新たな超新星
神託が見たことの無いほどの光を放ち、世界が違った色合いを醸し出す。
勇者とは何なのだろうか? そんな疑問を抱いた時期もあった。カグラを見たときその問答が無意味だと気付いた。
年齢が11に達する頃には人という生き物に失望した。一部の人間以外心を開かなくなった。そこからはしばらく生きることだけ考えた。他人に無関心になった。
昨日親友を失った。前世の記憶が蘇った。自分が何者か分からなくなった。ルナと出会い勇者となる覚悟を決めた。過去の自分を受け入れた。
今日はどうだろうか? 人の醜さを再認識した? 違う、そもそも彼らの事情を知らない。今度は逆に、過去の自分が今の自分を否定していた。
いや、そんな生温いものじゃ無い。アレは軽蔑だった。俺の心は俺自身に失望したんだ。村人の命をあっさりと切り捨てようとした冷徹な心に。
俺はようやく自分の中の答えを見つける。勇者とは誰が為にその身を焦がす、勇しき者。人々を照らし導き繋ぐ希望の光……夜空に輝く星なんだ。
多分ソレでも足りないのだろう。カグラが俺を残した意味がそこにあるはず、今本当に必要なのは……。
「GAAAAAAAAAAA!」
「なんとも酷い事をしたものです、類は友を呼ぶとはよく言ったものですね。貴方も魔女と同類のようだ」
類は友を呼ぶか、その言葉が出てくるとなると、奴も転生者って訳だ。後で詳しく問い正したいところだが、転生者って何なんだ?そこに何の意味がある?
答えの出ない問答よりも、目の前の問題を片付けるのが先か……。まず必要なのは、俺の攻撃がどこまで通じるかだ。
「演舞……烈火!」
連続した突きの攻撃が、ハクに降り注ぐ。皮膚が恐ろしく厚いのか思ったよりダメージは無く、振り払われた際に剣が折れてしまう。
「違う、コレでは力を発揮できない」
威力は間違いなく高くなっている。予備の剣などでは今の俺の力について来ていない。それを踏まえても、想定を大きく下回る威力。この演舞は足りて無いと直感で分かる。
「GAUUUUUUU!」
ハク体の肥大化が始まり、キメラのように様々な生物の特徴を持ち始める。爪が伸び、翼が生え、骨らしき物が、身体中から飛び出す。
「貫け……フレイムアロー!」
やはり前と比べ威力が上昇していることに気付く。しかし、ほとんど効果がなくコレもダメージを見込めなかった。
「コドモ、タチ……GUAA! マモル!」
暴れるように鋭い爪を突き立てる。切り裂き攻撃を繰り出し、地面が大きく裂ける。うまく避けきれなければ致命傷は間違いなく、命の保証など無い。
「そんな事をしても子供は救えないぞ?」
「GAA! マモル!」
執念のような者に取り憑かれ、実の力に踊らされるも、ソレでもまだ自我を保とうとしている。俺の呼びかけに反応しているようにも見えがーー。
「止めろ……そんな事をすればみんな死んでしまうぞ!」
「GAAAA! マモル!」
確実に反応はしている。だが足りないのだ……唸り声を上げ、破壊の限りを尽くす。攻撃が村の家を押し潰し、瓦礫の山が形成されていく。
「くそっ、見境無しか」
迷う時間すらなく時は進み続ける…俺はある決心をする。
「ルナ! その男を足止め出来るか?」
「問題ありません。それから……村人は避難しました」
流石に気付いていたかとも思うが、ソレを肯定してやる気は無い。
「何の話だ?」
「だだの独り言です」
ヴォルフ司祭の元にルナが駆けつける。逃げる様子は無く、むしろ待っていたとすら思える。
「小娘1人で何が出来ると? 今は面白いショーの最中ですので空気を読んで頂きたい」
「隠す気もありませんか? 貴方には聞きたいこともありますし、少し手荒にいかせてもらいますよ」
ルナは両手をかざし、魔力を練り上げ、威力を極限まで高めている。収束した光が今かと解放の時を待つ。
「集え光よ、光速と聖なる力を持って敵を撃ち抜け! ホーリーアロー!」
ルナの手から、収束された光の矢が放たれる。その一撃は光速を得て、ヴォルフ司祭を狙う。しかし奴もまたソレを防ぐため、魔力を注ぐ。
「小賢しい、全てを分断する光の壁! リフレクト!」
ヤツは光の壁を展開。球体状に全方位を覆い、確固たる守りを展開。
光と光の衝突に、あたり一帯は強い光に包まれる。
逃しはしない、このツケは必ず払わせる。俺は攻撃を避けながら見送ると覚悟を決める。折れた剣を握り締め、闘気を込めた一撃を放つ。
「ずいぶん待たせた。演舞日ノ舞……烈火!」
「GUUU!」
エネルギー波のような高密度のブレスがハクから放たれ、残滓を残す手燃え盛る炎の突き、烈火とぶつかり合う。魔力量の高さから、もし一般人に直撃すればチリも残らないだろう。
「くっ、コレでもダメか?」
ブレスの出力がもう一段階上昇する。押さえきれなくなったブレスは弾け飛び、村の各所へと降り注ぐ。相殺しきれず俺にも一部が直撃し、吹き飛ばされる。
「っぺ……流石に効く」
口内を少し切る。後は内臓に少しのダメージと肋骨を少しってところか?
