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冥府の魔王 プルート

 王都に近づくたびに断末魔の叫びが大きくなっていくなっていく。一歩また一歩と進むたび血の臭いが濃くなっていく。足を踏み込む度に死が広がっていく。

 

 耳に纏わりついて消えない。鼻にこびりついて消えない。目に焼きついて消えない。


「門番はいないのか!? 誰か答えてくれ!」


 門は破壊され、人の気配は無い。返事は無く、()()残っていないらしい。落ちた剣を拾うと、まだ僅かに温かさを感じる。襲撃からそこまで時間が経っていないかもしれない。

 俺は剣を強く握りしめる。まだ間に合うかもしれない。王宮騎士団が生き残っていれば魔獣は問題なく対処できる。


「GAAAAAA!」


 前方からロックサラマンドラが3体。俺を敵と判断し、突っ込んでくる。昔の俺なら即死……だが今なら、遅れを取る事はない!


「演舞日ノ舞……烈火!」


 俺の思いに呼応するかのように神託から強い光が放たれる……不思議だ。俺の思いが、力が、すんなりと剣に伝わっていく。

 

 上から覆いかぶさるよに前足が降り注ぐ。1体目の攻撃を左にかわし、攻撃を打ち込む。2体目がすかさず口を大きく開け食らいつく。俺は大きく下がり、噛み付きをかわす。そして踏み込みと同時に5発の突きを打ち込む。

 最後の1匹はこうげきの隙は与えない。剣を突き刺し、体内に日を流し込む。


「GAAAAAA!?」


 外殻の隙間を突き、入り込んだ熱は体内を暴れ回り、やがて溢れ出す。魔獣たちはのたうちまわり、動きを止める。


「爆ぜろ」


 外殻が爆発するように砕け散る。確実に強くなった。演舞も強くなった? それは間違いない。神託が? ルナは何も言っていなかった。特別だとは言った。でもそれは勇者の神託だからじゃないのか?


「GUUUUUU!」


 遠くから魔獣の声が響く……考える時間もくれないな。俺はすかさず門を潜り抜ける。


「なんだ?」


 門を抜けた先、別の何かを通り抜けたようだった。俺は門に触れる。『バチッと』手が弾かれるーーコレは結界か?詰まりこの街は入ったら最後出ることができない事になる。


「うあああああああ!」


 叫び声の方を見る。魔獣?いや、魔物か?何にせよ呑気に考察してる場合では無いな。


「貫け……フレイムアロー!」


 俺は人目掛け飛びかかる影を、燃え盛る炎の矢にて、吹き飛ばす。一瞬で吹き飛び黒焦げの猫? が横たわる。この騒ぎに呼び寄せられたか、それとも連れてきたか?


「ひいいいい……え? ええ!?」


 俺は一般人の横を通り抜け、先へ進む。王都が封鎖されている以上、立ち止まる事はもう出来ない。


 少し走ると、新たな人影を目撃。アレは冒険者か、3人の冒険者が6体のデルタウルフに囲まれている。魔力を練り上げ、次々に魔法を放つ。


「燃やせ……ファイヤーボール!」


 同時に6発の火球。最悪倒せなくてもいい。隙さえ作れば、冒険者は自分で何とかできる。


 計4体に命中。二体はギリギリで回避した。ソレに冒険者たちは驚く。


「なんだ!? いや、ぼさっとするなお前ら、今しかねえ!」


「ギャウウン!」


 よし、アイツらがフリーになれば少しは防衛が楽になる。さらに進むペースを上げる。


 程なくすると、今度は鎧を全身に纏う集団が現れた。


「前列陣営を崩すな! コイツは我らが倒さねば、市民に甚大な被害が出る!」


「おおおおおーー!」


 これは騎士団。あの装備だと分隊長か?相手はロックサラマンドラ?いやもっと禍々しい上位種なのか?流石にあのレベルはいくら頭数を揃えようと……。


「演舞剣ノ舞……逢魔滅尽(おうまめつじん)!」


 重厚な鎧から軽々と飛びかかり、巨大な大剣を振りかざす者が現れる。


「GAAAAAAAAAAA!」


 見上げるような巨体から放たれた演舞は、振り上げられた前足に直撃し、軽々と魔獣を吹き飛ばした。前脚は切断こそされていないものの、かなりのダメージが入ったのがわかる。


「団長! 来てくれたんですか!?」


 騎士団が駆け寄る。大剣を正面に構え、殺気を全面位押し出す。


「馬鹿野郎! 戦いの最中によそ見なんてするんじゃねえ!! アイツはまだ生きてるぞ!!」


 でかい声がビリビリと、こちらまで響くようだ。アレが騎士団長か強いな。俺が感心していると、魔獣が体勢を立て直す。不味い……魔獣がブレスの攻撃態勢に入る。あのクラスに通用する攻撃となると限られる。


 手を出すべきではないのかもしれない。いや、後悔はしたくない。せめて一撃、やつを怯ませるだけの攻撃を放つ。


「打ち崩せ……フレイムアルバレスト!」


 フレイムアローの強化版。硬い外甲殻を撃ち抜く、城壁破壊魔法。食らえばタダではすまないぞ?


