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傷だらけの英雄

 王都への帰り道、俺たちは気まずい空気のまま帰路についていた。いつかは話さなければならないとも思いながらも、聞くべきでは無いのでは?そんな思考が頭を過ぎる。

 

 自問自答に答えなど有るはずもなく、大きく空を見上げる。


「ユウセイ、大丈夫ですか?」


 気まずさからか痺れを切らしたのか、ルナから会話の矢が飛んでくる。その表情はどこか落ち込んでいるようにも見えなくも無い。

 心配しているのは伝わってくるので、重い足取りを少しでも正す。


「怪我は治してくれたろ? 治癒魔法って凄いんだな、アバラまで治ってるし……ありがとう」


 出来る限りの精一杯で似合いもしない笑顔を作る。別に心に無い訳じゃ無い、今はそんな気分になれないだけだ。


「いえ、どういたしまして……では無くてですね」


 ルナの言わんとしている事は分かる。『お前達が来なければ』村人の言葉が鮮明に蘇る。こびりついた浅黒い血のように、俺の心を塗り潰してやまない。


 勇者になって村人からの第一声が『死神』じゃな。ソレでもアイツらの気持ちがわからない訳じゃ無い。


 隣り合って歩き、横目で表情を見るも面持ちはよろしくない。表情に出さなくとも、俯き、顔には暗い影を落とす。


「後悔をしていますか?」


 その後悔が何か、聞き返したい気持ちもある。


「後悔ならカグラが死んだ時に一生分済ませた。それにこう言うのは慣れてる」


 嘘では無い……痣無し(アザナー)と忌子と、幾度となく言われ続けた。今更何を言われようと大した違いはない。


「どれだけ慣れても、心が傷付かない訳では有りませんよ」


 まるで後頭部を強打されたように思考が一瞬飛ぶ。


 気付けば俺は足をピタリと止め、ゆっくりとルナの顔を見ていた。ルナもその足を止め、俺の顔を伺う。お互いが向き合い、視線と視線が交差する。


 まるで時が流れるのを忘れたように、一瞬の間が俺たちを支配する。


「立ち止まっている暇はない」


 俺はもう迷わないと決めた。約束がある。()()()()で音を上げれば、犠牲になったカグラに申し訳が立たない。


「歩みを止め、休息を取るのも大事です」


「今はその時じゃない」


 ーー俺は言い訳をするように、明確な拒絶を示す。だが、振り返ろうとした瞬間……ルナの表情が目に止まる。


 蒼い目は赤く腫れ、その瞳から大粒の涙がこぼれ落ちる。表情は変えないものの、その分涙の主張は激しいものだった。


「どうしてルナが泣く」


「こちらを見ないで下さい」


 俺の後ろから乱暴に服を掴まれ、ルナは顔を埋める。


「今から言うのは独り言です……なので耳を塞いで下さい」


「わかった」


 俺が了承をすると、大きく息を吸い込む音が聞こえた。俺は両手で耳を覆う。


「あなたは()()()()()()そうです。辛さを誤魔化すのに笑うのはやめて下さい」


 背中を拳で何度も何度も叩く。痛い、ズキズキと鈍く衝撃が背中を突き抜ける。しかしソレは肉体的な痛みで無いように感じる。


「私は誰よりも、()()()()()()()()()()()()()のに」


 ソレは長年の蓄積されたもののように一つ一つが重い。今の俺には想像もつかない事を繰り返してきたのだろう。ヤツの言っていた事はどこまでが真実かは分からないが、何度も言葉を繰り返しては声にならない叫びを上げる。


 背中に染み込む温もりも、伝う痛みや、響くその声が、俺がどれだけ言葉を尽くそうと、消えることはない。


 俺はルナを深く知っている訳じゃない、でもルナは何かを知っている?ソレは神とやらが言っていた事に関係しているのだろうか?


