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祝いの宴

 絶景から吹き抜ける夜風が熱った体を覚まし、空を見上げれば、俺の荒んだ心を星達が癒してくれる。俺は今パーティー会場から抜け出し、城のバルコニーに来ている。

 

 この静かな空間を独り占め出来ることに満足し、実に有意義な時間を過ごす。


 何より人がいないのが良い。ここはひどく静かで、パーティー会場から切り離されていて、時が止まった感覚すら覚える。


 俺は手すりに寄りかかり、手に持った皿の料理に舌鼓を打ち、手すりに器用に乗せたグラスを持ち上げ一口。柑橘系(かんきつけい)の酸味が、口イッパイに広がり油でドロッとした口の中に、清涼感が駆け抜ける。


「ふー……そろそろ帰るかな」 


 俺が場内を覗いてみると、俺を探すように慌ただしく人々が動き回る。気を使う上に質問攻めと、散々な目にあった。仕方がないので、もう少しだけ待つか?


「おいおい……主役が帰るって、この宴はお前のために開いてるんだぜ?」


 俺は声の方に振り返る。片手を軽く上げるてきたので、俺も上げ返す。片方の奥歯が見えるように笑うと、カムイは俺の方へと歩いてきた。


「小言を聞く趣味はないぞ?」


 俺は再び体の向きを夜景に向けると、冗談混じりに言葉を放つ。


 顔の向きは変えず、景色を眺めながら、横目で俺の隣に来たカムイを見る。カムイは少し驚いたような表情を見せるも、すぐにそれは消えた。


「……ルナさんだっけ? 遊星の仲間なんだろ?」


 唐突に出るルナの名前。カムイは俺に何かを伝えようとしているのだろう。手すりに寄りかかり、ほぼ俺と同じ姿勢をとっている。


「まあな」


 俺は当たり前のように肯定し、再びカムイをチラ見する。その表情はほぼ無表情で、何を考えているか読みかねる。


「いい仲間を持ったな……本当は口止めされてるけど、彼女からカグラの事を聞いた」


 カムイが話したのは、俺の知らない話だった。同時にカグラの事を黙っていた罪悪感が、俺を襲う。


「……すまない。話してやる事が出来なくて」


 俺は拳を握り締め、カグラの最後を思い浮かべる。忘れるはずもない。頭に焼き付いて消えない。


 謝罪の言葉を尽しても、許しになることはない。俺は罵声を覚悟し、ゆっくりとカムイの方へ首を傾ける。


 ーーだが。


「ユウセイの代わりに何度も謝って来たよ」


 カムイから放たれたのは想定外の言葉だった。俺はそのせいか、視線が泳ぎ、言葉を返せなくなってしまう。


「初めはユウセイをぶん殴ってやろうかとも思った。でも必死なルナさんを見て、分からなくなった」


 カムイの言葉に、俺は心臓が跳ねる。そしてまたしてもルナの名を聞く。その声色は戸惑いに満ちていたかもしれない。

 

「お前の戦いを見て思った。カグラはもう居ないけど、意思はちゃんと引き継がれてるんだってな」


 カグラの意思……カムイに言われるまで、考えたことも無かったかもしれない。もう一度カムイに視線を合わせる。それを語る瞳は力強く、決意に満ち溢れていた。


 ーーああそうか、きっとカムイは未来に進もうとしてるんだ。全てを納得したわけでは無いと思う。それでも……前へ。


「だから心配するな、俺たちは大丈夫だ」

 

 そう言いながらカムイは拳を突き出す。俺もそれに応えるように突き合わせる。そうだな、例え同じ道でなくとも……道はその先で繋がっているかも知れない。


 強がってるだけだろうに、こんなにも力強い。


「じゃな双星殿。騎士団長と大事な話があるから、もういくぜ?お前も早く戻ってこいよ?」


 そう言うとカムイはパーティー会場に戻って行った。騎士団か……団長にもお礼を言っとかないとな。ついでにカムイをよろしくって言っとくのもいいかもしれない。


「そうだな……程々にする」


 誰もいないはずの空間に独り言を飛ばすと、俺はゆっくりと歩き始める。よく分からない像の前に立ち、ゆっくりと後ろに回り込む。


 人一人が隠れるには十分なスペースがある。女性なら尚の事、詰まりはーー。


()()()()()()()()()()()?」


 そこにはアースラが座り込むように隠れていた。その話に対し、アースラは納得がいかない様子。


「おいおい、私は王様だよ? 流石に無礼では無いかね?」


 こちらに挑発的な態度で、話を返す。アースラの話は至極当然なのだが、ソレに伴った行動を取って欲しい。どこの世界にコソコソ隠れて盗み聞きする王様が居ると言うのか?


「すみません……しかし、紋章学者と言うのは嘘だったのですか?」


 無礼ではあるので俺は謝罪をし、少し引っかかっていた事を口にする。あの岩壁の事もそうだ……何やら違和感を感じずにはいられない。


「私は嘘を付かない……全て真実だよ」


 ーーアースラの返答は予想とは異なるものだった。瞳は揺らぐ事なく、声も透き通っている。本当に知識があってそう答えていたのか?


「まあ君が疑うのも分かるよ?だからさ……少し付き合ってもらおう」


 そう言うと、俺の理解の追いつかないまま、アースラは瞳を閉じる。そしてかけていた眼鏡を別のものに交換すると静かに瞳を開く。次の瞬間俺は戦慄を覚えることになる。


 ーーそこには赤く鈍い光を放つ瞳があった。


「……は?」

 

 俺は間抜けな声を上げる。思考が完全に追いついていない。


 ーーーその()()月夜を背にし不気味に、暗がりを鈍く光り輝く。理解に時間など必要ない……その色は魔族そのものを意味する。だがなぜ?


「ーー領域展開」


 アースラの一言で辺りは光に包まれ、岩の大地へと変貌していく。地形が変化した? 理解はさらに追いつかず、疑問ばかりが積み重なる。


「呆けている場合かね?」


 そしてアースラはどこからか本を取り出す。そして開きーー。


「ーーアースクエイク」


 アースラの一声で俺の足元がひび割れ、陥没していく。俺は我に返ると、背後に飛び込み亀裂の外に脱出する。そして超烈な音と共に、それは砕け散った。


 ソレを見下ろすと、地面が深々と続いている。詰まり領域とは、異空間か何かなのか?


「ーー我こそは英地(えいち)の魔王アースラ」


 アースラは魔王を名乗った。確かにそうなのかもしれない。少なくとも、その目から放たれる眼光に、背筋が冷たくなる。このプレッシャーは本物だ。そして俺の感が正しいなら……。


「少なくとも君の戦ったアレよりは強い。全力でかかってきたまえ」


 ー一俺は瞬だけ戸惑う。出かかった言葉が喉の奥に押し込められた。




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