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英地の魔王

 信じたくはない。アースラは魔王で、倒すべき敵。しかし同時にこの国の国王。俺が気持ちの整理をつけられないまま、話は過ぎ去る。少なくともアースラは俺の答えを待つつもりは欠片も無いらしい。


「ーーアンタは……俺の敵なのか!?」


 声に苛立ちを混ぜ、非難を込める。思ったよりも直接的で抽象的な言葉。


「だから……まあ良いだろう。しかしだね、質問を(たが)えるな」


 アースラは眉を吊り上げ、口角を下げる。苛立ちのような態度を見せ、俺を真っ直ぐに指差す。そして更なる言葉を続ける。


「魔王相手に、勇者が敵かどうかの確認など……何の意味がある? 馬鹿馬鹿しいこの上無い」


 そう言うと鼻で笑い、手の平を見せ、両腕を左右に大きく広げる。本は宙を浮かび静止し、口が三日月を型取り、その目は荒野の夜に、赤い瞳を淡く光らせる。


「ーーきたまえよ」


 答えを出す時間もくれないか……俺は揺り籠(クレイドル)に手をかけ、握りしめながら強く念じる。カグラ……何度もすまない。


 異次元との空間を接続。内部にある刀に座標を合わせる。ゲートを開き、溢れ出す青い光の中、俺は柄に手をかけ、光を断ち切るように一気に引き抜く。戦闘は避けられない。ならどうすれば良い? 俺は静かに切っ先をアースラに向ける。


「それでいい……勇者と魔王の戦いは神話の時代を境に幾度となく繰り返されてきた。私たちは、強き者が掟なんだよ」


 俺は大地を蹴り上げる。刀を握りしめ、闘気を練り上る。地は硬く、しっかりとした踏み込みが可能。俺はアースラに向け、一直線に距離を積める。


「演舞日ノ舞ーー」


「ーーアースウォール」


 俺が斬りかかろうと演舞を詠唱した瞬間。アースラが先に魔法の詠唱を済ませる。しかしその距離は一歩というところ……魔法は間に合わない!


「ーー烈火!」


 一気に左足を突き出し、全体重を乗せる。しかしーー俺の視界が一気に上昇。地表から2メートルほどの高さに到達し、烈火は空を切る。何が起こった?


「演舞地ノ舞ーー物語ノ章……三本の矢!」


 俺が動揺していると、下からアースラの詠唱が聞こえる。視線を瞬時に下に向けると、三本の矢が俺に向け飛んできた。俺は顔を仰け反らせ、二本を回避。しかし一本は肩に命中……そこで俺は足を滑らせる。


 訳もわからず地上へ落下する中、俺の足元だった場所にそびえ立つ大きな岩壁。そこで理解した。アースラは俺を壁で持ち上げ攻撃を回避、動揺したところに矢を打ち込んできたのだ。


「演舞地ノ舞……物語ノ章ーー裁きの光!」


 アースラは更なる追い討ちをかけてきた。暗い夜空に一際輝く何かが現れる。それは次第に大きくなり、空が明るみ眩しさすら覚える。このままでは落下が終わる前に俺に命中する。それは避けなければならない。


「やれやれ、あれだけ豪語しておきながら、呆気ないものだね?」


 アースラの言葉が俺に届く。情けない、一人だからと言って絆が無くなる訳ではないと言うのにーーそうだよな……カグラ!


 流れる視界の中、俺は岩壁を全力で蹴り飛ばす。その強い衝撃で、俺は横に強く飛び出し、壁は割れ、アースラに倒れ込む。俺は両手を壁に構え、魔力を集中する。


「……おっと」


 僅かに声を漏らし、アースラは俺から見て壁の左側へ回避。


「バーストブレイズ!」


 俺はアースラの回避を確認し、そこに爆裂魔法を撃つ。前世で言うジェットエンジンのような爆風がアースラを飲み込んでいく。それにより俺はさらに後方へ吹き飛ばされ、10メートルからの距離を取る。


 術者の後方に強い推進力が発生する為、普段は使うことはない。だが今なら最適解だろう。


 そこに先ほどの裁きが落ちる。大地は鳴動(めいどう)し、ひび割れ、吹き飛ぶ。その衝撃だけで、俺の体に多くの痛みを残した。天から降り注ぐ直径10メートルほどの柱が、破壊尽くす様は神の怒りとでも言うべきか?


