国王の思惑
俺はルナに視線を送る。特に動揺したような様子はなく、黙って次の言動を待っている? 少なくとも、アースラの話を俺とは違う形で解釈したらしい。
「ーーユウセイ、どこを見ているんだ? 君は王が質問しているのに、仲間とお喋りでもするつもりなのかな? それは私を不快にし、評価を地に落とすと自覚したまえ」
俺は当たり前の叱責に我に帰る。なるほど……自分で考えろって訳か。眉を吊り上げ、口角を下げ、不快感をあらわにする。まずどうすべきか。
「王よ失礼いたしました。此度の非礼……お詫び申し上げます。そして、差し出がましいお願いですが、思慮の時間をいただきたく存じ上げます」
ーーコレでアースラの出方を伺う。悪くはないはずだ。俺との大きな認識の違いがなければの話だが、その顔を見る……アースラの眉は下がり、口角は上に上がることで、正解を引いた……と見ていい。反応は良好。
少なくともさっきより表情は柔らかく、重苦しい空気は消えた。
「その謝罪と申し出を受け入れよう。時間は30秒与える。分からずとも、それなりの答えを用意せよ」
「ありがたき幸せ」
俺はアースラの配慮に一礼をし、すぐさま思考に取り掛かる。戦争は避けると言った。それは間違いないことが前提とする。なら発表することで好転するのは何だ?
カグラの死。俺が神託を得た。俺は勇者に。プルート襲来。プルート撃破。ーーまさか?バラバラなピースを組み上げた時、一つの答えが脳裏を過ぎる。
「……時間だ。答えを問うぞ? 貴殿は私の期待に応えられるのか?」
アースラは待ちくたびれたと言わんばかりに、催促をする。その瞳は俺の動き一つ一つを見逃すまいと鈍い光を放つ。
「お答えします……新たな勇者を発表する布石と考えます」
アースラは目の色を変える。そこにあるいつもと違う反応。突破口の糸口。
「ふむ……理由も説明出来るか?」
アースラはその先の説明を要求する。掴みは上々だが……まっていたと言わんばかりにわざとらしく、過剰なまでに反応した。体を前屈みにし、王座から飛び上がる程に顔を突き出す。
「最強の勇者を討ち取った魔王……それを討ち取った勇者が現れたとなれば、今カグラの死を公表し、その話題性に乗せることで大きな反響をもたらすことでしょう」
さて、ここまでは来ることができた。俺は一息入れ、アースラをの反応を伺う。反応は変わらない……。まだ足りない? いや、コレはもっと別のーー。
「コレで最後にしよう。もしそれが失敗するとしたら……何だと思う?」
アースラの問いは至ってシンプル。なら答えは一つしかない。失敗があるとすればそれは……敵国が一早くカグラの殺害を発表すること。
「敵国がカグラの殺害を発表した途端、それは信憑性を失うでしょう。後手に回ればそれは、この国の終焉を意味します」
考えられないことではない。避けるべき未来。最悪への片道切符。アースラは納得したのか、口元を緩ませ、静かに口を開いた。
「そうだ。この国が生き残るには選択は一つだけだ!」
アースラは王座から立ち上がり、歩き出す。最中騎士の腰から剣を奪う。俺を一直線に目指す。
「しかしハッタリは何時迄も続かない。戦いを見せてもらったが、君はまだまだ勇者として未熟だ」
俺を見下ろす形でアースラは立ち止まる。そして次の瞬間……剣を俺の肩目掛け振り下ろす。剣は静止し、刀身に鈍く俺の顔が映り込む。俺は尚も視線をアースラとぶつけ合う。
「ーーならばこそ、強くなれ。ハッタリがまだこの国を守っている内に、カグラを超えよ」
何かが湧き上がってくる。胸の奥が熱くなるのを感じる……俺はこの先の言葉を待ち焦がれている。次なる言葉がアースラから放たれる。
「どうせなら大きく出ろ。すべての嘘が剥がれ落ちた時、そこにいるのは誰だ?」
アースラは剣を90°回転させ、頭身の腹を俺の肩に乗せる。
「ーー答えてみよユウセイ」
意図は無い、そうあるべきだと思った。だからこそ答えは一つしかない。
「ーー双星の勇者ユウセイ」
場が凍りつく……誰もが動こうとしない。まるで時間が止まったかのように、全てが静止した。許せないものもいるかも知れない。未熟な勇者が神話の英雄を名乗るのだ。ルナでさえも大きく目を見開く。
「貴殿は……あの神話をなぞろうと言うのか?」
アースライが動揺しながらも何とか言葉を絞り出し、俺に問いかける。
「元よりそのつもりです。口外するか、しないかです」
俺の覚悟が伝わったのか、アースラの目から迷いが消える。息を吸い込み、タメをつくる。
「我ことアースラ・セイン・ガイアはこの者を勇者と認め、カグラの後継者とする。全世界に発信せよーー双星の勇者ユウセイその誕生を宣言する」
コレが今俺が出来る最大限のハッタリだ。正しいかどうかは後で判断すればいい。
「双星よ、今君は5000年間回ることのなかった歯車を無理やりに動かそうとしている。その行き着く先が何であれ、しかと見届けさせてもらうぞ?」
剣を下げ、アースラは呆れたような、満足したような顔で王座へと戻っていった。一方ルナを見ると、若干の引き気味に視線を向けていた。
「はあ……勇気の神託とは言え、そこまでしろと言うわけではないのですが?」
ルナが小声で嫌味を呟く。その様子に、何故か笑みが溢れてしまう。
「な、何を笑っているのですか? 私は心配をしているのですよ?」
まだ面と向かって言う事はできない。だから顔を逸らして、宣言する。
「俺……強くなるよ」
それ以上は語らない。呆れたルナも視線逸らし、それ以降俺の方を向く事はなかった。
「期待していますよ……導きの双星」
ルナのセリフを聞き終わった時、アースラの突き刺さるような視線に気づく、青筋? を顔に浮かべ、少々お怒りのご様子。
「コソコソお喋りとは、二つ名をもらった途端偉くなったものだな?導きの双星?」
この後すぐに謁見は終了するも俺たち二人は、国王のありがた〜〜いお言葉を聞かされ続けることになった。