明らかに昨日のトカゲよりは強いらしい。折れていた剣は粉々になり、柄だけになっってしまった。
口元の血を拭い、剣であった物を投げ捨てる。ハクは続けざまにブレスの構えを取り、ここに来て最大級の一撃を放とうとする。
「GAAAAA!」
「カグラーーお前の形見、使わせてもらうぞ!」
揺り籠に手を当て、空間をここに繋ぐ。今この中にはカグラの亡骸と、愛用していた刀、日本刀が入っている。ソレに手をかけ、闘気を注ぎ込む。
「ハク! 全力でこい! お前の苦しみも、因果も全て断ち切ってやる!」
取り出した後に闘気を練っていては間に合わない。今ここで同時に行う。俺はイメージを繋げる。敵の攻撃を全て受け流し、その力を持って最大熱量で敵を引き裂く。
「演舞日ノ神楽ーーゆらり揺らめく日ノ虚い、踊り引き裂く見えざる刃……薄刃陽炎!」
その刃が、その揺らめきが、攻撃を拡散し、その流れに従うように舞踊る。ブレスを三枚おろしのように切り裂き、切っ先にその熱量を蓄える。やがてブレスは分解するように消滅……残った標的へ、刃を振りかざす。
残ったのは無数に浴びせた斬撃の嵐のみ。その全てがハクを捉え、瞬きの間に肉体を引き裂いていく。
「GAAAAAAAAAAA!?」
ハクは大きな叫び声を上げ、斬撃を浴び続ける。
斬撃に耐えられなくなったのか、又は実の副作用により、肉体の肥大化は止まり、その場で音を立て、崩れ落ちる。立ち上がろうともがくも、それは叶わない。ハクの体から広がる血溜まりが戦いの終わりを静かに告げる。
「俺を好きなだけ恨め、お前にはその権利がある」
「ア……ウ」
俺の神託の光が伸び、変わり果てたハクを包んでいく。暖かい、それでいてどこか儚く、まるで優しい夢のような、そんな光だ。
やがて光は消え、人の姿のハクが現れる。一瞬もしかしたらとも思ったが、傷が癒えている訳では無い。神託の意図は分からないし、助ける事も出来ないが、せめて人の姿のまま安らかに。
「あ、り、が……とう」
俺は目を見開く。揺らぎ定まらない視線をハクに向け、言葉に耳を傾ける。ありがとう……そう聞こえた。しかし、いくら待っても、その先が語られる事はなかった。
ハクは光となり、俺の揺り籠へと吸い込まれていく。何故その選択をしたのかは分からない、しかしソレでも死者は選ぶことが出来る。俺以外を待つことも出来た。
「ありがとうか……」
俺は未だ見えもしない星空を見るように、空に想いを馳せる。どれだけ進めばこの果てしない夜空は、明けるのだろうか?
お前もこんな思いをしながら進んでいったのか? ……当然答えは得られない。
それでも立ち止まっている暇はない、無くしたものを数えるのは……コレで終わりにする。そう心に誓うのだった。




