並び立つ星々
「クロユリ辞めて!」
ツバキが手を伸ばすもそれが届く事はない。トリガーは引かれ矢が全て打ち出された。
「戦星術射 ──命の終わりは美しく、散って彩れ死化粧の花弁……夜桜ノ死愛」
至近距離で放たれた矢は爆散し無数の花弁が青い炎の中で入り混じる。真っ赤な花弁と蒼い炎が織りなす光景を楽しむ余裕などなく俺は全力で闘気を練り上げた。
「アハ☆ははは……蒼い炎に煽られて真っ赤な花弁が宙を舞ってるよ綺麗だねぇ、コレが美しいって言うんだよ。散る瞬間こそ最高の美だよね」
「……何やってるのよ。こんなところで終わるなんて許さないわよ」
好き放題言っている二人の声が聞こえた。何となく分かっていたが、こうなると分かって俺は飛び込んだ。
馬鹿な事……? 違う、知っていたんだ。俺がアイツら以上の化け物だという事を……。
揺られる炎の中俺は何事も無かったかのように歩き出す。闘気を燃やした炎はいつの間にか俺の体に定着していた。メラメラと俺を包むように蒼が付き従う。
振り返らずともツバキの心配する視線が突き刺さる。それでも俺は振り返らない。真っ直ぐに前を向いたまま進んで行く。
「そこで見ていてくれ俺の戦いを、宇宙の果てまで届くように、どこにいても俺の光が見えるように、俺はここに居るって……強く誇り高く輝くから────!!」
「────────っ……!? わ……かった……?」
解放された闘気は周囲の桜吹雪を弾き飛ばし、流れが円からサジタリウスに向かい一直線へと並び立つ。
「循環していた高濃度のエネルギーが敵意を持ったらどうなると思う? 想像してみろ……星が内包する力がお前に向かう瞬間を」
「何を今更……私たちの源が何か知らない訳じゃ無いでしょう?」
拍子抜けと言った顔で俺の構えに対して闘気を練り上げた。勝気な顔で俺を挑発し、強力な戦星術へと繋いだ。
「四連星…… 戦星術射 ──鬱金高ノ悲愛、戦星術射 ──蘇芳ノ裏愛、戦星術射 ──鳥兜ノ讐愛、戦星術射 ──赤桑ノ心愛」
左腕の神託に宿ったカケラが円を描きながら飛び出して行く。星は一直線に並び立つと一筋の光指す道となる。
「演舞星ノ神楽──凶行忌日、繋いだ絆が力となり、止まった刻が動き出す。天地開闢終わりが始まり、最果て届ける願い星、惑星ノ直列」
蒼い炎が大気を染め上げ白銀の光が天高く伸びて行く。俺は強く大地を蹴り上げてサジタリウスへ詰め寄る。
「もういい加減本当に鬱陶しい……弾丸装填!」
宙に無数の矢が出現すると凄まじい勢いでセットしながら鈍器のように振り払い、俺は横に飛翔し紙一重で攻撃を躱す。その隙にサジタリウスは俺に向かい矢尻を向けると宙を舞った。
「擬きが飛べたのには驚きだけど、私だって簡単に飛べるんだよ」
矢が花開くと凶暴な牙を生やす花が口を開く。俺を食いちぎろうと顔を覗かせた。
「演舞星ノ神楽──水星ノ水豹」
音も無く宙を駆け、刹那の一閃で闘気が乱れ花は砕け散る。流れに身を任せ俺は飛んでくる矢に真っ向からぶつかり合う。
矢から現れ出でた複数の赤紫の花は|蕾むと同時に種をマシンガンのように打ち出す。みしりといくつか体にめり込みも、弾き返し撃ち落とした。
「演舞星ノ神楽──金星ノ黄金」
二振りの剣を弾き合わせた音が、びくりと花の動きを鈍らせた。輝きの一閃により斬り落とす。その花を踏み台の跳び上がりサジタリウスに追従する。
