表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
21/325

決着……そして再開

  薄刃陽炎(うすばかげろう)の斬撃がプルートを飲み込む。極薄の見えざる刃に飲まれ消え失せ、そこに確かな手応えを感じる。


「ひはははーー! ひゃははは!!」


 斬撃の音をかき消すほどの奇声、鼓膜を突き破らんばかり叫び、背筋を撫でるような気味の悪い絶叫があたり一体に響き渡る。


「……やったのか?」


 そこでプルートは燃え尽きたように倒れ込み、顔はひび割れ、乾燥した大地のように正気がない。首筋を刃物で撫でるような不気味で異様な空気が流れる。


 揺り籠(クレイドル)の存在がないからか、魂が出てくることも無い。そこには動くことのない(しかばね)が横たわる。


 俺は手に持った刀をゆっくりとそれ向け突き立てる。考えすぎと言う言葉が脳裏を過ぎる。


「いや、死者に対する冒涜(ぼうとく)などすべきではない……終わったんだ」


 俺は視界を閉じる。考えを改めて、突き立てた刀を下ろす……『ガリッ』鈍い摩擦音と共に刀は宙で静止する。俺は反射的に見開き、その原因に視線を合わせる。

 

あるはずのない感覚。それでも俺の耳が、手の感覚が、視覚が全てを真実だと告げている。


「終わり? イケマセンネ。逸楽(いつらく)はもっとコレからデスヨ!」


 俺は迷わずに全体重を乗せ、切っ先を心臓に向け突き立てる。『ガリガリ』と刀は滑り、20センチ、10センチと次第に心臓へと近づいていく。


「ヒハハハハッハ! ああ……なんて眼をするんですか!? 私を殺したいですか!? スバラシイ……モットモットその眼で私を見つめてください!」


 これ以上異常者に付き合うつもりはない。渾身の力を込め、最後の一押しで切っ先は胸の奥深くへと突き刺さった。『パキッ』と高い音を立て何かが砕ける。


「ヒハハ……なんて運命は残酷なのか……愛おしく焦がれるその眼……モットモット……近く、で……」


 まばらなセリフは、まるで壊れたオルゴールのようだ。不規則に金切り声を発して、不快な音を奏でる。ここに来てあることに気づく……。


「血が……流れない? そんなバカな!?」


『カチッ』っと音がなり、プルートの顔のヒビが全身に広がっていく……嫌な予感がした俺は瓦礫を目指し、全力で足を踏み出す。


「みんな伏せろおおおおおおおーー!」


 俺が大きな叫び声を上げると同時に、強烈な破裂音が全てを飲み込んでいく。判断が遅れ、爆風と砂埃に飲み込まれ、俺は致命傷を負うはずだった。鼓膜が破れたのか、はたまた爆発が治ったのかは分からない。

 

 それでも痛みや強い衝撃は感じられない。不思議に思いゆっくりと視界を開く。


「なんだコレは……壁?」


 そこには突起した岩の壁……魔法で出現したと思われる。いやそんな呑気に分析してる場合じゃない!


 辺りを見渡し、そこにあったガラスの破片を拾う。俺は壁の後ろからゆっくりとガラスの破片をちらつかせ、反射した光景を頼りに向こう側を観察する。不可解な点はいくつかあったが、死体? は見当たらない。流石に爆発により、粉々になったようだ。


「今度こそ……終わりか……ふうー……」


 一息吐き、思考がフリーになったところで、一つ考える。この岩の壁だが、当然俺は何もしていない。


 ルナを方を見ようと視線をずらそうとした時、ふとガラスに自分の顔が映る。酷い顔だと、自虐(じぎゃく)気味に口元を吊り上げるも……映った自分自身と眼が合う。


「ーーは?」


 その左眼を見た時、内臓を紐で縛り上げるような、おぞましい何かが俺の腹をのたうちまわる。首を冷たい水滴が伝っていく。蛇がゆっくりと背中を伝い、そして……。


「ユウセイ! 大丈夫ですか!?」


 今のは一体……俺は再びカラスを覗き込むも、そこには何も変わらないいつもの瞳が写っていた。気のせい?いや、見間違いのはずは……。

 

「聞いて、いるのですかーー!」


 耳元で大きく叫ばれ、高周波のような音が耳鳴りとなって響く。


「き、聞こえいる……」


「なら返事をしなさい。あなたは勝利したのです……勝鬨(かちどき)を上げ、みなに示しなさい」


 ルナに言われ、周りを見渡す。辺り一帯は落ち着きがなく、ソワソワとこの後に出る言葉を待っているようだ。少しむず痒い気持ちもあるが、刀を高く掲げる。


「プルートは、魔王は討ち取った! 俺たちの勝利だ!」


「うおーー!!」


「ヤローども、今晩は宴だ! 酒場貸し切るぞ!」


「勝った、勝ったぞ!」


「俺たちは生き残ったんだ!」


 勝利の雄叫びを上げ、高く天を仰ぐ。皆みなはお互いを称賛し合い、腕を組み、笑い合う。今この状況で思ったことを口にしても、好ましい結果にはなり得ない。それでもこの場の空気だけは、なんとか取り持とう。

