ぶっ飛ばして差し上げましょう
ネメシスいや、ルナの口から語られた最古の神話という話。俺は黙って話の続きを聞き入る。
「彼方より世界の異物現る……天への門堅く閉ざされ、渡る事叶わず。八つの星縁に輝けど闇なお深し、稀なる者二つの星を宿す。星々を束ね導き、闇を払う」
重要な話のだろうが、古い文献のようなそれはイマイチ要領を得無い。何故こうも伝説的な物は周りくどい言い回しをしているのかと思う。
「この中でわかっている事が一つ、八つの星とは勇者を指しています」
イマイチ納得しかけていると、ルナの方から解説がある。しかし、8人とは何を意味する?
「勇者? 流石に俺も四星勇者の話は知ってるぞ? 他にも勇者がいるのか?」
「分からないのです」
首を横に振り話を否定する。勇者が他にいるなど聞いた事がない。
「勇者が大きく関わっているのは分かるのですが、肝心の導きの双星ついては分からず」
「結局は何が言いたかったんだ? 話が見えてこないんだが?」
「まず勇者とは、先天的な者では無く後天的な者。記憶を呼び覚ました者、転生者全てにその資格があります……ユウセイ、あなたは記憶を取り戻しましたね?」
「それはその通りだ……詰まりカグラで空いた穴を、俺が埋めろと言うことか?」
俺の意見を、肯定するようにルナが静かに頷く。輪廻の輪が巡り、その中で記憶を呼び覚ました者を転生者と呼ぶ。割と有名な話だが実際に体感した事のない人は信じていない者も多い。
技術の流入もあり難しくない物なら使われているものも多いと聞く。流石に戦闘機とかコテコテの技術とかは無理だが……。
「今にして思えばmなんかも使ってる人は多かったな……確かに便利だ」
当時は理解出来なかったものの、そう言う事だったのだろう。
「その話、何か関係あります?」
「ありません」
つい口に出してしまっていたようだ。無表情なせいで、怒っているのかすら分からないのが辛いな。
「簡潔に説明するとですね。世界の異物……ソレを何とかするのが勇者の役目だと言うことです」
「何とかって何だ」
全然簡潔じゃないぞと言いたくもなるが、言った所で意味は無いだろう。
「あなたは意地が悪い人ですね」
「悪い、自覚はある」
またもや余計な事を言い話の腰を折る。学習しないな俺も。
しかし何だろうか、上手くは説明できないが、言い知れぬ気持ち悪さがある。
「皆の手には、隷属印が刻まれていると言ったな。誰がそんな事をしているんだ?」
「神界にいる神の誰かと考えるのが妥当でしょう。神の中にも人界への干渉を強めるべきと言う考えを持つ者も少なくありません」
詰まりソレは最悪の状況を想定するなら、神を相手に戦わなければならない事を意味する。しかも殆どの勇者を敵に回すのも前提として。
唯一神に抵抗出来そうな勇者が向こう側……頭が痛くなるな。
「神にも派閥があるって所か? ルナもそうだが、何とも人間臭いものだな」
「すみません」
ルナは俯いてしまう……人間臭いと言えば、神と人間て何が違うんだ? 能力云々じゃなく、もっと本質的な、しかしその答えは出ない。
「別に謝る事じゃ無いだろ。ルナが悪い訳ではないし、状況もいろいろ違うしな」
とは言っても、これからどうしたものか……少なくともこの国を出て、隣国の勇者に会いに行くべきか? 勝てる見込みもないのに?
まあそこはルナと相談してから決めるとして、今は俺がどう勇者になるかどうかを考えることにした。
「なあ……ってまだ寝るのか」
ーー妙だ。何やら僅かに甘い香りがする。コレはガスか?
「か……しびーて……ません」
「くそっ毒ガスか!!」
ここは密閉された空間で、外から持ち込まなければ、そのような事になるはずが無い。当然何者かの仕業という事になる。
俺は急いで周囲を見渡す。逃げ場はない……それなら少々強引だが、突破することも視野に入れる。
「な!? 何で動けるんだ!?」
振り返り入り口の方を向くと、そこにはこの村の男たち3人の姿があった。当然誰がこんな事をしたかは明白であり、弁明の余地はなさそうだ。
「説明を要求するけど良いよな? ああ……答えなくて良い。お前たちには要はないんだ」
怒りを覚えてる暇はない。逃げ出す男達とは反対の方を向き、剣を構える。力の限振りかざす。長方形に刻み、ソレを蹴り飛ばす。分り切っている罠に飛び込むなど愚かな事だ。
「な、何だ!?」
後ろ側にも男たちがいたが、早々にルナを抱え込み、軽く様子を伺ってから外に飛び出す。
「何でこっちから出てくるんだよ!?」
俺は男たちが呆けている間に、そこを突破。最も、剣を構えただけで怯むのだから、難しくはない。
「行儀良く出てやる義理はない」
囲むように建物の周りに集まっていたようだが、裏側には武器持ちは無しか。一目見ても素人の包囲網だと分かるし、突破は難しくないのが分かる。
「怯むな!! 相手は1人だぞ!! 槍を持ってる者は前に出ろ!!」
魔法を打ってこないのを見るに、実戦レベルの使い手はいないと思われる。この状況で使わない意味は無いため、隠しているとも考えにくい。
「ルナ、動けるか?」
「すみません……まだ痺れが、少し」
まだ時間が必要となると、厄介だな。周りはじりじりと包囲を狭め、圧力を加え続けている。しかしソレで効力があるのは円に警戒されるだけの力があればこそ。
「総員投石!! 槍持ちは突撃!!」
「な!?」
目的はそっちか、してやられた。たかが石ころとは言え、大人数で投げられれば無視は出来ない。何よりルナを抱えた状態で対処を要求される。
風魔法とは言え、勢いを殺し切れるとは限らない。
「守護の光、我らを包み厄災を退け……ライトプロテクト!!」
突如現れた光の壁が俺たちを包むように展開され、石を弾き落としていく。槍は折れ、男達は慌てて逃げていく。ルナ……無理をさせてしまったな。
「ま、魔法を使いやがった!?」
「だ、駄目だ俺たちじゃ勝てねえ」
円陣は乱れ動揺が伝染していく。元々大した指揮も無かったため、対処は楽そうだ。
「ありがとう。助かった」
「ふう……礼は不要です。私の方こそ助かりました。ここまで守っていたただき、ありがとうございます」
何はともあれここから反撃と行かせてもらう。殺すつもりはないが、多少は痛い目を見て貰う。
「彼らにはお仕置きが必要ですね。ユウセイ、ぶっ飛ばして差し上げましょう」
「アンタとんでもないこと言うな、まあ同意見ではある」
相手方も面をくらったようで、何とも奇怪な表情を浮かべる。なんだかルナの性格がわかってきた気がする。




