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不穏な影

わざわざ警戒心を煽ってまですることとは何だ? 調べたいなら余計な事はしないほうがいい。 


 歩いている最中でもセインは神託を調べ続けている。作業は止めようとせず、様々な資料と照らし合わせ結論を出すようだ。


 覗き込んでも難しそうなことばかり書かれ、内容が頭に入って来ない。


 学者と言うだけあって、小難しい文章がずらり……掻い摘んで読めば何とか分かるか?


「コレでも私の研究成果だ……余り覗き見はして欲しくないな」


 セインの一言で我に帰る。バレないように覗き込んでいたが、確かに失礼な行為だった。それ以上に失礼なことされてる気もするが、言ったところで意に介さないだろう。


「そうだな……俺が悪かった。もうしない」


「気にする必要など有りませんよ。恩知らずな者の話など捨て置けば良いのです」


 ルナの気持ちも分からなくはない。だがそれ以上に気になる。まるで点と点が繋がっていないような……この出会い自体不自然だが、意図的だとして何の目的がある?


「ははは、大丈夫……冗談だ。恩人にそんな事言うつもりはないよ。だから君も気を鎮めてくれないかな?あっ、コレは一般にも出回ってる資料だ」


 ひらひらと波を立てるように資料を煽ぐ。セイン自身ものらりくらりとしてるし、尻尾は出さないか?


「素直な点は評価する。でも愚直すぎるな君は、警戒心が隠せてないよ」


「……何の話だ?」


()()()()『何の話だ?』だって?()()()()()()()()()()()。型にハマり過ぎている……それでは、とぼけていると自白してるようなものさ」


 人差し指を左右に振り、その指を俺の額に突き刺す。指先から思考が吸い上げられ、手の上で転がされていくような感覚。……参ったな化かし合いでは勝てそうにない。


「空気に飲まれてはなりませんよ?」


 俺とセインの間に遮るようにルナが割り込む。


「おや?君はお呼びじゃないんだが……別に彼を取ったりしない。仲良くしておくれよ」


「勘違いされては困ります。下らない挑発に乗る気は有りません」


 セインは少しだけ悩ませんるようなそぶりを見せる。あくまで対面上の話、ルナの話に少しだけ反応しているようにも見える。


「うーん……君との話は楽しめそうで魅力的ではあるが、刺激が足りない」


「ソレはどういう意味だ?」


 セインの言う魅力というのは面白いかどうか、刺激とは新しい何かと見るのが妥当なところ。ますます分からないが、少なくとも虚言を吐くようには見えない。


「ユウセイと違い本音を隠すのが上手そうだからね……ソレを炙り出すのもそそられそうではある」


 素直な疑問。俺とルナで何が違う?ルナを見る相変わらず無表情を貫いているが、最近は分かりやすいと思わなくもない。


「極め付けは女のカンかな?」


「ーーおい」


 舌を出し、砕けた表情を作る。まともに取り合う気はないように思える。ソレにルナも痺れを切らす。


「私のカンでは、これ以上あなたと関わるべきでは無いと告げておりますね」


「ソレはそうだろう。私のような者に目を付けられているんだ。諦めて観念したまえ」


 ふと思う……この行動に一貫性があるとして、セインは俺に何を求めている?神託の紋様以外に必要な事って何だ?


「アンタは俺の何が知りたい? この問答の先に答えがあるのか?」


「君とルナちゃんってどういう関係?」


 ふざけて……いない? 意味があると仮定してそこに答えを見出す。正解は正解じゃ無い、なら間違いこそが正解なのか?いや間違いは間違いだ。


「恥ずかしいから黙っていたが……実は俺たちは結婚してるんだ」


 もちろんそんな訳はない。しかしやるなら徹底的にお茶を濁す。


「おおー!!そうかそうか、馴れ初めは? どこで知り合ったの?」


 やけに食い付きがよく、ルナからの目を細めた視線が突き刺さる。ここまで来たらどうしようも無い。塗り固めていくだけだ。


「神の……おっとこれ以上は守秘義務で話せない約束でね。勘弁してもらおうか」


 言っていて自分で恥ずかしくなってくる。穴があれば入りたいが、今更やめるわけにはいかない。


「そう言わずさ、それなら何で旅? してるの?新婚旅行?」


 軽くあしらうように、俺は適当な事を言い、セインも適当なことで返す。当然話は進まない、ただの冗談と冗談の言い合い。

 何の実りもない話。価値の無い会話。最も()()()()()()()()()()……この一言に尽きる。


「いやー君は、本当に意地の悪い男だ」


 ため息を吐くよにセインは答える。


「そうだな自覚はあるし、前もそんなこと言われたな」


 呆れたように『はあ』とため息が視界の外から聞こえて来る。俺だってそう思う。


「君にその戦法を使われてしまったら、私の取れる手はないな……いいよ降参だ。一つだけ君の質問に答えよう。その代わり私の質問にも答えて貰うがね」


 俺は首を縦に振り意思表示をする。しかし質問は一つだけ、何を聞くべきか吟味すべきだ。

 