「GAUUUUUUUUUAAAA!?」


 放たれた高温の矢が頭部に命中すると、魔獣の叫びとともに、頭を吹き飛ばし甲殻が剥がれ落ちる。俺の役目はここまでだ。これ以上は団長の顔に泥を塗ることになる。


「な、何っすか団長!? おおおおお!?」


 突如の攻撃とその破壊力に、慌てる騎士たち。もう助けは必要ない、落ち着いて剣を構える団長を見送り、その場を後にする。


「は! 俺もヤキが回ったか? ()()()助けられるなんてな! 演舞剣ノ舞……破壊剣一閃(はかいけんいっせん)!」


 圧倒的な威力を誇る太刀筋が、竜の首をとらえる。その甲殻などまるで存在しないかのように剣が食い込む。


「GYAUUUUUU!?」


 遠目に戦況を確認する。ソレは竜の悲痛な叫び、衝撃的な断末魔。


「しゃあああぁ! 次行くぞテメエら!」


「うおおおおおおおおお! 団長おおおおおおお!」


 遠くの方で竜の倒れる音と、大歓声が響く。どうやら無事に討伐したらしい。俺も大分足止めをくらったが……あと少しでプルートへとたどり着く。


「ん〜?あなた誰ですか? 私はカグラを探しに来たのですが、なぜあなたからカグラを感じるのでしょう?」


 背後から突然の声……いつ近付いた? 反応が出来なかった。剣を背後に振りかざすように振り向く。プルートをとらえた!


「ほいっ」


 軽く手でハエを払うような動作。しかし速度は尋常では無く、体を捻り、ギリギリでかわす。


「ふむ……一般人よりは強いと。あなたその目は?」


「知らん。自分で考えたらどうだ?」


 珍しいものを見るような目で、俺の体を舐め回すよに見つめる。やがて満足したのか、納得したように頷く。


「答えてくれませんか、ですが勇者? ですね〜〜しかしなぜカグラがあなたから? いや待って下さい、あの時確か、羽虫が1匹混じっていたような」


 左手を額に当て、右手で肘を掴むようなそぶりを見せる。


「誰が羽虫だ。カマトト野郎!」


 腹の底からドス黒い感情が溢れそうになる。いや、もう溢れているのかもしれない。今誰もいなくて良かった……こんな顔誰にも見せられそうにない。


「ああその顔、あの無垢な青年でしたか! 可哀想に、私が汚してしまったばかりに、そんな顔になるなんて」


 俺の表情を見て、プルートは嬉しそうに口角を吊り上げる。


「気持ち悪い事を言うな、そう思うなら死んで詫びろ」


 酷く不快な気分だ。吐き気を催す邪悪……そんな言葉がしっくり来る。


「それは困ります。まだまだ楽しみは終わらせたくないので、勇者(仮)を倒して帰るとしましょう」


「倒されるのは、お前だ」


 俺は左足を踏み込み、剣を斜めに振りかざす。ソレに対し、プルートは一歩後ろに下がる。最小限の動きでかわし、ステップを踏むように下がっていく。


「演舞日ノ舞……木漏日!」


 俺は回り込むように、右に移動。右腕を大きく伸ばし、回り込ませるように斬りかかる。


 しかし、プルートはソレも視覚せずに後方へ飛ぶ。


 死角からの攻撃を繰り出すも、まるで子供の遊びのように避けていく。角度を変え、背後から狙うも、次々と避けられる。


「そろそろ私の番ですね。奈落の底より這い出し炎……アビスファイヤー!」


 プルートを中心にして、地面を伝うように紫色の炎が迫り来る。避けるように後ろに飛び、逃げ回るも、追いつかれる。そして左袖に燃え移った。


「くっ……炎が消えない?」


 手で払おうとするも、炎は微動だにしない。


「地獄の炎はあなたを焼き尽くすまで消えません。さ〜〜どうしますか? 勇者(仮)」


 俺は燃え移った部分の服を破り捨てる。瞬く間に服は燃え尽き、その危険度が窺える。


「演舞日ノ舞……烈火!」


 ヤツのペースに乗せられてはいけない、燃え盛る蓮撃を正面から打ち込む。


「全てを切り裂く悪意……デビルズクロウ」


 プルートの爪が伸び、ソレが烈火とぶつかり合う。高く響く金属音と共に、ソレらは衝撃を宙へ轟かす。


 そこから更に攻撃は続く。烈火の高速連撃を、長く伸ばした鋭利な爪で防ぎ続け、片手で暇を持て余すように……軽々と凌ぐ。手数が足りないならもっとーーもっと早く、鋭く!


「ほう? 早くなりました……両手で防ぎますか」


「まだだーーもっと速く、熱く!」


 剣に熱が溜まっていく、まだ足りない。空気が邪魔なら焼き切れ、立ち塞がる爪を切り裂け、限界があるなら(ことわり)も断ち切れ。


 神託が輝きを放つ、剣筋が鋭さを増す。段々とプルートの表情に笑みが消えていく。


 技が昇華する。この瞬間も研ぎ澄まされていく。日の出と共に降り注ぐ日光のように、一瞬のうちに降り注ぐ閃光……お前に受け切れるか?


「演舞日ノ神楽……烈火旭日(れっかあさひ)!」


 剣速が一気に跳ね上がった瞬間、プルートが後方へと下がる。それはほんの一歩程度……だが確実に引いたと言う事。プルートの頬に血が滲む、薄皮を切った程度だが、俺の刃は確実に届いた!


「忘れてるなら思い出させてやる。思い出した頃に、お前は生きてないかもしれないがな」

 

 俺はプルートに向け、剣の切っ先を突き立てる。


「いいですねえ〜〜その顔、メチャクチャにしたくてたまりません」


 プルートは長く伸びた舌で血の付いた頬をペロリと一舐めする。良いおもちゃでも見つけた子供のように、無邪気に笑った。


 この疼きが、何を意味するかはまだ分からない。俺は今、神託の力をかつてないほど近く感じる。 


 

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― 新着の感想 ―
[良い点] カグラさんの仇が‥‥! 登場するの、思ったより早かった(;・ω・) 一人で突っ込んでるみたいですが大丈夫かな。 でも、バトルシーンが軽快ですね(^^)
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