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孤独の友情

 段々と思い出す……星神教の祈りの形であり、狂信的な信者が使う言葉だった。


 かつての歴史で、現在のウェヌス魔境国の方角から導きの光が現れたとされる伝説に因んだ言葉は、今でも信じられている。


「来ました──傭兵どもの突撃です」


 一人の兵士の報告に、俺は意識を戦場に戻す。カイトが動き出し、アノンが後ろから援護する形だ。


 それを確認すると、鎧が手を振り上げた。


「半獣の娘を盾にしろ、奴らは仲間を見捨てられない……直ぐには殺すな、まず耳を削ぎ落とせ!」


 カイト息を切らし、必死に距離を詰める。背後からアノンが現れ、弓を強く引き、狙いを定める。


「ふん、ここまでは二百メートルは距離がある。正確に狙う事などできんさ」


 嘲笑(あざわら)う言葉に反するように、アノンは構え続ける。兵士も後ろから顔を半分だけ出し、耳に刃をあてがった。


「奴が外した瞬間に耳を削ぎ落とせ……もっと追い詰めるのだ。ウェヌス魔境国を駆逐するために“成る”その瞬間まで────」


 その言葉を聞き、ミスティが震えを止める。アノンの方角を見詰め、ゴクリと喉を鳴らす。


 百八十メートルの地点で一人動きを止めると、その矢を放った。


「ふははっは、何と間抜けなことか? それほどの距離から命中するなど────」


 ────ミスティを押さえている男が宙を舞う……倒れたその目には深々と矢が刺さっていた。その光景に鎧は後退り、大きな間が生まれる。


 人質が走り出し我に帰ると、慌てて指示を出す。


「逃がすな! あの娘はもう殺して構わん! 討ち取った者には褒美をやるぞ!!」


 兵士たちが追いかける。そをカイトが阻止する。


 修羅の形相で、威嚇し綱を切ると、立ち止まる兵士に言い放つ。


「お前たち……無事で帰れると思うなよ────」


 腰から剣を引き抜く、現在の身の丈に匹敵する大剣とは違い、一般的な長さだ。


 前方から五人の兵士が迫り、カイトは地面を強く踏み込む。


「演舞……断空(だんくう)!!」


 瞬きの間に、五つの首が宙を舞う……アノンが追い付き、矢を構えると牽制したままカイトの後ろに立った。


「てめえら動くなよ!! 脳天をぶち抜かれたく無かったらな!!」


 息の合わせ方が絶妙なのもそうだが、かつての俺よりも技のキレが目立つ……カイト自身の底力が際立つな。


 鎧は舌を打ち鳴らし、牽制する。


「こちらの数は千を超える……調子に乗るのもいいが────」


「────ふざけるなよ! お前は命をなんだと思ってるんだ!!」


 カイトの叫びは虚しく空に響く……それに反比例するように鎧には退かない。


「突撃せよ……全ては秩序(ちつじょ)の為だ。犠牲は必要経費、命の価値は平等では無い」


 巨大なうねりは、カイトとアノン……そして、後ろに控えるミスティに襲い掛かる。


 カイトが必死に剣を振るい、数十を薙ぎ倒そうと、上から数百が押し寄せ、踏み潰す。呆気なく戦線は崩壊した。


 カイトは地面を這いずり、手を伸ばす。


 ミスティが拘束され、槍兵が前に出る。


 助けは無い、誰も動け無い、慈悲は無い………鎧は手を振り上げ構えを取った。


「お兄ちゃん! 助け────」

 

「止めろおおおおおおおおお────!!」


 …………光が宙を漂う。


 導かれた魂は寄り添い揺られ、深い眠りに落ちる。


 カイトは瞳を揺らし、倒れ崩れ去る。その間にも、事態は刻一刻と進行する。


「モタモタするな、次を仕留めろ────まだ一人残っているだろ?」


 カイトはその言葉に口を開き、精一杯の抵抗を見せる。


「もう嫌だ……俺を先に殺してくれ……もう何も見たくない……聞きたくない」


 心が壊れかけている。弱々しい言葉に、一欠片の闘志すら感じられ無い。崩れた心に引き摺られるように、抵抗を止める。


 たった数人の傭兵団を潰す為に、大勢の兵を出し、追い詰め見せつけるように殺して行く。理解出来ない行動……いや、理解したく無い行動だった。


 まさか、促しているのか? カイトの覚醒を……勇者の誕生を────。


 数人でカイトを持ち上げ、顔を持ち上げるが、反応は無い。鎧は追い討ちをかけるように口を開く。


「ん? 気絶しているのか? 顔に水をかけろ……」


 反応は無い、痺れを切らし怒鳴りつける。


「小僧の顔を起こせ、しっかり見せ付けるのだ!」


 虚な瞳は、色を失っている。なぜ生かされているのかも分からずに、表情に影を落とす。


 アノンが貼り付けにされ、カイトによく見えるように配置された。


「見るのだ小僧よ、これが最後の仲間だ。ネズミは全て排除したのでな、これが正真正銘最後の仲間だぞ?」


 鎧の一言に、カイトの反応は無い。


 アノンがカイトを見ると、鼻で笑い口を開いた。


「あーあ……辛気臭(しんきくさ)(つら)を見てると、こっちまで気分が落ち込んでくるぜ────」


 それでも反応は無い。ぎりっと歯を擦る音が聞こえると、次々に吐き捨てる。


「ガキが何思い上がってるんだ! 誰も覚悟が無く戦場に立ったと思うな!! テメエが弱いのは知ってんだよ……だからみんな強くなろうとするんだよ!!勘違いしたまま落ち込んでるんじゃねえ!!」


 僅かにだがカイトが反応する。視線を上げ、見詰め続ける。

 

「今までだって頑張った……それでも、これが現実だ」


 どこか諦めたように返す、それを聞いて尚……続ける。


「知ってるか? この国の外の勇者は、一人で大国がビビるほどの抑止力(よくしりょく)だ。『勇者を制する者は戦を制す』と言われるくらいに勇者は強い……だがそれだけじゃ、無えんだぜ?」


 口元を吊り上げ、笑みを浮かべる。傷だらけの体で必死に絞り出し、紡いで行く。 

 

「俺はお前なら、友情の神託を持ってして、蒼海を受け継ぐと信じてるからよ!! いつか必ず、お前にとって大切な仲間が現れる。そいつと共に、世界を救え────」


 鎧が手を振り下ろす。


「そいつの口を閉じろ……良かれと思って喋らせたが、所詮は雑種だな」


 槍が次々にアノンを貫いて行き、血飛沫が飛び散る。


 カイトの元に魂は導かれる。揺り籠(クレイドル)に宿り、中で強く輝く。


「うおおおおおお────────!!」


 カイトを包み込むように光が集約する。左手の神託が描き変わっていき、瞳に青が宿った。


 その光景に鎧は興奮気味に口を開く。


「“成った”……おお、これが噂に聞く勇者か!?」


 カイトが闘気を集中させると、螺旋を描くように空気が渦を巻き押さえていた兵士を根こそぎ吹き飛ばした。

  

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