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異常震撼

 表情を曇らせるロッカへと手を伸ばした時、チリつく肌に俺は振り向く。そこに立つジェミニの手が骨が軋む音と共に形を戻し、何事も無かったかのように元に戻る。


「おかしいと思ったんだ……お前はどれだけの年月を生きている!」


 ウラノスの記憶で姿を見せた星者は死んでいなかった。詰まりは同一人物と見ていい。異様な再生能力と不老は、どれだけ人外の存在かを証明しているようだ。


「うるさい!! もうゼッタイに許さないぞ……治るって言っても、凄く痛いんだからな!!」


 フードの下からでも分かる敵意が俺に対して向けられる。さっきまでとは違う本気の敵意だ。


 くそ、あいつ何が『出血大サービス』だ……これでは状況が悪くなったようにしか思えない。


「ちょっと待てよ……回復魔法なんて使ったか? そもそも回復魔法でどうにか出来んのかよ!?」


「何なのよアイツは、あれで人族なの!?」


「星者って『そういう』生き物なのよ……化け物とか人外の存在なの。だから今は敵に回す事はしたくなかったのに」


「そもそもロッカが連れてきたのが原因でしょ、何とかしてよ!」


「分かってるわよ。裏切り者は少し黙ってて……!」


「みなさん色々思うところはあるのでしょうが話は後です。あの二人を何とかしなければ、私たちは殺されますよ」


 慌てふためくみなに対し、ルナは落ち着くように促す。幾分か落ち着いた俺は、深く息を吸い込み一切の雑念を捨て去った。


「みんな、言いたい事は多々あると思う。でも今は離れてくれ……こいつは他の誰にも手に負えない。俺が倒さなければいけない相手だ」


「ごちゃごちゃうるさいよ。その三人以外は要らない────────全部消えちゃえ」


 俺の話を叩き斬るように、冷たい声がもう一人のジェミニから放たれる。周囲の木々が騒つくほどの闘気が溢れ出し、大気が悲鳴を上げているようだった。


「近づけない……こいつはタウラスすら超えるのか」


 噴き出す闘気が風の流れを生み、みなが堪えるので精一杯の力が押し寄せる。


「みなさん私の防壁の中に……とてつもない攻撃がきます! 聖なる守護の光、守り、導き、不変となれ、輝け──ライトプロテクト!!」


 みながルナの元に集まり、俺もルナへと駆け寄る。


「ユウセイ早く……いくらあなたでもあの攻撃は耐えられません」


 必死に手を伸ばすルナに俺は死ぬ気で手を伸ばしていく。その間にも力は膨れ上がっていた。


「行くよぼくのジェミニ……どうせこれくらいじゃ死にはしないんだ。わたしたちジェミニの痛みを教えてやろう?」


「うんそうだねわたしのジェミニ。力加減はそうだね……勇者で半殺しにしとこうか……?」


 腕を抑えていたもう一人のジェミニがむくりと立ち上がる。動きがもう一人のジェミニと共鳴し獰猛な魔力が繋ぎ合わされた。


「世界の果て終わりの果て、眺めて踊りて導いて────クロスカタストロフィ!」


 発現した力は二人を中心として全てを光に飲み込んでいく。その先には魔力が濃過ぎて何も感知できない空間が広がる。逃げ切ることのできない速度で次々と迫り来た。一歩一歩と距離が縮まっていく。


 ルナまで後数歩のところで、光が俺の裾に触れる。


「こんなところで……消えてたまるか!!」


 俺は必死に伸ばした手に飛びついた。ギリもギリギリ、後数センチのところで俺とルナの手でが触れ合う。


「痛……っ!?」


 ルナの顔が苦悶に染まる。俺の手に纏わり付く魔力がルナの手を傷つけていく。


「ダメだよ……双星は正当なダメージを受けなきゃ、ぼくのジェミニが浮かばれない」


 あの二人が何かをした? いや、今はそれよりも────。


「ルナ……ごめんな」


「ユウセイ……!? 一体何を言ってるんですか!? 早く手を伸ばしなさい!!」


 ルナの顔色が一気に青ざめていく。俺は目の前で揺れる瞳に申し訳なさを思い、繋ごうとした手を遠ざけ、出来るだけ笑顔に努めて光の中に呑み込まれる。


 一瞬の痛みの後、俺の意識は遠のきそうになる。闘気を身に纏い、失っていく感覚に必死に耐えた。


 いつも心配をかけてごめんな……俺は生き残るから、何とか上手く耐えて欲しい。


 全力を出し切り、使うまいと温存していた神の力を解放する。少しでもルナたちに攻撃が向かわないように力の限り最後の一滴すら注ぎ込む。


「待ってろ……俺が何とかする。俺がお前たちを守り、あいつを必ず倒す!!」


 二振りの剣を取り出し、力の限り闘気を込めた。


「演舞星ノ神楽(ほしのかぐら)────流星乱舞(りゅうせいらんぶ)!」


 魔力と闘気、相反する力がぶつかり合い、反発の力が生まれ始めた。俺は気にせず全力で引き裂き、僅か数秒に間に永遠とも取れる時間を過ごす。


「────────────!!」

 

 声にならない叫びを上げ、俺の意識は光の中に消えていく。ぶつかり合う力を見届ける前に、ゆっくりと瞳を閉じた。


 ────────次に意識を取り戻したのは暖かい温もりの中だった。俺の意識は微睡(まどろ)み、薄ぼんやり浮かぶ人影が視界に映る。


「…………ルナ?」


 俺がそう言うと人影が近づいてきた。俺は安心してゆっくりと抱き寄せる。そうすると小刻みに震え出し、次の瞬間……叩きつける痛みが頭蓋に響き渡った。


「イ────────ッテエ!?」


 あまりの痛みに俺の意識は覚醒する。訳も分からぬうちに引き剥がされ、乱暴に床に叩きつけられた。


「ちょっと何考えてんの!? はあ……これだから神人なんて助けるべきじゃ無かったのよ!!」


 乱暴な物言いに、違和感を感じながら俺は頭を摩る。見慣れない空間と木造建築の建物に大きな違和感を覚えると、そこには緑色の髪をポニーテイルに束ねた少女、ツバキが立っていた。


 どう言う事だ……? ここは火焔帝国ではないのか? そう考えると、さっきまでの暑さが嘘のように消えている。寧ろ涼しいくらいだ。だがなぜ────?


 飲み込めない状況に俺は頭を抱え、ツバキは更に顔を引き攣らせる。


「ちょっとさあ、先に謝るのが普通じゃないの!? あんた転生前だったら速攻警察よ警察!!」


「ルナはどこに居る……他の仲間はどうした!!」


「ったく何なのよ! あたしの話全然聞いて無いじゃない!」


「頼む教えてくれ、他のみんなは居なかったのか!!」


「知らないわよ! あんたが一人で神聖樹の森に倒れているのをあたしが見つけて連れて来たの!! 他なんて誰も居なかったわよ!!!」


 ツバキの一言で俺は家の外に飛び出す。そこには木々に囲まれた村、エルフの住まう広大な自然が広がっていた。

 




 

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