、なめられる訳には行かない。寧ろ屈服させる事が求められる。
「ああ、そうだ……君の体質? の事だけど、一通り調べさせたよ」
アースラはまるで忘れていたかのように、懐から髪を取り出す。そう言えば負のエネルギーのバランスがおかしいとか言ってたな。
「いつの間にそんな事したんだ?」
「そう言えば、ユウセイが寝てる時に色々やってましたね」
ルナの口から爆弾発言が飛び出す。
「興味深いことにね。君の体には、負のエネルギーを制御する力が一切備わっていない事がわかった」
記録資料をこちらに見せながら、手で軽く叩くようにしならせる。
不思議と驚きはしなかった。昔から怒りが湧き出すと、止められずに癇癪を起こしていたし、カグラにキツく当たってしまった事もこれで納得できる。
だが一つだけ、正のエネルギーも制御できていた記憶は無い。資料ではそれは正常値を示す……ソレは何を意味する?
「こんな話をしてるのに、君たちは驚かないんだね?」
「まあな、思い当たる節があったし、点と点が繋がったくらいだ」
俺は納得し、ルナに視線を向ける。流石の俺も知っているであろう事を知っている。ルナはおそらく、俺よりも俺の事に詳しい。今はもうその確信があある。
「そうですね。ソレはユウセイの体に触れた時に分かって居ました」
涼しい顔でソレを認める。アースラはソレに対し、ピクッと眉を動かす。
「まあ、今重要なのはソレじゃない。これを見てくれ」
先程の話には深く触れず、一つの丸薬を見せる。赤く妖艶な光を放ち、食指を刺激する。
「魔葉樹の実で作った丸薬だ」
何の悪びれも無く何かを説明する。俺は反射的に立ち上がり、詰め寄る。
「お前ーー」
「話は最後まで聞きたまえ」
ーー思うところはあったものの、アースラの一喝で俺は椅子に座り直す。
「成分は出来るだけ薄めてある。反転するほどの効果は無い。あくまで最後の手段だ」
「私は反対です」
ルナはいつに無く強く否定する。その瞳は確かな拒絶を示し、膝の上の拳は静かに揺れる。馬車の揺れか、怒りによる揺れか……俺は答えを決める。
「そうか、なら使わない」
「後悔しないか? 大切なモノを守りたいなら……使うべきじゃ無いかな?」
嫌と言うほどわかる。弱いものに選択の権利なんてない。
「守りたいから、だからこそだ。もう二度と間違えるつもりはない」
色々考えてくれたアースラには感謝している。だからこそ、あんな事は二度とあってはならないと思う。己を犠牲にするのは、勇気じゃないただの蛮勇だ。
「分かった私が悪かったよ。だから二人して睨まないでくれ、流石に凹むぞ?」
両手を頭部付近まで上げて、掌を見せる。俗に言う降参の仕草、居た堪れなくなり早々にギブアップを告げる。
「全く……らしくなったものだな? 板について来たじゃないか」
その表情は寧ろ安心したようだった。口角を吊り上げ、ソレをしまうと満足そうにしている。
「おや、もう着いたみたいですね」
ルナの一言に外を見ると、天を貫くほどの大きな塔が眼前に姿を現し、ついにここまで来たと、俺を奮い立たせる。
まだ見ぬ英雄たちとの会合に身を震わせながら、腰に刺した剣を握りしめる。
「随分と勇ましいですね?」
背筋かヒヤリとし、頭が澄んで行くのが解る。
「そうだな……正直震えが止まらない」
武者震いなんて柄じゃないが、今ならその気持ちが分かってしまう。馬車がついた途端……そこら中から殺気が飛んで来る。
「止まったね、さあ導きの双星……手荒い歓迎だが、気圧されるなよ?」
アースラが降り、ルナが降り、そして俺が地に足をつける。辺りがほとんど何も無い、その為か、視界にその存在を大きく主張する巨大な塔。数名の人が点在するが、塔よりも圧倒的な存在感を放つ人物が二人。
短髪の深い蒼髪に2メートルを超えるかもしれない巨体。渋めの顔に青い瞳。体は筋肉質で、背中には150センチはあるであろう大剣を背負う。常人には持つ事すら不可能であろう重量感。説明の必要がない強者。
ーー蒼海。それがカイトである事は疑う余地はなかった。
別の場所でカイトを睨み付けるように女が一人。髪は金色に輝き、肩より少し長いサイドテール。少し大人びた顔に、目は赤い光を宿す。そして異様に映るのが、背中に背負ったエレキギター? らしき楽器。何だあれ?
ーーただただ得体が知れない。そして周囲を取り囲む謎の集団。手には発光する警棒のような物を持つ。そしてヴィーナスと書かれた横断幕を掲げる。
俺は一歩前に足を踏み出す。その途端、辺りに散らばっていた殺気が俺に集中する。カイトとヴィーナス?は視線をこちらに向け、値踏みでもしているかのようだった。
「ユウセイ、大丈夫ですか?」
「大丈夫と言えば嘘になるが……全員倒すと決めたからな」
ーーそうだ作り笑いでもいい。俺は薄く笑い、視線の主たちを迎え撃つ。




