神を穿つ者
提灯を破壊した俺はひたすらに加速していく。サジタリウスが最大限に警戒をし、身構えると瞬きに満たない時間で残った四つを全て消しとばしサジタリウスに斬りかかった。
「ここまでくると本当に笑っちゃうね。それでタウラスも殺したの?」
サジタリウスはそう言うと後方へと素早く方向転換する。蒼い炎を焦がしながら俺は迫り、刃の無い刀身で斬りかかるとクロスボウを盾に一撃は止められる。
「戦星術射 ──黒百合ノ呪愛」
いつ間にか込められていた矢が眼と鼻の先で放たれる。瞬時に後方に三歩下がり、深く剣を構えた。
「演舞星ノ神楽──矮星ノ残華!」
斬り払うと同時に矢入と刀身でが触れ合い、空高くに打ち上げる。内部に蒼い炎が満たされた矢は青い火花と共に砕け散った。それを見上げたサジタリウスの一瞬の隙を突き、刹那の突撃をお見舞いする。
「多重星壁────────っ!!?」
周囲に破片が飛び散り、突き飛ばされたサジタリウスに遅れて赤い血が飛散する。素早く着地すると苦悶の表情を浮かべ、口から溢れる血を拭った。
俺たちは睨み合い次の衝突に備える。その様子に眼がついていかず、ツバキは少し酔ったように頭を抱えた。
「な、なんなのこの戦いは、でもこれってやっぱり……」
確信掴んだ表情で俺に視線が注がれる。その視線はサジタリウスからも流れていて、腹の傷が塞がると同時にゆっくりと口を開いた。
「いってて……砥いで無い剣でも力を込めて突き出せばそれなりに刺さるか」
「二人とも動きが人じゃ無いってば……」
俺の行動にサジタリウスは口元を緩ませる。ニヤついた顔で蔑む視線を俺に向けた。
「どうしたの……ツバキ様の親友を無惨になぶり殺してごらんよ? どっちにしたって私は死ねない。ツバキ様を守る役目があるからね」
自信に満ちた表情からは何があるのかまでは推測出来ない。異常者の戯言と切り捨てられるほど、安い相手でも無いか……。
何よりツバキがその言葉に一瞬の動揺を見せた。自身の死という状況から帰って来たばかりで、それが身近にあったとあれば動揺も頷ける。
「お願いクロユリ、もうこんなことはやめて欲しいの……あたしはこんなことして欲しくない!」
ツバキの言葉に今まで見せたことが無いような満面の笑顔を向ける。それにツバキは安堵し表情を緩ませた時だった。
「ツバキ様はやっぱり優しいね……でもそれってわたしにだけ向けられてる感情じゃ無いんだよ? それって凄く我慢がならない事なの────分かっていてもね」
最後に『ごめんね』と一言呟くと手に闘気を集め矢を生成していく。ツバキは必死に言葉を繋げようとするも、足元に矢を放ちその言葉が出ることはなかった。
「そんな訳だから器擬きに成った君には消えてもらわなきゃね……残念だけど器はもう一度作り直す」
違う色の矢を宙に生成して素早く受け取り装填する。想定でしか無いもののタウラスの事を考えればその正体は分かった。
奴がどんな手でこようと俺は俺のやるべき事をやるだけ……そして勝つだけだ!
炎の推進力を利用して俺は空高く飛び上がる。纏わり付く空気をも焼き尽くし回転しながら落下する事で宙より飛来する摩擦が生んだ発火熱を前面に押し出す。
「演舞星ノ神楽──恒星ノ来火」
極めて落ち着いた様子でサジタリウスは俺を見上げる。
「戦星術射 ──朝顔ノ求愛 、戦星術射 ──黒百合ノ呪愛」
俺が一つ目の矢を交わした時、真横に差し掛かったタイミングでツルが溢れ出しまとわりついて来た。そのまま二本の剣を振り回しツルを焼き斬っていく。しかし────新たなツルが再び増殖し俺の動きを妨害する。
二本目の矢は俺の隙を突き、左手に突き刺さる。血管内を走り回るように根を伸ばし、俺は闘気を練り上げ焼き尽くした。
「アハ☆ 本当に気に入らないよね。尽く潰してくるから少しは変わったこともしようか……?」
右手を地面についたかと思うと魔力の流れが一気の地中に集中する。
「知らしめよ──テクノクローバー」
地面から葉を回転させ巨大なクローバーが出現する。大地を引き次に俺を細切れにしようと次々の詰め寄った。
右左下上左後前……そのまま一気に最大の突撃を喰らわす。
「演舞星ノ神楽──矮星ノ残華!」
今度はサジタリウス自身が空に打ち上げられ空中で弾け飛ぶ。着地した時に左腕を押さえるも、その表情には余裕が見える。
「言ったよ……愛がある限り、この程度の痛みは意味をなさない。愛の力ってのは無限なの」
ボキボキと鈍い音が鳴り響き、何事も無かったかのように傷は癒えている。
このままではきりがない……致命傷を与えたとしても即座に回復され、いかに強力な攻撃だろうと決定打に成り得ない。これは想像以上に厄介だ。
「何度も聞いた……詰まりは絆だろ? だったら同じだ。奇抜な事を言ってはいるが、繋がりを大切にして想いを力に変えている」
「私を理解しようとしても無駄だよ。私は懐柔されるつもりなんて無いから……三連星」
次々に生成される矢が増えていく。手数を増やし隙を減らす事で俺への対抗策としてきた。
「戦星術射 ──鬱金高ノ悲愛、戦星術射 ──蘇芳ノ裏愛、戦星術射 ──黒薔薇ノ永愛」
時間差で放たれた矢に俺は加速しながら突っ込んで行く。闘気を一気に放出し、発動するよりも速く斬り伏せる。
「演舞星ノ神楽──流星ノ乱舞!」
放たれた矢は両断し、完全に無力化する。俺は追撃のために真っ直ぐに突っ込むとサジタリウスは上に飛び上がった。
「流石に何度も何度も似た手をくらう訳にはいかないでしょ……ねえ?」
俺の頭蓋は鈍い音を立てて地面にめり込む。サジタリウスを見上げると顔を顰められ、顔面を蹴り飛ばされた。地味に痛いところを狙っている。
「言ったはず……わたしのパンツは高いよ? まあ擬きは興味も無いだろうけどね」
追撃の矢が俺に放たれるも、俺は全力で後退する。その様子にサジタリウスは眼を丸くした。
「さっきから妙……少しずつ速くなってきている? さて、どうしてかな?」
白い矢を複数装填し、打ち出すと同時に俺は左回りにサジタリウスへ接近して行く。蒼い炎が勢いを増し、少しずつ奴の反応速度を超えて来た。それを見て僅かに口元を緩ませる。
「演舞星ノ神楽──彗星ノ赫輝────」
ゆるい曲線を描きながら闘気を燃やし続ける。蒼い残滓を残しながらその速度は音を超えた。円を描きサジタリウスの周り百は回った頃、一直線にその力の塊ごと突撃する。
蒼い炎が周囲に拡散すると同時にサジタリウスの腹を貫いた。
「中々綺麗な技だよね。戦いじゃなければツバキ様と一緒に観ていたい……」
俺が剣を抜こうとした瞬間とんでもない力で腕を掴まれる。清々しい顔で口から血を流し、俺の顔に吐きつけた。
「眼が────っ!?」
血が眼に入り俺はバランスを崩す。視界は遮られ俺が怯んだと同時に重心が後ろに傾いた。
「ゲームオーバーだよ。救世主に成れなかった者」




