龍の雄叫び
淡々と語り終えたサタンは粒子となり崩れ落ちた。行き場のない感情が俺の脳内を駆け巡る。足止めを食らった事実にもサタンの能力にも驚きだが、我を失った怒り狂う星龍がこちらを真っ直ぐに目指す。
六体が放つブレスは大地を抉り、疲れ切った俺の体を否応無しに痛めつける。
「クッソ……! こんな所で無駄な力は使えないのに!」
ギリギリで躱しながら後方に後退していく。避けきれない衝撃を剣で受け止める度に肉体が悲鳴を上げた。
「────────ッ!?」
俺が対処に手間取る最中にも少しずつ龍たちは距離を詰める。土龍は地を這い、炎龍は溶かしたマグマの海を泳ぎ、海龍は生み出した水流に身を任せ迫った。
「角度よし照準よし……絶っっっ好調────!!」
俺の後方より一陣の風が吹き抜け、龍たちの眼の前で炸裂する。それでも迫り来る龍の前には戦斧が振り下ろされ、大地を二つに引き裂く。警戒心を強めこちらを睨むように構えると様子を伺っていた。
「どうやら間に合ったみたいね。合流する頃には勝負が終わってるから焦ったわよ」
「ツバキ……それにロッカも、無事だったか! 聞いてくれ、サタンの本体はここにはない。奴はガイア王国に向かっている。俺たちは足止めを食らったんだ!」
二人はそれを聞いて眉を顰める。セイリオスとルナも合流して戦線は整った。しかし別の大きな問題がのし掛かる。
「なんとか間に合いましたね。しかしそうですか……ならばここは任せましょう」
「任せるだと、相手は星龍なんだぞ! いくら勇者でも危険すぎる!」
俺は前のめりに反論した。しかし手で静止されそれ以上を止められる。
「全く……少しは自分の心配をしたらどうなのかしら、あなたはいつもボロボロね?」
ぐうの音も出ない切り返しに俺は口をつむぐ。不安の気持ちを抑えながら眼を逸らした。
「助かった……だが奴らを止めるには骨が折れるぞ」
「あんたが素直にお礼言うなんてよっっっぽど弱ってるのね。まあここはか弱いあたしたちに任せて早く向かって」
妙に嬉しそうな素振りを見せると気を引き締めてツバキは弓を引く。飛び散る一撃を戦斧で叩き斬りロッカは立ち込める土煙を払った。
「グズグズしてる場合じゃないわよ。果たすべき責務があるのでしょう。守ってあげて、あなたが来ることを信じてる人々を」
「ツバキ、ロッカ……」
「ユウセイここで行かなきゃ男じゃないぜ! たまには他の勇者にも見せ場をやらないとな!」
「本っっっ当可愛げのない忠犬よね」
「俺はカッコよくなるからいいんだよ」
ツバキにセイリオスが言い返す。それに対しロッカが苦い顔をする。
「そればかりは色ボケ勇者に同意ね。こんなところで馬が合うなんて、槍でも降るのかしら?」
ロッカとツバキはお互いに睨み合い牽制するも、直ぐに含み笑いを浮かべた。二人だけに通じるものがある。そう言うことなのだろう。
俺の背中を軽快に叩き、二人は戦場を駆ける。振り返らず、只々前に進んだ。
「行きましょうユウセイ……あなたの故郷の者たちが、あなたの帰りを待っています。サタンが何故このような暴挙に出るかなど知り得ませんが、答えは全てそこにあるでしょう」
「ああそうだな、探しに行こう聞こう……それが守ることに繋がるなら全てを知るために!」
俺がセイリオスに乗り走り去った後、後方で激しい火柱が上がる。それは戦いの壮絶さを物語った。
「演舞炎ノ舞──翔下ノ炎鷲!」
巨大な斧に炎の翼を纏わせ急降下させる。ロッカの叩きつけに、炎の龍は地面へと沈む。火柱と同時に地面を食い破り土龍が突き上げると海龍が尻尾でロッカをはたき落とす。
「この────やってくれるわね!」
高出力の闘気を噴射し、切り離された刀身が海龍を引き裂く。それを後方から狙う木龍に無数の矢が降り注ぐ。
「演舞樹ノ舞──樹海ノ 鼬鼠風!」
闘気を高めた一撃が放たれると、木龍の肉体を突風が引き裂いていく。その後方から金龍が角張った体で弾きながら迫る。
「ちょっと、いくらなんでも硬過ぎない!?」
その攻撃をヒラリと上空に躱し、その更に上より襲い来る天龍が口を開けた。そこへロッカの膨れ上がった腕から放たれる重厚な一撃が牙を砕き飛ばす。
「文句を言ってる暇があったら手を動かしなさい。再生能力持ちの厄介な相手よ」
「分かってるっての……あたしってば天才だからこんなの一発なんだから」
二人は眼線を合わせると背中合わせに立ち、流れるようにくるりと立ち位置を入れ換える。そのまま駆け出し闘気を最大限に練り上げた。
「演舞樹ノ舞──深緑ノ旋風!」
「演舞炎ノ舞──飛翔ノ炎鷹!」
深き森を突き向けるように放たれた一矢は渦を巻き、着弾と同時に旋風の渦に海龍を閉じ込める。戦斧に生えた両翼が突き上げ金龍を天空へと突き上げ炎は広がった。
すかさず天龍と炎龍がブレスを放ち、ロッカがブレスを戦斧で受け流しツバキがヒラリと躱す。それらは中心でぶつかり合い衝撃波が二人を空に舞上げる。
「演舞樹ノ舞──神聖樹ノ 追風!」
空に放つ一矢が二人の体幹を安定させる。どこからともなく吹き抜ける風は二人を空へと舞い上がらせツバキが海龍に、ロッカが金龍に対峙した。
「上手くやりなさいよ。私が苦手な龍はちゃんと仕留めておいてね」
「それ、こっちのセリフだから〜〜上手くやんなさいよね」
それぞれが各々に闘気を込める。息を合わせ示し合わせたような一撃へと繋いだ。
「演舞樹ノ舞──猛き風、森羅万象全てを包み、地平へ駆ける獣となれ、密林ノ疾風!」
「演舞炎ノ舞──翔下ノ炎鷲!」
同時に放たれ駆け抜ける風は獣の如く曲線に波打ち、海龍を引き裂いていく。上空より落下しながら勢いを増す戦斧は黄金の体に直撃し、炎を撒き散らした。
「あたしたちの攻撃は────」
「────まだまだこんなものじゃないわよ!!」
二人が風と炎を近づけることで、風は熱せられ気流が生まれる。炎は風に酸素を供給され勢いを更に増す。二つの力が合わさり神託は共鳴し、それぞれが勢いを増した。
翼を広げた炎は火力が増し金龍の肉体を溶かし始める。風は乱気流を生み、海龍の水分を巻き上げみるみる弱っていく。
「GAAAAAAAAAAAAAAAA────!!」
魔獣と化した龍たちは必死に抵抗し雄叫びを上げる。炎の翼が羽ばたき刃が金色の体に食い込んだ。
「鷲はね……風に乗って獲物目掛けその爪を突き立てるのよ!!」
爆発が起きると衝撃が辺り一帯を呑み込んだ。轟音と共に砕ける黄金と共に皆は光の中へと消えていく。




