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再臨の双星

 意識が眼醒めると俺は再び真っ暗な空間に戻って来ていた。思い返してもその後の事は記憶にない。


「戻って来たね……どうだった?」


「何が魔王の素質があっただ、結局は否定されただろう」


 俺が言い返すもヒカルは顔色一つ変えない。後ろに隠れる子供たちは俺を伺い止まったような時間が流れる。最初に口を開いたのはヒカルだった。


「あったと言えなくもない。あの茶を飲めば誰でも勇者や魔王に成れると後に説明があったからね」


「あんな怪しい奴の言葉を信じるのか?」


 神と名乗っていたが、司祭に取り憑いた人物とはまるで別物……近しいと自称する奴は今もこの世界のどこかに潜んでいる。何も感じない異質な存在。


「それはソール……サタンに聞くといいよ。もう戻る時間だしね」


「分かった……最後に一つだけ、その後ろの子供たちはなんだ」


「自ら終わらせた者たちだよ。嘆いていたからね。僕がソールを一人にしてしまったから……どうか責めないであげてくれ」


 砂嵐が巻き上げるように雑音がヒカルの顔をかき消していき、俺は現実に引き戻される。眼が醒めた時には左手にかけらが飛び込んでいた。蒼いオーラを纏い、力が溢れ出すとともに髪が白銀へと染まっていく。


 神託から八つの光が放たれると、二つはアースラとサタンに宿り、六つはそれぞれ飛んでいった。


 サタンから漆黒のフルプレートが焼け落ちていき鋭い眼付きで素顔を現す。短髪に赤眼に白い片翼を生やし、使用量の鱗を纏う姿は過去と寸分も違わない。覗く素顔は陰りが見える。


「そんな浮かない顔で俺を見つめてどうした」


「……私は貴殿になれなかった者だ。最近までその答えが分からないでいたが、ようやく見えて来た気がする。一区切りを付ける時が近づいて来たのだな」


 左手の神託が蒼い炎に包まれる。晴れると同時に形を変えサタンの口元は僅かに緩んだ。


「変わろうと思えば人はいつでも変われる。必要なのは些細なきっかけだけでいい。人が変われば国も変わる。お前の言う絶望も少しずつ変えていく。今は見えないが、約束する」


 俺は手を差し出した。サタンは色の無い瞳でそれを見つめる。


「渦の男を見ても折れないか……我が国は属国を希望する。私は戦争を仕掛けて張本人として裁きを受けよう」


 そう言うと伸ばしかけた手を引っ込めた。即座に俺は掴み取る。


「お前を一人にしない。俺たちはこの神託を通じて深く繋がっている。過去を超え、今を超え、同じ痛みを抱えながら未来を超えていく。待っていたんだ……ずっとずっと遥か数千年前から────」


「貴殿は何を言っている。まさか……かの双星の生まれ変わりだと言うのか?」


「それは俺にも分からない。神託がそうさせているのか、それとも俺の魂の奥底か来るものなのか……」


 その先の言葉に詰まっていると、アースラが間に入ってくる。


「盛り上がっている所悪いが、そろそろ私が入ってもいいかね? あとそのチビ助は黒土の認識でいいんだろうか?」


 機嫌はあまり良くなさそうでトゲトゲした視線が向けられた。慌てる俺をよそにサタンが落ち着いて対応する。


「属国の件か……条件は好きに決めるがいい。今の貴殿なら上手くこなしてくれよう」


 やけに物分かりが良すぎるサタンに嫌そうな顔をすると苦虫を噛み潰したように舌を出す。サラッと流されたのも気に障り、よほどお気に召さなかったようだ。


「それは断るね……悪いが私は双星を買っている。賭けるぐらいのことをして見せるさ、それが愚かかどうかは未来に生きる者たちが判断することだね」


「馴れ合いで世界は救えない。非常になる事もまた真理だ。だが……私ではなく貴殿が勝利した。その事に意味があるのだとしたら、私には見届ける義務がある」


 なんとも素直でない答え、俺は思わず苦笑いをこぼした。


「アースラ、ルナはどうだ。まだ眼醒めないのか?」


 前に思い出そうとした時は随分と苦しんでいた。何もなければいいが、悠長に身構える訳にもいかない。


 視線を向けるもまだ眠りについているようで一向に反応はなかった。サタンが見かねてか、口を挟む。


「女神は記憶を思い出そうとしてそうなった。向かうべきはウラノスの国だ。星者の住む場所は世界の中心でヘブンズゲート・ソル・トゥールにあるが、通じる道は別の場所からのみ入れるのだ。そこに全ての答えはあり、例の渦巻き男もそこにいるはず」


「そう言えば姿を見ないな。双星と一緒にいたと思っていたが、どうしたのだね?」


 シスイのことだろう。俺は頭を抱えながらながら当事者に視線を送る。不思議そうにアースラが首を傾げるも、サタンは悪びれもなく答えた。


水豹(すいひょう)堕天(だてん)に連れて行かれたようだな。アレは私が貴殿を焚き付けるために言った方便だ。このまま向かえば会える」


「何があったかは知らないが、堕天が動いているなら話は早いな。後は炎鷹(えんおう)木弓(もくきゅう)だが二人も一緒か?」


「いや……サタンの国で龍たちの足止めをしている」


 忘れていたわけではないが、後を任せてしまった。無事でいてくれる事を願う。


「二人なら心配いらないだろう。あのレベルであればそろそろ戦いは終結している。問題は誰かが伝えなければならないと言うことだな」


「ふむ……ならその役目は私が担う。蒼海(そうかい)黄金(おうごん)にも私から使いを送る。君は早々に向かいたまえよ……そこで尻尾を振っている畜生に乗ってね」


 アースラの言葉にセイリオスは過剰に反応する。照れ隠しをしながら内心嬉しそうだ。


「な、別に故郷に帰れるのなんて嬉しくねえよ。勝手なこといってんじゃねえ!」


「……要点は理解した。君はさっさと黒土と一緒に行け、双星が覚醒した以上世界は確実に変革がもたらされる。向こうも抵抗してくるだろう」


 腕を組みながら深く息をする。星者たちの妨害が一切入らなかった事や、気になる事も多くあるものの未だに眼醒めぬルナを抱えながら国をこの場を後にした。

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