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月光石

「────────ウラノス!!」


 意識の覚醒と共に俺は声を張り上げる。喉が枯れるほどに叫び続け、膝が悲鳴を上げ、見下ろす黒翼と視線をぶつけ合う。


「演舞で威力を抑え、後ろの二人を庇ったか……しかし威力は殺し切れていない」


 周囲の地形が変わり果てるほどに大地は抉れ、煙を吸わぬよう口元を覆う。更に俺は後ろを確認したい気持ちを抑える。僅かな闘気は流れていて、少なくとも命に支障はない。


 今眼を離してはダメだ。奴の逐一の行動に警戒して対処しなければならない。


「そんな事は百も承知だ。俺の力不足は俺がよく分かっている。甘さも嫌と言うほど教えられた。だからこそ俺はこんなところで立ち止まるつもりはない────」


 決意を示せ。空元気でいい。何が正しいか分からないとしても、俺の大切なモノが揺らぐことなんてないんだ。絶対に履き違えるな!!


「くたばりぞこないの眼ではないな。どこまでも真っ直ぐで曇りない闘志だ……だが想いだけでは届かない」


 酷く冷めた視線が俺を貫く。その言い方はまるでかつての自分と重ねているようだった。


「届かせる……!! お前の絶望なんて知らない。俺は導き繋ぐだけ、想いは連なりどこまでも勇者を与え奇跡を起こす。だからお前は俺に会いに来たんだろう」


 勇気の神託をウラノスに見せつけた。五つ目の輝き……その光は確かに俺の手に宿っている。そしてそこにはあるはずのない九つ目の輝きが目覚めるた。


「どれだけ言われようとお前に賛同する事はない。口だけでないことを証明しろ。私は国で待ち続ける。お前が強くなり私に挑んで来い」


 翼を広げると光の速さで飛び去っていった。緊張が解け剣の柄に寄りかかると、舞い散る羽根が視界に入り燃え尽きると、足元の淡い光に眼を奪われる。


「これは……まるで月の光を吸い込んだようだな」


 手に取って見ると自然と馴染むそれは、右手の神託と共鳴する。ウラノスのおき見上げに、溜息を漏らした。


「素直に一言残せばいいものを……偏屈は五千年後も健在か」


「う……なんとか退いたようですね。それで、誰が偏屈なんです」


 ボロボロの体を起こし、細めた眼を周期に向ける。大きな外傷は無いようで俺は胸を撫で下ろした。


「なんとか大丈夫そうだな。無事で何よりだ」


「これが無事に見えるなら、そうかも知れませんね」


 僅かな皮肉を漏らし、薄汚れた体を見せつける。改めて見ると女神とは思えぬ酷いありさまだ。


「ふっ! ……くくっ……はははは! こっ酷くやられたな!」


「ちょっと何を、ふ……ふっふふふふ、ユウセイこそ、ボロ雑巾ではありませんか!」


 泥まみれの姿があまりにもおかしくて、俺たちは大声で笑い合う。今まで笑う余裕が殆どなかった事を思うと、どうしても抑えられなかった。


「お前ら何がそんなに面白いんだ? 頭がおかしくなっちまったか?」


 なんとか体を起こすとセイリオスは変わったようなモノを見る眼で、俺たちに疑問を投げかける。


「まあそんなところだ」


「言うならばそんなところですね」


「馬鹿にしてるのはこっちなんだよ! なんで二人してボケ返すんだよ!」


 若干苛ついた態度で不貞腐れる。これ以上は無駄と思ったのか、直ぐに神妙な面持ちになった。


「あーそれでなんだけどよ……ウラノス様は俺になんて言ってた?」


「それは……すまん」


「そうか、まあ今更だよな。当面の目標は見返すことにする」


 セイリオスが肩を落とすと、手を叩く音が周囲に響き渡った。何事かと思い俺たちはルナへ視線を向ける。


「ユウセイが持っているその鉱石が気になるのですが、どう言った経緯で手に入れたのですか?」


「ウラノスが落としていったんだ……ないしおき見上げだ。俺が強くなることを望んでいたからな」


「ではやはり“月光石(げっこうせき)”で間違いないようです。ハーシェル失楽国において、“明かずの谷”では夜は明けません。常に月明かりが差し、石の性質が変化し自然と闘気を帯びます」


 ルナの説明により、やはり重要な石なのだと理解する。陽光石とは対をなす存在……俺にとって貴重な強化手段だ。


「なんだなんだ? 武器を作りたいなら、火焔帝国に最高の鍛冶屋があるぞ?」


「そうですね……セイリオスの言う通り、火焔帝国を目指すのがベストですが、なにぶんあの皇帝ですので素直に通してくれるとは思えません」


 俺は中王会議での出来事を思い浮かべる。アースラとは犬猿の仲で、そこの勇者として認識されている俺は嫌われている可能性が高い。ロッカの件も含めて、慎重になる案件か……。


「飛んで火に入るなんとやらだな。せめて後一つかけらを手に入れれば、無理にでも意見を通せるか?」


「なんだよ。俺の意見は却下か……そんな面倒な話なんて俺は知らないからよ」


 俺はセイリオスの話でふと頭をよぎった。あの国はそもそも魔族に対して排他的だと言う事実────。


「よく無事で済んだな。魔族ともなれば殺されるんじゃなかったのか?」


「なんだ知らないのか、神託の情報読ませてくれたら無償で通してくれたぜ?」


 不思議そうに頭に疑問符を浮かべた。それに対し、ルナは見えないように首を横に振る。


「火焔帝国を目指すなら、このまま水城共和国を目指しましょう。シスイは性格はアレですが、こちらがメリットを提示すれば双星に協力してくれると思います」


 ガイア王国とも同盟を結ぶと宣言したし、仲は比較的いいと見た。


「まあしばらくはウェヌス魔境国を抜けるので、そのつもりでいるか……ヴィーナスにも一言挨拶して行くとしよう」


「それなら王都が近くですので、そこに寄りましょう。流石に帰っている時間です。一人増えることですし、食料も心許ないですから」


 ルナがそう言うと懐から地図を取り出す。こうして見ると距離としては中々のものだ。国一つの大きさは大差ないが、横断するとなれば骨が折れる。純粋に人の足で移動しようものなら数ヶ月はかかると思っていい。


「うおお!? 俺も人数に入ってるってことでいいんだよな!」


 セイリオスが酔狂な声を上げるも、俺は今更と言った目線で溜息を吐く。


「嫌なら来なくてもいいぞ。別に強制してる訳じゃないからな?」


「いや、一緒に行く。強くなりたいのもあるが、俺の眼で世界を見て回りたいんだ」


 決意を示すと飛び上がり天狼の姿へと変わる。着地と同時に胴を地面にまで下げ、俺とルナは背中に飛び乗った。


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