再臨の熾天使
純白の羽を羽ばたかせ空色の輪を頭上に輝かせウラノスは立ち上がる。連なるチャクラム状の刃が金切り声を上げ────眉を寄せていた顔は翼のように晴れやかに、ただ薄く笑う。
「背中を押された……希望など私には不釣り合いだと思った。アレが幻想だったとしても、彼女が認めてくれるなら、一度は捨て忘れ去ったこの感情も────悪くない」
憑き物が落ちたその姿は淡く光を抱え込む。消えそうなほどに薄くもあり、それでいて確かにそこに存在した。それをつまらなそうに双子の星者は地団駄を踏む。
「お気持ち表明とかぼくのジェミニはどうでもいいの! おじさんのことなんて興味ないしさっさと終わらせておやつ食べるんだ!!」
「待つのよぼくのジェミニ! ライブラが言ってたでしょ? ちゃんと“せんりゃく”ってやつを使わなきゃ!! 二人で勝つよ!!」
二人は手を取り合うとそこには相反する力が渦巻く。反発して混ざり合い、その反動が更なる反発を生み膨れ上がっていく。
「戦星術双──反発融合電磁相克」
二人は手を取り合いグルグルと回り始めた。手を振り上げて無邪気に駆け回るその姿は分かるものにとって異質で力に満ち、磁場が周囲の破片を持ち上げ逆巻く砂塵を生む。
強力な磁界が生まれる中で、ウラノスの連なるチャクラム状の刃はガタガタと引き摺り込まれていく。力尽くで引き戻そうにも手を引き千切りそうなほどに強く表情を歪ませた。引き摺るような金属音と共に刃は頭上に振り上げられる。
「演舞天ノ舞──天下雷来!」
轟く雷鳴と共に刃は打ち付ける。何度も振り上げて何度も振り下ろし落雷が絶え間なく降り注ぎ何度もぶつかり合った。
「ちょっとちょっと! ぼくのジェミニどうなってるの!? おじさんの闘気……上がってる!?」
ジェミニの慌てふためく姿にウラノスは手加減はしない。むしろ更に闘気を注ぎ込み落雷の太さは二倍に膨らみ双子を撃ち抜いた。
「なんでっ────!?」
黒く焦げるほどに身を焼かれ煤汚れた二人を刃が引き裂く。星の壁が遮り金切り声と共にウラノスは女児の方を蹴り飛ばした。鋼鉄の塊を蹴り飛ばした感覚に足を痺れさせながらそれを無視して駆け寄る。
「わたしのジェミニ!!」
男の幼子が叫び、それを遮るようにウラノスが立ち塞がる。
「貴様らは一対の星者……ならそれを分断すれば力はどうなるのだろうな?」
詠唱すら省き瞬時に星壁が展開するも、刃の先はすでに放たれている。後ろから金属音が聞こえた頃には左腕は切り落とされ絶叫と共に悲鳴がこだました。
「うわああああああああああ!! ぼくのジェミニの腕がああああ────!!」
「ぼくのジェミニ大丈夫!? おじさんなんてことするの!!」
かつての惨劇を思い出し、吐き気を催す言葉に怒りを抑えて攻撃を続ける。何度も振りかざす刃は蛇のようのうねり軌道を曖昧にさせ四方のどこから押し寄せるか特定させない。
女児が反転し二人で即座にてを握ると、治り始めていた腕は加速度的に再生してもう二度と離さないとより強固に繋ぎ直す。
「戦星術双──反発融合炎水炉心核」
双子は深く指先を絡め合う。それに釣られるように宙に現れた水疱と火球が歪に伸びて変形し、中心で渦を巻きながら収束していく。相反する二つの力が歪に混ざり合い核を形成して常軌を逸した力の暴発は全て一人に放たれる。
「ぼくとわたしのジェミニをいじめるやつは死んじゃえ!!」
炸裂した衝撃がウラノスを飲み込む。肉の全てを剥がされ骨すら砕き散らす力に闘気の壁だけで半分凌ぐ。残りもう半分が肉体に届くというその時に蛇腹に暴れるチャクラムは雷を纏わす。
「演舞天ノ舞──天弦雷火!!」
伝う稲妻が黒く染まると後方で一直線に蛇腹は伸び切る。爆発が白い羽を散らし身を削り始めると、次の瞬間には鬼気迫る表情で神の雷は、鋭く何度も折れ炎導線を描いた。
激しい衝突に部屋の内壁は剥がれ落ち白い表面の中が露出する。脈動が床を掛けたかと思うと次々に修復しより強固に固まっていく。衝撃は完全に相殺され周囲の地理が飛び一帯は無音に包まれる。
静けさが終わると同時に両者は急接近した。双子は体をめちゃくちゃに振り回して手を絡め合ったまま遠心力に物を言わせ暴れ回る。その肌は刃と触れ合いながらも強固に耐え、金属音を鳴らし異常さを語った。
「演舞天ノ舞──荒天電光!」
上空に振り上げた蛇腹はキリキリと音を立てながら行き交う。振り下ろすと同時に駆け出す光は轟きながら女児を撃ち抜く。
「この……また、また、またまたまた!! わたしのジェミニを!!」
吹き飛ぶ女児が止まるとぐるりと一回転し遠心力に任せて戻っていくる。そして両足がウラノスの腹部に直撃しメキメキと悲鳴を上げさせた。
まだ終わらせるつもりなど毛頭ない。このまま毛の一本すら残すものか────男児は確かな殺意と共に闇の球体を生む。そして女児が生み出した光の球体と混ぜ合わせると灰色の不純物がうねうねと気味悪く流動する。
「このまま深いむちつじょの世界に沈んじゃえ!! 戦星術双──反発融合光闇混沌」
灰色に飲まれる寸前に蛇腹の刃はウラノスとの間を遮る。光と闇が交差する中で雷光が駆け抜けて桜色の花弁っを散らす。
「演舞天ノ舞──統べるは天上天下覇の蠢き、地上に災禍の花弁を散らし輝け── 覇天豪雷“熾天桜花”!」
その輝きは神々しく雷鳴を散らしながら威風堂々と輝く。部屋全体を轟かせながら収まり切らぬほどの豪雷が降り注ぎ炸裂し、灰色の異物を貫き散らす。
雷鳴と花弁に身を焦がし裂かれながら双子は引き下がると、瞬時に傷は再生して不可思議な形相で睨み付ける。
「お前……そんなことしたら、また堕天するよ? ぼくのジェミニたちを傷つけるたびに羽が煤焦げてるの分かってるでしょ?」
「ぼくのジェミニそいつに言っても無駄よ。わたしのジェミニたちを殺すことしか考えてない。それじゃ一生勝てないって分かってても変えられないのよ」
哀れみの視線が注がれるもウラノスは動じない。黒く煤汚れていく羽を見つめながら覚悟を持った瞳でその速度を早めた。
「哀れだと見下すがいい。私の覚悟は極まった。どれだけ蔑まれようと変わりはしない」
高め練り上げた闘気は体から溢れ出し魔力が部屋中に充満する。手の平で渦巻く雷が轟き広がるとそこには暗雲が立ち込めた。
「迷いはしない……深い真宵の深淵で光届かぬ場所だろうと、罪に焼かれこの羽がもげようと、雷撃に撃ち抜かれようと、天獄にて立ち上がり心に宿す光を持って私は私を成す──── 魔王領域──天獄の逆様雷命」
天地逆さの景色が立ち込め暗雲が足元を埋め尽くす。空には大地が浮かび、落雷は頭上へと昇り大地に突き刺さる。奇々怪界浮世絵離れ、逆転の桃源郷に三人は誘われた。




