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青鈴の騎士  作者: 畔木鴎
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四節『剣士の飛び方』1

 レープハフトの声がギャレットを歓迎した。他に客が居るわけでもないが静かに扉を開けた宿での一幕である。


「おはようございます……と言っても深夜帯ですが。何か体調に問題は」

「大丈夫ですよ。無駄に各地を転々とはしていません」

「それは上々」


 小さな蝋燭が揺らす温かな光の中、一つの机を囲んだ四人は互いの顔を見合わせてこれからの動きを話しはじめた。自分には何が何ができないのか。こんな道具を持っていて、どういう場面に役に立つのか。つまりはそういう話である。


「遺跡群にはリレーティブルーの群れがあります。住居の跡を住処として巨大な群れを作っているようでしたが、市街地戦であればこちらに分があります。茂みの中からの狙撃には注意が必要でしょうけど、今回はオオモヤさんが間に合わせた薬で場をしのげるはずです」


 ギャレットが告げた想定の戦場で、レープハフトの護衛二人は自分が出来ることを確認していく。今更に考えることではないが夜はまだ長い。最初に口を開いたのは、ロリスと呼ばれるくすんだ茶髪の男だった。


「遺跡の大まかな広さでも分かればいいんだが……まぁ、そう上手い話もないか。見た感じ長物なんて持ってくる馬鹿は居ないようだし、そう苦労することもないんじゃないか?リレーティブルーに圧殺されないように小回りの利く武器を持ってきたつもりだ。ミハイルなんかは鞭の達人だからな。俺らはこいつを護ってるだけで勝てちまう」


 ミハイルと呼ばれた男は「そんなわけないだろ」と肩に組まれた腕を払いのけた。


「武器は一通り扱えるが、鞭を使う以上は住居跡に籠っているわけにもいかない。出来れば視界の開けた場所、そうだな、鞭を凪いでも味方に当たらないぐらいの空間が好ましい」

「市街地と言ってもそう密集しているわけではないようでしたし、もしかしたら鞭の腕前を見せてもらうことになるかもしれません。僕の方で足止め用の道具をいくつか用意してありますから、少数であれば誘い込むのもありかもしれませんね」

「そういうことなら商人の出番でしょうとも。出張った用事が用事とはいえ、これでも商人ですからね。道具の類は潤沢に持ち合わせていますよ。それと、この場には居ませんが荷物持ちとして一人だけ参加することになってますから持ち込める道具も増えるでしょう」

「ああ、あの坊主か」


 ギャレットは軽く首をかしげたが、すぐに思いついたかのように一人で納得していた。命知らずな馬鹿というのが彼の感想だが、レープハフトたちからすればもしもの時に盾になる便利な荷物持ちである。戦闘能力が皆無だったとしても、一人ぐらいであれば連れて行っても構わないのかもしれない。

 そもそもこの場に呼ばれていない時点である程度はお察しなのだが。


「なんにせよ遺跡群の周囲は深い森がありますから、そこに罠を張るのでいいですか?ミハイルさんが鞭を扱えるのなら殲滅も楽になりますし、相手が警戒してくれるのならある程度は動きやすくなるでしょう」

「ではそこに設置する罠ですが……、普段はどんなものを?こういった情報にはとんと疎いもので」

「縄を張って転げさせるのが一番楽ですけど量が量ですからね。落とし穴も時間と手間を考えれば効果が薄いでしょうし、爆薬を使うのが一番確実ですかね」

「遺跡に損傷がでないならそれがいいんじゃないか?陽動としても十分だろ」

「そこで注意を引くなら……、他の奴は住居跡の占領がいったんのの目的になるか。道幅が狭くとも狭くなくとも角がある以上は奇襲もかけやすい」


 作戦の内容はギャレット、ロリス、ミハイルを中心として進められた。レープハフトも時折口を開くが、それは有用な道具を自らが持ち合わせている時だけで、基本的には聞きに徹していた。もう少し戦える人数に余裕があればこうして戦地に出ることもなかったろう彼は、内心で祖国に愚痴をこぼして会話に頷いていた。

 重要な任務を任せられたのは嬉しいが、この人数を見てわかるように彼は少し目立ち過ぎてしまったのだ。成功を急ぐ一商人にしては、彼の歩幅は非常に大きかった。


 「……まあ、こんな感じで。そろそろいい時間ですし出発しましょうか。今から出たら日の出までにはたどり着けるでしょう」


 この言葉を最後に部屋の中を照らしていた蝋燭が吹き消され、少しの時間を置いて彼らは宿を出ていった。夜ということもあって静まり返った町の中を進むことに緊張感を感じるものの、ギャレットにとっては冷えた夜の風が心地よく自らの熱を奪い取ってくれているように感じられた。


 夜の町に浮かぶように松明が輝く門には門番と一人の少年が立っており、少年は一団を見つけて走って彼らの元までやってきた。ロリスはその行動に眉をしかめ、ミハイルは細く息を吐き出す。これから戦いに行くというのに、わざと音を立てるような行動は褒められたものではなかったからだ。

 走るにしても足音を消すように努力すればまた違ったのだが、緊張しているのだろう少年の狭まった視野には選択肢が見えていない。


「悪いけど、静かに動くよう徹底してくれ」と、ギャレットが放った言葉にも目に見えて眉を顰めるのだから、いかんせん好奇心に侵された少年というものは扱いが難しい。

 ヘマしないだろうな、と少年を除く四人が思ったのも仕方のないことだろう。

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