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黒い太陽

 焦土と化したフィールド内に男は佇む。その顔には濁った(まゆずみ)色の左眼と、真紅の右眼を輝かせ、灼熱の環境にもかかわらず、凍てつくようなプレシャーが、周囲を支配する。


 ーーソレはまるで。


「落日の魔王……ヘリオス」


 アースラの口から、誰も聞いたことの無い名前が飛び出す。太陽を冠する魔王の名。ソレに対し、ユウセイは、若干瞳孔を開く。そして僅かながらに、口角を吊り上げてる。


 そこでユウセイは思う。


 へーー、そんなヤツいるんだ?でもそれだけだ。


 領域は尚も侵食を強める。大地は溶岩の中に沈んで行き、足場は失われつつあった。アースラは両手を突き出し、魔力を最大限まで込めた。


「胎動する大地よ、底より這い出で、うねりを上げよ……アース・クエイク!」


地面が大きく揺れ、大地が押し上げられる。直径20メートル、円を描くようなの小さな岩場が出現した。アースラはそこに飛び乗り、周りの沈んでいくフィールドを見送る。


「やるもんだな、領域内でこれだけの足場を作るとは、驚いたぞ?」


 当然その表情に驚きなど一切無い、ユウセイはアースラの行動を称賛するように、両手を3度ほど弾き合わせる。ソレが相手の感情を逆撫でするなど、想像は容易い。


 しかし、アースラは挑発に乗るような事はしない。


 ーー領域。ソレは魔王が指定した空間内にいる相手と、自分のみを空間へと閉じ込め、戦う為の専用フィールド。外部からの干渉はできず、魔王消失、意思による解除の二択だ。


「演舞地ノ舞……遺産の章ーー大いなる一枚岩おおいなるいちまいいわ


 アースラの詠唱により、上空から全長100メートルはあろうかと言う巨大な大岩が降り注ぐ、ソ落ちれば間違いなく足場は崩れ去り、アースラとて巻き込まれる。 


 ソレに対し、ユウセイも刀を構える。闘気を注ぎ込み、大地に小さなクレーターが出来るほどの踏み込みで、空高く跳び上がった。


「演舞日ノ舞……怪奇日蝕(かいきにっしょく)


 闘気により、刀は黒い炎を纏い、下から大きく切り上げると、岩の塊は瞬時にその炎が這い回る。電光石火の如く、僅か3秒でその全てを包み込み、耳を貫く程の破裂音と共に、大きく爆ぜた。


 爆煙や、土埃と、降り注ぐかけらの中、アースラは書に手を掲げる。闘気を左手に流し込み、魔力を右手に注ぎ、その表情を固くする。


「大地よ荒ぶれ、あの者を拘束せよ、アース・バインド」


 地面より次々と岩の手が出現し、その数は10本にも及ぶ、ソレらが落下中のユウセイに向かい、押さえつけるように次々と飛びかかる。


 だが、ユウセイは一太刀で一つの手首を切り落とし、伸びて止まった腕を足場とし着地。刹那にアーラと視界を交差させると、7メートルはあろう標的に向かい一直線。足場を蹴り飛ばし、その距離を乱暴に詰め始める。


 左から3本、1つを切り落とし、ソレを足場に跳躍。右から来る2本とぶつけ合わせ、同時にソレらを切り落とし、再び接近する。下から1本、上から2本、正面から2本……同時にユウセイを捕らえる。


「中々面白い趣向だぞ、英地よ」


 ユウセイはまるで、戦いを楽しむかのように笑い、切っ先を突き立てた。


「演舞日ノ舞……陽炎」


 その詠唱と共に、5本あった手は、1ヶ所へ向かい全てがぶつかり合う。岩のぶつかり合う重音と、衝撃、土煙が上がり、先の衝突で粉々になった岩が、マグマの中へ雨のように降り注ぐ。


 その土煙が晴れると、ユウセイが重なり合う手の上で、揺らめくように現れた。


「中々楽しめたぞ」


 ユウセイが飛び降りると、岩の手はコマ切れになり、崩れ去る。着地後に顔を上げると、刀を構え、アースラに斬りかかる。アースラも貯めた闘気を解放して、ソレを迎え撃つ。


「演舞地ノ舞……物語の章ーー相反する二つに、解は示される。矛盾」


「演舞日ノ舞……閃火(せんか)


 アースラを守るよに盾が出現。その重厚さは、今まで以上、闘気を注ぎ込み、限界まで強度を高めた。ソレに対し、ユウセイは、切っ先に炎を集中させ、左下から切り上げるように斬り込む。

 

 金属同士のぶつかり合いにより、高周波が鳴り響く、刀は止まり、攻撃は防がれたように思われたその時……盾の左下から、黒い炎が燃え上がる。


「な、何なんだコレは!?」


 今までに見せたことのないような表情で、アースラは取り乱す。目は見開き、歯を食いしばり、英知と称賛される程の面影は、何処にもない。


閃日迎(せんかむか)え日……さあ、黒い炎がお前をあの世に連れて行きたいってよ?」


 炎が激しさを増し、下からズブズブと不快な音を立て、切り込みが入っていく。ソレに気付いたアースラは、全力で顔を逸らす、次の瞬間バターでも切るかのように、盾は無惨にも溶断される。


 そして隙を付くように、後方から槍がユウセイを強襲。腕のみを後ろに向け、切っ先同士がぶつかり合う。しかし、ソレは長く続かない。槍は刃先から柄に至るまで、一刀両断。黒い炎が包み込み、消えていった。


 ヒラヒラとアースラの前髪が3センチほど宙を舞う。盾を切った際に巻き込まれたものだ。もし避けていなかったら、髪ではなく、首が宙を舞う事になった。


「……何なのだお前は、世界を救う勇者では無かったのか?」


 やっとの思いで、振り絞られた言葉。だがソレは、今のユウセイに届く事はない。


「勇者だぞ?お前ら魔王は皆殺しにして、俺が平和を作ってやるよ」


 刀を振りかざそうと、右手を大きく振り上げた時、ユウセイはある事に気が付く。


「ん?何だ英地よ、仏頂面かと思えば……そそられるような顔もするじゃ無いか」


 魔王とは思えない程のその表情。地面はポタポタと湿り気を帯び、眼からは水滴が洪水のように溢れ出す。地面に崩れ落ちると、下を向いたまま、両手を地面に付き、戦意を消失した。


「私はもう疲れた。今死ぬなら……()()()()()()()()()()ソレも良い」


「そうか……同情はしない」


 ユウセイは振り上げられた刀に力を込め、一直線に振り下ろす。アースラは目を瞑り、ソレを受け入れた。しかし、剣を受け止める何かにより、その瞳は再び開かれる事になる。結界のようなものが、刀を受け止め、消えていく。


「どう言うつもりだよ、ルナ?」


 ユウセイのセリフにアースラは後ろに振り返る。そこには息を切らすように、かつて見たことがないほど、怒りに満ちた女神の姿があった。


「貴方、いや……お前は何をしてるのですか、ユウセイ!」


「魔王退治? ああそうか、領域が書き換わった時に、上手いこと入り込んだんだな?」


 ユウセイのふざけるような態度に、ルナは更に怒りを見せる。アースラの前に立ちように、ユウセイに立ち塞がる。


「協力して下さいアースラ」


「は?君は何を……いや、そうだな、分かった」


 ルナの誘いにアースラは驚くも、ソレが最善だと理解し、承諾する。


「今からあの……大馬鹿者の、目を覚まさせます」


 勇者に対し、魔王と女神と言う、奇妙を通り越した。チグハグな共同戦線が、今始まる。



 

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