 

 しかし、左眼の件を思い出す。聞いたところでと、言う感情は押し殺した。ルナは近くにいる……俺は多少の覚悟をし、問いかける。

 

「なあルナ、俺の左眼……何色に見える?」


「なんですか急に、今は遊んでいる場合ではないですよ?」  


 ごく普通の返答をされる。俺を見ていないわけではなく、しっかりとこちらを見つめた上の答えに正直戸惑う。気付いてない?本当に俺の気のせいなのか?

 

 いや、今は余計なことで茶を濁すこともないか……今はコレでいい。


「ありがとな」


 バレないように、(ささや)くように、俺はただ素直に感謝の言葉を呟く。それでもルナに多少聞こえたのか、不可思議な反応をする。 


「何か言いました?」


 こちらを伺うように首を傾け、自然と口元が緩む。いつも俺の心を見透かしたような言動で、俺を導いてくれる。今回も俺が無茶するのを分かっていたようだった。


「いや、何も言ってない」


 そう思うと少しだけ恥ずかしくも思うも、言い知れぬ感情が俺の心を揺らし始めている。


「あなたは良くやりましたよ……だから、少しは誇りなさい。のぼせ上がるのは論外ですがね」


「中々手厳しい……まあ、甘やかされるよりは何倍も良い」


 ささやかなやりとりを繰り返していると、周りがざわつきを始める。みながこちらに来ようとしたタイミングで静止され、みなが道を開けその中心を誰かがこちらに向かい歩みを進める。


「このような場所にお越しいただき、ありがとうございます! 陛下!」


 騎士団長及び騎士団が、道の周りを囲み(ひざまず)く。それを聞くや否や、周りの冒険者や、魔法師団が次々と膝を折り、立ち上がっているのは俺とカグヤ、王のみとなった。


「ユーセー! ちょっと良いかな! カグラとさ……」


 カグヤが何を血迷ったのか、こちらに向かい走り出す。カムイは顔が青ざめ、カンナは目を逸らし始める。しかしカグヤがこちらにたどり着く事はなかった。


「イッターイ! なんでこんな物が出てくるのよー……壁?」


 地面から隆起(りゅうき)した壁に阻まれ、後ろに倒れ込む。そしてあることに気付く。俺はこの壁に見覚えがある。何より、その王の顔に見覚えがある。


 長考している内に俺は今自分が立ち尽くしていることに気づき、静かに膝を折る。


「君……下がりたまえ、私はこの者と大事な話があるのだよ」


 その場の空気が凍りつく。それは肉食獣に睨まれた獲物、脱兎の如く逃げ出した。


「ひっ! ご、ご迷惑おかけしましたー」


 そして再び俺たちの前にたどり着き、正面に立つ。全く……随分としてくれた。思えばあの時気づくべきだった。顔を知らないとはいえ、ヒントはあった。


()()()()()()()()()()()私はルナ、こちらはユウセイと申します」


 ルナはあえて初めましてと言う。アレはは内密にってことか? どちらにせよ、顔を伺うも表情からは何も読ませてもらえない。


「ユウセイ……無礼ですよ」


 顔を上げていると、ルナから指摘が入り、俺は即座に頭を下げた。女神と言っても事を荒立てぬ為なら頭を下げるか……俺の中でルナの評価が少し上がった。


「改めまして……このような場所まで御身にご足労いただき、感謝の極みにございます」


 無難の会話の入りに少し感心するも、相手型の意図が見えない以上……やれる事は少ない。


「二人とも顔を上げたまえ、貴殿らは貴族にあらず。そこまでかしこまる必要もない」


 顔を上げると先ほどとは打って変わり、砕けた表情をする様になる。一つの山は越えたと言うことになるか?先が険しいのは変わりないが……。


「はっ……感謝の極みにございます」


 よくよく考えると、元々が少し堅い喋り方のせいで、元々そんな性格とも思わなくもない。


「まあいいか……先刻の魔王討伐見事であった。よって……貴殿らを我が居城に招待する」


 断ることもできる……しかしその選択肢は無いに等しい。このような場所に国王自らが出向いての招待。今回の功績による恩賞。何よりあの岩壁の主がこの国王である事実。


 俺たちは見定める必要がある。国王……アースラ・セイン・ガイアの本当の目的を。


 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] ほんとにこんなにあっさり仇が死んだのかという不安はありながらも、なんとか一息ですね! ルナとユウセイの掛け合いが好きです!更新楽しみにしてます [気になる点] 戦闘描写が分かりにくいところ…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