 衝撃の後の土煙。俺は肩に刺さった矢を抜く。痛みは強いが、幸い深傷にはなっていなかった。


 その内突風が吹き煙が晴れ、アースラは何事も無かったかのように立ち尽くす。それには余裕が見られ、顔には薄い笑みを浮かべる。


「最後のは中々良かった……次はもっと苛烈(かれつ)に行こうか」


 それと同時にアースラは左手の平を差し出す。俺は左手を突き出し、手に魔力を込める。アースラの戦いはなんとなくだが、分かってきた。ならやることは決まった。


「燃やせ……ファイヤーボール!」


 俺の詠唱と共にアースラ目掛け、炎弾が10発。次々に降り注ぐ。アースラはそれに対して、左手にこめていた魔力を解放する。


「アースウォール!」


 アースラは再び地面から岩壁を出現させる。視界が塞がれ、そこに炎弾が直撃し、爆煙がプラスする。岩壁はびくともしない。俺は更に魔力を込めて、攻撃を放つ。


「貫け……フレイムアロー!」


 燃え盛る炎の矢が、壁目掛け飛び込む。僅かに亀裂が入る。俺はまだまだ魔力を込めて、次を準備する。そして今の隙にアースラへと近く。岩壁の強度は先ほどとは比べ物にならないようだ。それならーー。


「打ち崩せ……フレイムアルバレスト!」


 俺の手から、魔獣の外殻すら打ち崩した魔法が放たれる。城壁すら破壊する炎の大弓矢……お前の自慢の壁で受けてみろ!!


 矢が大気を焼き尽くし、強い衝撃と共に瞬時に着弾。壁の亀裂が大きくなる。


「いけええーー!」


 俺の叫び声に応えるように、神託が光り輝く。そして矢は壁を突き破り、アースラが眼前に現れる。アースラは両腕を掲げ、魔法を発動。


「アースウォール!」


 俺は足元を警戒し、前に飛び込む。足元に岩壁が出現するも、ギリギリで回避した。しかし壁はアースラの位置にも出現。同時にアースラはフレイムアルバレストを回避する。


 このまま壁に激突すれば、間違いなく追い討ちをくらう。こんな所で……負けるわけにはいかない!!


 俺は咄嗟に体の向きを反転。闘気を練りながら、体の関節を使い、筋を使い、足を広げ、手をつき、体の全てを駆使し、衝撃を受け流した上で、壁への着地に成功した。


 広げた足を縮め、壁を蹴り飛ばし、己の脚力。受け流した衝撃。それらをヒ飛距離に変え、後方へそしてその壁へと着地。


 俺は岩壁の上に立つアースラを見る。アースラもそこで闘気を練っていた。なら始まるのは純粋な力比べだ。


「ーー演舞日ノ神楽」


 俺は岩壁を力の限り蹴り上げ、アースラへ飛びかかる。


「ーー演舞地ノ舞」


 アースラも詠唱を開始。宙に浮く本へと右手を掲げ、闘気を注ぎ込む。


「降り注げーー烈火旭日(れっかあさひ)!!」


 先の俺の演舞が発動。燃え盛る炎の突きがアースラに襲いかかる。ソレは襲いくる炎のように、何度も突きつけられる。


「ーー物語ノ章……矛盾(むじゅん)


 これは一体……何だ? 俺は訳もわからず対処のしようもない。アースラの持つ本のページが一枚千切れ、宙を舞う。ソレが燃え尽き、盾と槍が姿を表し、宙を浮かぶ。


 ーーそして盾がアースラを守るように立ちはだかる。盾は烈火をものともしない。


「な、いやまだだ!」


 俺は渾身の力を込め撃ち続け、最後の一撃。(あさひ)を叩き込む。夜明けの閃光の如きそれは、たった一撃とはいえ、硬い岩盤だろうと易々と撃ち抜く。しかし盾には傷ひとつつかず。全ての攻撃を凌ぎ切った。役目を終えた盾は消滅。


「言っておくが……安心は、しないでおくれよ?」


 アースラの言葉に俺は我に返る。刀を強く握りしめ、僅かながら、闘気を練り上げる。槍が俺目掛け襲いかかる。


「演舞日ノ舞……陽炎(かげろう)!」


 ギリギリのところで、俺は陽炎を発動。炎のゆらめきに槍は巻かれ、攻撃は空を切る。


()()()()不正解さ」


 アースラの発言と共に、俺の腹部に強い激痛が走る。陽炎はかき消され、そこには串刺しの俺だけが残った。


「なん……だと!?」


 役目を終えたのか、槍は消え、俺は地上へ真っ逆さまに落ちる。今何が起こった?普通の槍じゃないのか?


「この本は()()()ノ書。つまりこれが私の武器だね」


 俺は腹部を抑え、アースラを見上げる。物語が力になる? ーーそんなのありか? しかし現実として、あの魔導書? は力を発揮している。認めざる得ない。


「私は英地あるいは英知。この地に眠る知識、文化、歴史は全てが私の力になる」


 本を右手で持ち上げ、大切そうに左手でソレを摩る。そこには魔王らしからぬ一面が見えた。


 


 

 

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