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青鈴の騎士  作者: 畔木鴎
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一説『連なる青の近親者』4

 リレーティブルーとは主に森の中で見られる魔物である。人間よりも随分と背の低いその魔物は群れを作り、小さな村なら簡単に飲み込んでしまうこともある。かつてはリレーティブルーの群れに三ヶ月の間、籠城した辺境の城もあるほどにどこの国でも郊外に行くほどに恐れられている魔物であった。


 ギャレットが蹴り飛ばし、頭蓋を貫いたこの魔物たちの繁殖は極めて短いスパンで行われる。とある学者の論文によれば一個体の寿命は十年程度であるが、性成熟が早く多産であると記されている。

 その特性上どうしても近親の者と繁殖行為を行うことも多く、放っておけば近親交配による多数の不都合によって数は減っていくが、あらゆる生物にはそれを避けるための仕組みがあるものだ。


 ブルーに備わった仕組み。

 それは、他種族の雌個体を孕ませることができるというものであった。


 だからか、彼らと相対するギャレットの手に自然と力が入るのも無理のないことだろう。


(数が多い……。、何体追ってきたんだ。リレーティブルーのテリトリーが広すぎる。女一人にここまで追ってくるものか?)


 ブルーの数が多くなってきたために蹴りを控え、首を狙って剣を振るうギャレットの体には再び汗が吹き出しつつあった。

 元からあった落ち葉や土に加え、ブルーの血にも気を配らなければならない状況だ。ショートソードは血で濡れているし、柄もいつ滑って行ってしまってもおかしくはない。


「あああ!!ああぁぁぁーーー!」


 ギャレットのウォークライは神殿内部にこだまし、実際よりも大きくブルーの元まで響いていく。戦っている相手は一人だというのに、聞こえてくるのはそれ以上の声。神殿入口でたむろしていたブルーはそれだけで恐怖し、二の足を踏む。

 だがそれも一時の時間稼ぎにしかならないだろう。

 血濡れた手を胸元の布地で拭い、彼は一つの袋を取り出した。


 一つ一つの値段に涙を呑んで少しずつ数を揃えた袋の中身を神殿の入口にまき散らし、ギャレットは神殿内部のブルーを確実に仕留めていった。


「これで最後……!」


 今までの鬱憤を晴らすようにブルーの腹へとねじ込まれたつま先は速度を衰えさせずに振りぬかれ、神殿の壁へとゴブリンを張り付ける。

 扉付近で聞こえてくるブルーの悲鳴にギャレットは荒く息を整えつつ歩いて行った。


 彼が撒いた袋の中身は撒菱まきびしであり、ブルーは存外苦戦しているようだった。

 人間には手のひらサイズだとしても、彼らからしてみれば顔とほとんど同じ大きさの鉄の棘なのだ。手で隅によけるにしても、時間稼ぎの役目は果たしていた。


 ショートソードを剣帯に収めて柄に空いた穴に紐を通した短剣を取り出せば、彼は時折飛んでくる弓矢に気を付けてそれを投げつけた。後はブルーが諦めるのを待つか、この場に集まった彼らを全員殺すかのどちらかである。ギャレットが見た限りでは、未だに撒菱が突破される様子はない。


 紐を手繰り寄せて死体から短剣を手繰り寄せたギャレットがもう一度短剣を投げつけようと構えた時に、それは起こった。


 人を吹き飛ばせそうなほどの、強い風だった。


 外から内へ。神殿の中へと無理矢理に入ってくるような暴風にギャレットは目を細め、短剣が括り付けられた紐を握って離さないように踏ん張っていた。ギャレットは二十代の半ばであり、肉体的な衰えもそこまで感じられる歳ではないが、そうしていなければ到底耐えられそうになかった。

 いっそのこと地に伏してしまおうかと言う状況で彼の体が認識できたのは、体を押そうとする風圧と、神殿内部に響いて重厚な鐘の音のごとく聞こえてくる風の音だけである。


 神殿からそう遠くない町に居を構えて早三年。ここまで強い風が吹くという噂を聞いたこともなければ、己が感じたこともなかった。いくら町八分に近い扱いにあっている母子と接しているとはいっても、彼自身の評価がそこまで低いわけではない。

 だが何も言い含められていないのは、これが季節の関係で起こった事象ではないことを言外に伝えていた。で、あるならばだ。これは何をきっかけに起こったのか。ギャレットの中で答えはすぐに出てきた。


 撒菱を回収する暇もないほどに、風に流されるようにギャレットは走り出す。

 体幹を鍛えている彼ですらこの強い追い風の中を走るのは困難であり、何度転がりそうになったことか。それどころか、体が浮き上がるような感覚すらあった。


「エリー!エリー……!!返事をしてくれ、エリー!」


 叫び声よりも何よりも、神殿に響く風の音のほうが大きかった。


 きゅーーん、きゅーーん。

 きゅーーん……きゅーーん。


 体の隅々まで染み渡って重さを増すような響き。

 甲高い音のようでもありながら、何度も反射し耳に届くことで音が残って重く聞こえてくるそれ。


 頭が沸騰し始め、体の感覚が少しずつ失われていくことをギャレットは恐怖した。野外で意識を失うことの危険さを知っていたからだ。


 伸ばした腕が落ちて意識レベルの低下が起これば、次に目覚めたときギャレットは地面に寝かせられ、多数の女性に囲まれていた。

 全身のばねを使って起き上がった男を警戒するように、視線を一身に浴びたギャレットは冷や汗を流した。

 武器も取り上げられ、ツールホルダーも外されている。遠目に見えた武装した人間を見て、彼は視線を巡らせるのだった。

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