 苦しみの理由すら分からない俺が、何を分かってやれるのだろうか?()()()()()()()()()()()()位は分かったのかもしれない。 


「少し落ち着きました。すみません」 


 ルナは静かに離れていき、隣に並び歩き出す。はあ、本当は少しだけ聞こえていたが、言われた事を聞くのは野暮だな。俺は水袋に手をかけ、ルナへ差し出す。


「……ん」


 ルナは一瞬戸惑ったが、両手で受け取り口をつける。ゴクゴクと喉を鳴らし、やがて満足したのか無言で差し出してきた。俺はソレを受け取り、片付ける。


 今更だがルナは一切の道具が無い。その準備と何より()()()()、一度王都に向かいたいと思う。いや、さっきの事を考えれば教会はは止めるべきか。


「一度王都に戻ろうと思う。何か意見はあるか?」


 そろそろカグラが失踪に関した何かしらが伝わっていてもおかしく無い。


「王都ですか?どうでしょう、あまり得策では無いかもしれません」


「魔王プルートの情報も知りたい、勇者が不在ってのも心配だ」


 ルナはピクリと反応を示す。その後難しそうに『ソレは』と考えるそぶりをする。


「まさか、冥府の魔王プルートがあの場にいたのですか?」


 そうか、()()()は、そんな呼ばれ方をしてるんだな。俺は静かに拳を握りしめる。


「もう1人居たんだがそいつはフードを被ってたし、名乗らなかったんだが、魔王とは呼ばれてた。声からして男で間違いと思う」


「ソレは恐らく堕天の魔王ウラノスの可能性が高いです…2人とも私を追っていた魔王ですから、巻き込んでしまっていたのですね」


 ルナは申し訳なさそうにするも、今は後悔の時じゃない。


「教えてくれルナ、奴らは王都に向かった可能性はあるのか?」


 ソレは最悪の事態。カグラがいない今、それだけは避けなければならない。


「ソレはないでしょう、彼らも一国の王です。勇者と違い多くの期間国を開ける事は出来ません。人間より即決即断が出来る分、利点で有り欠点です」


 実力こそ全ての魔族は、統率された王の指揮の元一丸となって動く。強きものが王となり、絶対の信頼によりその指揮は高まるか。


「彼らにも貴族社会が存在はしますが、ソレは力による一世代限りのも大きく違う点です。しかし勘違いしてはならないのが、強い魔族とは総じて知能が高いと言う事です」


 強くても馬鹿では勝てない事を知っているからな。当然力だけに頼らない様々な知識を有する。そもそもが魔族自体が知識欲旺盛な生き物だ。ソレは魔法に優れている点からも見て取れる。


「人間は血筋を重んじ、魔族は実力社会。極端ではあるが、一長一短過ぎて言葉にするのが難しいな」

 

「一見後者の方が良さそうですが、短い期間に統率者が度々変わっては、国は安定しませんからね」


 ソレなら安心しても良いのかもしれない。いや流石に早計だが、でもそうなるとそうまでしてルナを狙うことに意味があったのか?


 頭が痛くなりそうだ……今はカグラの事をセイヤにどう説明するか考えよう。()()3()()にも説明するのが筋だろうしな。


「そこのお二人方……」


 突然の声に、俺は辺りを見渡す。ーー誰もいない。


 微かにだが、確実に声が聞こえるた。蚊の鳴くような声だったが、これは女の声? 俺はルナの方を見るも喋りかけてくる様子もない。


「ルナ、何か言ったか?」


「え、わたしは何も、気のせいでは?」


 そんなはずはないんだが……しかし今のは一体なんだ?辺りを見渡すもソレらしき人影はない。


「っひいい!」


 仮にも女神が上げて良い声じゃ無いぞと思いながらも、ルナの方を見る。


「そんなベタな声を上げてどうした……んんん!?」


 草むらから謎の手が飛び出し、ルナの足を掴んでいる。ルナは『いやあああああああ!』と叫びながら手を蹴り飛ばし、『いだあああああ!』と手の主?が声を荒げる。ルナは俺の後ろに隠れるように避難した。


「ユウセイ……なんですかアレ?」


「俺が分かってたまるか」


 やがて這いつくばるように1人の女がの上半身が姿を表す。アンデット? では無いようだが、顔を持ち上げてこちらを伺う。


「食べ物下さい」


 涙ぐみ、祈るように食糧を悲願する少女?しかし俺はあることに気付く。


「あ……すまん、今何も無い」


「そんなああああああああ!?」


 俺とルナはどうするか悩むも、この少女の話を聞く事にする。


「とりあえず、水でもどうだ?」

 

 水だけはあるので、まずは飲むよう促した。




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