「嘆かわしいです。私の勇者像から、ユウセイがどんどん離れていく気してなりません」


 ルナの勇者像って何だ?とツッコミを入れればいいのか何とやら、カグラなら今の俺を見た時何と思うだろうな……。


 いや、たらればの話は意味がない。結果がどうであれ、俺の選択の結果なのは変わらない。今出来るありったけを注ぐ。その為なら無様にもなる。道化すら演じ切って見せる。


「粘って来ると思ったんだが、あっさりと引き下がったな」


「ソレでも良かったのだが、君は長引く程に下らない話をすると思ったからね。全く持って時間の無駄だよ」


 これ以上は付き合い切れないと言わんばかりにセインは首を左右に振る。


「しかし本当に一つだけだ。質問は吟味したまえ?」


 答えは決まっている。元々意味の薄いもの……のらりくらりとすり抜け、逃げられるのは目に見えている。逆に情報を引き出すため折れたと思える程だ。


「アンタは俺に意図的に接触した……ソレで間違い無いか?」


「おいおい、そんな質問でいいのかい?」


 そう、お前は必ずそう言うだろう?煽るよに伺うように俺の反応を楽しむ。


「ああ良いんだ。これでアンタの質問は()()()()()()()俺はちゃんと答えたぞ?」


「ユウセイ……いくらなんでもソレは何と言いますか……少し」 


 ルナが言葉を濁すも、事実は事実。ここでセインがどう出てくるかだが、素直に引いてくれれば非常に助かる。


「うん……()()()()()。私は意図的に君達を待ち伏せして、接触した。コレで良いかい?」


 あっさりと認めた?完敗? 肩透かしをくらったような……いや、俺にはソレが分かっただけで十分聞いた価値がある。ソレが揺らぐことはない。望んだ結果にたどり着いた。


「コレで質問タイムは終わりだろ? 最後にコレは()()()()()()()()()だけど……深淵を覗く時、深淵もまたこちらを覗いている……だよ」


「ソレを聞くって事は、アンタは転生者なんだな?」


 言葉を放つも、セインは残念そうに肩を落とす。そこで俺は気付く、言いたかった本当の意味。


「言ったろ?()()()()()()()()()()()()()勇者を隠したいなら、もっと知恵を絞れ。君の素質は悪くない、むしろ好ましい。知識や経験は君の大きな武器になる。擦り切れるほど磨け」


 エールのようなものを受け取る。今も俺はセインに負の感情を抱かない。むしろ好感さえ抱いている。ソレが命取りと言えるかもしれないと言うのに、敵としての認識はカケラも持ち合わせていない。


「やれるだけやってみる」


 俺の回答に、セインは満足そうに頷くと、俺たちと距離を取る。5メートルほど離れた位置で立ち止まる。セインはゆっくりと左手を空へ向け、手の平に魔力を込め始める。


「吹き荒べ……サンドストーム!」


 砂漠の砂のように、乾燥してサラサラとなった砂が螺旋を描くように空高く舞い上がる。セインを中心としたソレは激しさを増し、近づく事は困難を極める。


「ユウセイ……近づいてはなりません。一瞬で体が血塗れになりますよ」


「そのようだな」


 頬から血が流れる。離れた位置にいつにもかかわらず、ここまでの威力が出るか。


「ガイア王国王都アースは、もう目と鼻の先だ。一緒に行きたかったけど……時間は待ってくれないらしい」


 王都の方角を見ると煙が立ち込めているのが見える。襲撃されている? 一体誰が?


「ユウセイ!」


「ああ、嫌な予感がする……すぐに向かおう」


 どれだけの時間が経過したかは分からない。カグラはもういない。コレは、俺が何とかしなければならない。

 サンドストームが激しさを増し、セインの顔が見えなくなるほどに激しくなってきた。


「ユウセイ、君は私が助けを求めた時……私を救ってくれるのかな?」


「なんだ!?今なんて言ったんだ!」


 砂嵐の音にかき消され、セインの声が聞き取れない。俺は聞き返し、呼びかける。


「答えは聞けずか……ソレも良きかな」


 サンドストームがピタリと止まる。辺りの人影など無く、何らかの方法で移動したと考えるのが自然だ。しかし今はそれどころじゃなかったな。


 俺たちは王都に向け走り出した。やがて王都が見えた頃……塔の上に立ち、王都を挟撃する一つの影を見つける。


「ほほほほほ、早く出てきませんとみ〜〜んな死んじゃいますよ?」


「プルートーー!」


「冥府がここに!? ユウセイ油断しないで下さい。彼はきっとあなたの気を逆撫でしてきます……ちゃんと聞いているのですか!?」


 忘れもしない……カグラの仇。向こうから来てくれたならむしろ好都合だ。俺はさらに速度を上げ、一直線に走り出した。


 

 

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