「コレは偶然じゃ無いよね? だとすれば、わたしが思っているよりも……」
サジタリウスの表情が僅かに歪んだ。しかし隙ができたと言えるほどで無く、固いクロスボウが俺の頭に直撃する。
瞬時に鍔迫り合いに移行して、間も無く足が俺の下からかち上げられ、難無く避けると一回転したサジタリウスから鋭い一閃が放たれた。紫色の花をぶら下げズルリと迫り来る。
「演舞星ノ神楽──智星ノ英地」
振りかざすと同時に突き上げた岩で押し潰し、根元を引き裂く。溜まった瘴気は内部で暴発し自身を枯らした。
最後の矢が放たれると赤い果実が破裂と同時に俺の体に降り掛かる。肉体から闘気が抜けて行き僅かに力が緩んだ。それ以上に闘気を燃やして勢いを増す。
「演舞星ノ神楽──火星ノ炎鷹」
構えた切っ先から蒼い炎の猛禽が羽ばたく。力強く舞い上がり飛び散る果実を残らず焼き尽くし、飛び散った果汁を蒸発させた。
カチカチと音だけが虚しく響き渡る。矢の無くなったクロスボウを盾に最後までサジタリウスは抵抗を続けた。
「演舞星ノ神楽──木星ノ聖樹」
炎の推進力と同時に巻き起こる神風を追風に変幻自在に攻撃を交わす。一陣の風が突き抜けサジタリウスが宙を舞った。必死に体制を立て直そうとするが、全く動く気配は無い。
「しくじった……しくじったしくじったしくじった! こんなところで終われないのに……ツバキ様は私が守るんだ!!」
俺は最後の力を込めて天高く飛び上がる。落ちてくる奴を叩き落とすため拳を握り締めた。
「演舞星ノ神楽──土星の……ッ!?」
闘気は通常の廻りに戻り、次の演舞が放たれる事はなかった。一瞬の戸惑いから無様にもサジタリウスを見送ってしまう。俺が振り返ると素手で乱暴に殴り飛ばされる。
「なぜ演舞が成功しない? まさか……!?」
「ちょっと、あんたどうしたの?」
「ア……アハハハハハハハハハ! 明けの明星は私に輝くってね!」
好機と言わんばかりにサジタリウスは一目散に逃げ出す。
全力で逃げ一手を取られては、今の俺ではどうすることも出来ない。急いで体勢立て直し、空高く飛び上がった。
「しつこいっての……でももう終わりよ。ライブラに全て報告すれば、今度こそお前はお仕舞いだ!」
「クロユリ────!」
飛び去ろうとするサジタリウスは足を縫い付けられたようにその場に留まった。
「ごめんねクロユリ……あたし、気づいてあげられなかった。あたしが辛い時にはいつも励ましてくれたよね? あんたの気持ちも何もかも知らなかった……親友なのに」
ツバキの言葉に俺の動きは止まっていた。静かに息を吐くと無言で剣を納める。サジタリウスを見ると視線を逸らしたまま唇を噛み締めた。
「違うよツバキ様……暗い暗い森の中、あなたが手を引いてわたしを連れ出したの……覚えて無いですよね。コレは一方的な片想いですから────」
諦めたように笑うサジタリウス……クロユリにツバキは一歩を迫り来る。強い決意を瞳に宿し、裏表のない気持ちをぶつけて行く。
「道はどこかで違えたとしても先で繋がるの、やり直そうなんて無茶は言わない。あたしはその先で待ってる……星はそのための道標よ」
ツバキの真っ直ぐな瞳と言葉に大きく空を仰ぐとクロユリは振り返る。
「導きの双星……ツバキ様を助けてくれた事には礼を言う。だけど悲しませたら許さないから…………それだけ」
作られた光の扉を潜っていき、やがて跡形も無くこの場から立ち去る。




