星龍の矜持
レヴィは頭を下ろし寝そべると、大きく欠伸をする。その巨体から繰り出される行為は全てが桁違いだ。
「この体勢は体が疲れてたまらんのでな……少し我慢してくれ」
「まあそれはいいんだが……」
俺は片手をあげて静止すると、横眼でルナの方を見る。
どうも輪廻転生者の話が引っ掛かっているらしく、表情がすぐれない。手を振っても返事がないので顔を両手で挟んでみる。
「なにをふりのでふか?」
顔が潰れるほど触っているせいか、声が上手く出せないでいる。少しだけ面白いと思うも、本気で睨まれたのですぐに手を離す。
「悪かったって、あまりにも考え過ぎているから気になったんだよ。重要な何かあるんだろ────?」
俺の言葉にルナはバツが悪そうな顔をするも、観念したように口を開く。
「一つ気になっていました。輪廻と……星龍王ウロボロスの関係性を────」
その言葉に俺の背筋が冷たくなるのを感じた……レヴィは眼を開き僅かに息を漏らす。
「星龍王ウロボス? あんた知ってる?」
「いーや、僕も色々調べてるけど相当古い話だと思うな。それでもきな臭い話ってのは場の雰囲気で十分理解できる」
シスイとセイリオスは首を傾げ、不可解な話に疑問符を浮かべる。
「懐かしい名前だ……我ら星龍の頂点で人でありながら星者を統べた超常の存在だな。無関係ではないと思っていたが、お主も随分と酷な星の下に生まれたようだ」
「ちょっと待て……星者を統べただと!?」
あまりの出来事に俺は声を荒げた。皆の反応はさまざまでルナは薄だまりセイリオスは耳を押さえている。
「イッテーな!! 俺たちは耳がいいんだからあんま大声出さないでくれよ!」
「おや、知り得ないか? 女神も知らないとは意外だが、ふむ……何やら事情がありそうだ」
レヴィの視線の先でルナが倒れ込む。俺は瞬時に飛び込み、事なきを得た。
「おい、ルナ……!! 顔色が悪い、少し休んでいろ」
「はあ……はあ、大丈夫です……たかがめまい程度……話を降りる理由にはなりませんよ!」
そう言うと俺の腰からナイフを奪い取ると迷わずに左手に突き刺す。突然の流血沙汰に皆が度肝を抜かれるも俺は慌ててルナを押さえつけナイフを奪い取った。
「気でも狂ったか! 何で自分を傷つけるような真似をする」
「いい加減目障りなんですよ……霞が掛かった記憶も、この頭痛もめまいも、もう大切なモノは違えません!」
その気迫には意地に近いものを感じる。まだ見えぬ敵への反逆……強い意志だ。
「いやあーマジで凄いわ、一瞬ドン引きしたけど僕はその覚悟は嫌いじゃない」
「あなたに好かれたくて、やっているわけではありませんので勘違いしないで下さい」
強気な態度とは裏腹に、表情は強張る。やがて回復魔法を掛け傷口は塞がっていく。今の方が顔色がいいように見えるから不思議だ。
「それはいいとして思い切りが良すぎるだろ……流石の俺も肝を冷やしたぞ」
「もういいですよ……それより話の続きを────」
それだけの覚悟を示したせいか、レヴィの眼が心なしか柔らかくなったように思える。
「ふむ、長生きするとどうも疑り深くなるな……自分が恥ずかしい」
「水龍の姉ちゃんは何を話してるんだ?」
セイリオスは理解でき……ちょっと待て、メス? メスの龍なのか!?
「すまん話が逸れたな、つまりは奴は十二星者を率いて再びこの世界に再臨をしようとしている。シスイから聞いたぞ、タウラスを倒し一角を落としたのだろう?」
ゾディアックか……初めて聞くが確かにしっくりくる。
「……ああ、堂々と宵の六座とか名乗っていたが、当然明けの六座もいたとして丁度十二人になるのはいいとして……やはり俺たちの動向を見ていたらしい」
シスイに視線をやると、笑みを浮かべて手を振ってきたので完全に無視する。それよりも気になる事が出てきた。
「それはそうとウロボスは星龍王と言ったな? そう考えるとレヴィはウロボスの配下と言うことになりそうだが……どうなんだ?」
これは正直ないと思う、ソウルが違ったように、関係性は皆無どころか敵対もあり得る。そもそもそうだとしたらこのやり取り自体が茶番ということになってしまう。
「我々に主従関係はない、各自が星の意思を尊重はしても己が正しいと思う道を選ぶものだ。ソウルが最後までそうであったように、我も我の星道を歩む」
ソウル……俺のために戦い俺のために死んだ。導きの双星をよく知る者、あれこそが正義に則った最後ならそれがお前の星道だったのか────?
「我々星龍も変わらない、個であって組織ではない、だからこそ星者に協力する者が現れても不思議ではないが、きっと存在はしないだろう」
「ソウルは堂々たる最後だったと思いますよ。直接見たわけじゃないですけど、アルテミスと一緒に戦ったのですから……」
「それは俺が保証する。誰が何と言おうとソウルの最後は星龍に相応しかった。他でもない導きの双星が認めている」
「そうか、お主がそう言うなら……奴も本望だろうな」
安心したのか、レヴィは安堵の息を漏らす。
「我が話せるのはこれくらいだろう、あとはシスイにでもなんでも聞くがいい」
「おいおい僕に丸投げか!? そいつはないぜレヴィ婆!」
「お前は後で覚えていろ────寝ている隙に滝壺に沈めてやる」
「何だよそれ流行ってんのかよ……悪かったって、ありがとな!」
冗談を言い終えると、真面目なトーンでシスイが答える。レヴィは何も言わずに勇足で水中へと飛び込んでいった。水飛沫だけが虚しくも名残を惜しむ。
「……っと、そんな訳だが僕に聞きたいことある? 正直無いとありがたいな」
「即座に約束を破るような真似をするな……ロッカは、炎鷹の勇者はどうしている?」
ずっと聞くのを堪えていた。聞いてしまえば他の情報など頭に入ってこないと自覚があったからだ。シスイは口元を引き締め、困ったように口を開く。
「安心しろ……とは言えないが、少なくとも前線には一度も出て来ていない。出てこられても戦力的に勘弁だけどな」
「少なくとも命はあります。勇気の神託に繋がりが残っているなら間違いありません」
ルナに言われ左手を確認する。そこにはしっかりとかけらが残っており、繋がりを感じた。
今お前はどうしているかは分からない、だが必ず会いに行く。それまでどうか無事で居て欲しい────そう願わずにはいられない。




